INTERVIEW

大原櫻子

いろんな色に染まりたい。
『犬部!』舞台裏、役に投影された生き様


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:21年07月31日

読了時間:約6分

 大原櫻子が、映画『犬部!』(篠原哲雄監督)に出演している。片野ゆか氏著「北里大学獣医学部 犬部!」(ポプラ社刊)が原案。設立した獣医学部の学生をモデルにした主人公の、仲間たちと共に動物を守ろうと奮闘した過去と、獣医師となって一人で新たな問題に立ち向かう現代の姿を描く。大原は主人公の後輩で卒業後も大学に残り研究者になった佐備川よしみを演じている。歌手としても活躍する大原は音楽も演じている感覚があるという。「いろんな色に染まり、いろんなことを表現したい」と語る大原は本作ではどのように向き合ったのか。撮影を振り返りながら彼女の考えに迫る。【取材・撮影=木村武雄】

時間の流れ、成長の姿を表現したかった

 佐備川よしみは、花井颯太(演・林遣都)の心意気を慕う猫好きの獣医学部大学生。動物の命を多く救いたいと颯太が中心となって立ち上げる「犬部」の創設メンバー。台本を読んだ時に感じたよしみへの印象は。

 「よしみは、颯太にもちゃんと意見を言え、猫を助けたいという強い思いや、ワクチン開発に励んでいる姿から、芯があって、強さを持っていると思いました。動物が可愛いだけで安易に接するのではなく、覚悟を持たないといけない。そういう人の『やってやるぞ』『救うぞ』という強さに共感しました」

 颯太をはじめ「犬部」の仲間たちは大学卒業後、獣医師や動物保護センターなどへ進み、それぞれの立場で動物を守ろうと励む。よしみは大学に残り、猫のワクチン開発などの研究に勤しむ。学生時代と現代。演じる上で意識したことは何か。

 「学生の頃のよしみは、元気に明るく盛り上げるという感じでしたが、16年後は研究者という責任を持った大人ですのでその差は意識しました。そのなかでも、よしみを通して一人の人間が成長している姿を表現したいと思いました」

 「一人の人間が成長している姿」。それを象徴するシーンがある。大学の研究室での一コマだ。研究員となったよしみだが、一朝一夕にはいかないFIP(猫伝染性腹膜炎)のワクチン開発に本音をのぞかせる。明るい性格が印象的だった大学時代には見られなかった表情だ。本編にしてたった数分のシーンに、よしみのこの十数年の歩みが凝縮されている。

 「そのシーンはすごく大事にしました。よしみが、なぜこの仕事をしているのか、なぜここまで開発に一生懸命になれるのかという彼女の根底が分かるシーンだと思いました」

 その一方で、過去の自分自身に投影させていたという。

 「デビューした頃に悔しい思いをして、一生懸命お仕事をして色んな人を元気にさせて見返したいというのが原動力になっていました。きっとよしみも、悲しさや悔しさをバネにして頑張れているんだろうと思い、自然と当時の私に重ねながらセリフを言っていました」

大原櫻子

オールロケ、共演者、動物との芝居で生まれたリアル

 演じる上では「犬部」のメンバーにも助けられた。颯太を演じた林遣都は本作が初共演、颯太の同級生でありよしみの先輩・柴崎涼介を演じる中川大志、教授の実習を手伝う同級生・秋田智彦の浅香航大とは共演経験がある。

 「遣都さんが出演されている舞台やドラマはずっと見ていましたので、初対面した時に『あっあの遣都さんだ! 宜しく願いします!』という感じでした(笑)。大志くんや浅香さんは共演経験があるので過ごしやすかったですし、浅香さんは現場のムードメーカーみたいな存在でした。男性が多い現場でしたが、みんな飾らなくて居やすかったですし、演じやすかったです。学生の雰囲気も現場で自然に出ていたので、それがちゃんと映像にも表れていると思います」

 撮影は去年夏、青森県十和田市を中心にロケ。動物に囲まれた環境や大自然というロケーションは役作りの一助にもなった。

 「動物は本番が回るまでどんな芝居をするが分からないので『お願いこっち向いて!』みたいな感じもありましたが、終始癒されていました(笑)。もちろんひっかき傷もたくさんありました。でも動物と一緒にいたらそういう傷は当たり前にあると思いますし、そこに愛があれば痛くもかゆくもない。動物に限らず、大自然でのロケでしたので、枝で足をケガすることもありましたが、こういう環境にいれば普通の事だと思いますし、逆にリアルさが出たと思います」

大原櫻子

何かになり表現することが好き

 そんな大原を一躍有名にさせたのは、2013年12月公開の映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』のヒロイン役。5000人の中から選ばれ、当時話題になった。劇中バンド「MUSH&Co.」で音楽デビューもしている。あれから来年で10年を迎える。

 「あっという間でした。こんなに月日が経つのは早いのかと驚きしかないです。まだまだ新参者の気分でいます(笑)。当時から歌とお芝居の両方を続けたいと思っていて、それが今でも出来ているので感謝しています」

 今年3月には、約1年ぶりで5枚目となるオリジナルアルバム『l』(エル)をリリースした。制作当時は「混乱していて大変だった」と語っていたがその真意は何か。

 「私は役に染まってしまうタイプで、芝居のお仕事を終わった後に音楽活動をすると『歌手としての大原櫻子ってどんな人だっけ?』という感覚になってしまうんです。毎回、それに行き詰まって、殻を破れなくてモヤモヤしている自分がいます」

 音楽と芝居を平行しているアーティストには、「音楽は自分が出せる場所」と答える人もいれば、「音楽と芝居は同じ」という人もいる。大原の場合はどちらか。

 「私の場合は、書いて頂いた曲を歌うことが多いので、歌う時、歌の主人公の役作りをして歌っています。もちろん私が作った曲は私自身ではあります。でも、自分にはない何かに扮するというのはすごく楽しいので、音楽も芝居も一緒かもしれませんし、自分ではない何かを表現すること自体が好きなのかもしれないです」

 そのアルバム『l』の1曲目に収録されているのが、いしわたり淳治が作詞、丸谷マナブが作曲した『STARTLINE』。新たなスタートを切るかのような力強さがある。決意表明ともとれる曲だが、こうした曲は大原にとってどんな存在か。

 「私自身に重なるところがあるからこそ歌いたいと思っています。音楽は、自分にない表現方法によって感情を拡大させて表現できると言いますか。私はそんなに怒るタイプでもありませんし、歌う曲に激しいロックはないのですが、怒りをロックにぶつけるように、自分の中にある感情をエンターテインメントとして表現できる感じはあります」

 役に入りすぎ自分が見えなくなるとも話していたが、それならば「大原櫻子」の核となる私らしさとは何か。

 「パレットのようにずっと白色でいたいと思っていて、いろんな色に染まりたいですし、染められたい。自分らしさを持たないというわけではなく、自分の中でのポリシーは持ちつつ順応できるように決めすぎないという、それが私らしさです。でも、役を演じる時はその役に私は塗られるので、そこから白に戻すのが難しいんですけどね(笑)」

 それだけ役にも音楽にも向き合っている大原。本作で言えば、よしみ、ひいては『犬部!』という作品に染められた大原の生き様は本作の見どころの一つと言えそうだ。

大原櫻子

(おわり)

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