映像制作プロジェクト「チーム万力」を組む斎藤工と清水康彦が、菅田将暉主演映画『CUBE 一度入ったら、最後』(10月22日公開)に参加した。密室スリラーの先駆けとして世界中でカルト的人気を誇るヴィンチェンゾ・ナタリ監督による映画『CUBE』(1997)が原案。死と隣り合わせにある迷宮“CUBE”のなかで極限状態に陥いた人間の本性を映し出す。斎藤は、脱出を試みるメンバーの一人で整備士の井手を演じ、清水はメガホンを握る。清水を、世界で通用する才能があると絶賛する斎藤は、清水とのこれまでの制作活動が線になっていく感覚があるといい、清水節が表れた本作も大事な作品と自信を見せる。本作制作の経緯、そして撮影秘話を聞く。【取材・撮影=木村武雄】
点が線になる瞬間
――本作への参加が決まった経緯は?
斎藤工 耳に入った順番としては、プロジェクトの立ち上がり、当初は海外のヴィンチェンゾチームのエッセンスの強い撮影を組むという事でした。その時にこのお話を頂きましたが、清水さんとは、監督が清水さんに決まる前に、別の作品を作っていました。
清水康彦 斎藤さんは、僕なんかよりも先に決まっていたんだよね。
斎藤工 そうした流れもあって、今回は通例とは違う基軸で関わらせてもらっている作品なので、清水さんがそこにアジャストされていく流れを見てきた観客でもあるという不思議な感じです。
清水康彦 斎藤さんはその流れを楽しんでいたんです(笑)。
斎藤工 『CUBE』という不朽の名作と言われる作品を商業的だけではなく、感覚的に撮れる人は清水さんしかいないんじゃないかと一映画ファンとして思っていましたし、『MANRIKI』を清水さんにお願いしたいと思ったのも同じような理由でしたので、『CUBE』に繋がることは、実は僕の中では自然であったわけです。親心じゃないですけど…(笑)。
清水康彦 僕は子供のように聞いていたけどね(笑)。
斎藤工 不思議な、宝塚発表の日みたいな感覚で僕は立ち合いましたからね(笑)。「番号があった!」っていうような瞬間。安藤裕子さんのミュージックビデオの編集室にいたんですよ、この2人が。そうした特殊な、僕自身としても作品としても清水さんのクリエーションとしても、点ではない、線になっていく瞬間がものすごいドラマチックでした。公開を迎えることがとても感慨深いです。
――清水監督は、ご自身がメガホンを握るという役割、特色をどうとらえて臨まれましたか。
清水康彦 今回の話を頂いた時に、どの部分をしっかりやれば『CUBE』というものになるかというのがすぐにピンと来たというのが正直なところです。オリジナルを見ていた時に『CUBE』で伝えようとしている事を自分なりに掴んでいた気持ちではありました。例えば、極限状態に陥ると人間はこうなっちゃうんだということや、この状況だからこそ自分と向き合って生きていくんだとか。「『CUBE』、どうですか?」と言われた時に、大変さや細かい事はさておき、出来るんだったらやりたいと二つ返事みたいな感じでした。あくまでもシチュエーションスリラーやパニックムービーみたいなことかもしれないけど、人を描くことにすごく興味を持っていたので、新たなステージで試すきっかけになるんじゃないかと思って。斎藤さんの映像を完成させる編集室で連絡が来て「監督決まったって」「やった!」という感じでした。
斎藤工 菅田さんも感動したと言っていたのが、監督が絵コンテを作られたんです。一度、例えば船がどこに向かうかと途中でちょっと座礁した時も、監督はビジョンがはっきりしていて、それを伝える手段も速度も素晴らしく核心的で「この監督についていきたいと思った」と言っていました。ほとばしる感情だけじゃなく、具体的に映像を作るチームにオリジナルのヴィンチェンゾを含めた人たちにどう伝えるかという、伝え方も素晴らしかったんだと思います。そこに運命の手綱はあったんだなって。それを清水さんはしっかりと掴まれていたというか、覚悟がずっとあった人なんだな、とぐっときました。
清水康彦 ありがたいですね。
――斎藤さんは、清水監督は将来世界に行けると対談でおっしゃっていましたが、そうした一つのビジョンのもとに、この作品も線に繋がっていく大事な作品になると。
斎藤工 かつての作品『MANRIKI』も含めてですが、ただのアーカイブでもないし、未だに作品単体として、清水さんのクリエーションというのは、今までの作品も世界で戦うべきレベルを持っていると一映像ファンとしては思います。その分母が今回はさらに大きくなるということで、清水さんが監督として高い山を登っていく姿というのは見ていきたいです。対談の時にそのような夢を語ったこともあるんですけど、それ以上に『CUBE』をきっかけに今までの過去作や清水さんの世界観をもっと知りたいっていうきっかけになったら良いなと思いますし、オリジナルの『CUBE』を知らない世代の子達が辿り着くきっかけが、今回の『CUBE』になったらいいなと思います。
音なき音
――清水監督の映像作品の一番の魅力は。
斎藤工 語源化できない感覚的なところではありますが、そこにあるバイオリズムみたいな、音なき音みたいなのがあって。継ぎはぎではなく、脈々と流れる清水さんのバイオリズムがあって、その感覚が、正解なき世界なのに、正解な気がしているというか。金子ノブアキさんの「オルカ」というミュージックビデオを観た時に理屈ではなく掴まれて、調べたら清水康彦さんが監督していることを知って。そこから僕の中では始まっていて。
その頃から海外の映画祭に参加させてもらっていたんですけど、映画祭では今まで観た事のない、感じた事もない物を観た時に歓声が湧くんです。特にヨーロッパの映画祭とか。そういうところで清水さんの映画が上映された時にめちゃくちゃ湧くだろうなという確証があって、『MANRIKI』も韓国とフランスで賞を獲っていますけど、作品の世界に観客が乗っ取られるというか、そういう大きな世界観。それが商業の脳みそだけじゃ作られない、作家性がしっかりある監督って正直数少ないと思っていて、万能型な人はたくさんいるけど、しっかり清水節があるっていう。
それはたぶんチーム編成もそうだし、さらに今回は撮影監督として栗田(豊通)さんという日本映画界のレジェントが融合しているので、現場の景色も美しかったですね。お互いがリスペクトしあって、スタッフさん同士が自分の経験値と相手のアイデアを擦り合わせながら良いものを作ろうとしていて。僕は清水組のファンでもあるなと思います。
清水康彦 監督よりも監督らしい事を言いますよね、斎藤さんは(笑)。僕は斎藤さんに「監督つぶし」って裏の名前をつけているんですけど(笑)、だいたい斎藤さんの後に僕が質問されるので、話すことがなくなっている状況が続いているという事はちょっとこの場を借りて言わせてもらいたいな。ひどいんですよね。良い言葉言うよなって聞き入っているけど、次俺聞かれたらどうしようっていう気もちがすごくあって。いつも歯噛みしているんですよ(笑)
――その関係性が良いですね(笑)。撮影現場はオリジナル同様にセットが組まれ、名俳優も揃い、自分が思い描いたものを形にしやすい環境でもあったと思いますが。
清水康彦 今回なりのこだわりどころではないのかもしれないけど、現場のムードはすごく大事にしています。変にイライラしている人とかいないように常に隙間を作ったりとか、誰かがイライラする前にとか、自分が迷うことで現場を止めてしまうとか、キャスト同士楽しくなるように心掛けたりします。最終的に映像に良い画が撮れるとか、いい表情が撮れるとかっていうのは、そこまでこだわっていなくて、どちらかというと、みんなが納得して生き生きやっているかという事の方がめちゃくちゃ大事だと思っています。
でも状況がいつもと違うので苦労しました。朝起きてみんながスタジオに集まってきて、また明日って会社みたいな感じだったので、いつもだったらロケ地が変わったタイミングで切り替えていこうとか出来るんですが、なかなかコツが要りました。いち早くいいムードを作ることが大事だなと思って、ワンシチュエーションで撮っていく上で知っている人と言いうのは力になるんです。だから頼りました、斎藤さんは。裏できっと僕の事を他のキャストに説明してくれているんだろうなと想像しながら、楽屋に下がって行ったあと、2、3個くらい僕のプレゼンして戻ってきてくれるはずだとかいう感覚があるわけです。「あいつはこういうスタイルでやっている」とか。現場で「ん?」と思っても、「編集でなんとかする監督だから」とか。
斎藤工 それは言った(笑)。今日久々に会って完成した作品を観たみなさんの、清水監督に対する眼差しというか、思いみたいなものがしっかりと確証に変わっていて、今までも清水監督と役者さんとの出会いをたくさん見てきているんですけど、そこが僕にとって最大の見どころでもあるんです。僕も清水さんの感覚とか才能に惚れ込んでいる一人なので、共有した感じというのが心地良くて。
――良き理解者でもありますね。
斎藤工 いやいや、客席にいる自分というのはこれからも拭えないと思うんですけど、映画少年の頃に、どういう夢を描いて、チケット買って客席に座っていたかっていう感覚だと、初体験をくれる監督というか、そういう作品に僕は夢を描いて映画館に入って来ていたので、清水さんの作品というのはそれがある数少ない邦画のフィルム映画だなと思っています。
清水康彦 自分の中ではそんなのはなくて、理想の映画像というのを全部教えてくれるから、それに僕がついていっているだけなんです。
――改めて良い関係性ですね。
斎藤工 分からないですよ。この後の取材で禁制に触れて殴り合いになって、二度と会わないってなっているかも(笑)
井手の登場シーンに秘密
――斎藤さんが演じた井手の登場シーンは、役名もそうなんですが、ウルトラマンの登場シーンだと思いました。あれは狙ったんですか?
清水康彦 なるほど(笑)。
斎藤工 そういうことにしましょう(笑)。
――前後の音楽もすごく不気味な音からビット音楽になっていて、それは“キューブ”を意識されているのかと。
斎藤工 監督! 全部頷いていますけど…(笑)。
清水康彦 本当、おっしゃる通り(笑)。
斎藤工 井手隊員ですよ。
清水康彦 名字一緒なの?
斎藤工 それはちょっと言えないんですけど。
――それはたぶん掛けたんですもんね。
斎藤工 それはそういう事にしましょう。
清水康彦 サイドストーリーとして。『シン・CUBE』(笑)
(おわり)