ポルノ岡野昭仁、配信ライヴ「DISPATCHERS vol.2」開催「居心地がいい“離れ”ができた」
岡野昭仁
岡野昭仁が7月25日、ソロとして2度目となる配信ライヴ「DISPATCHERS vol.2」を開催した。今年4月の「DISPATCHERS vol.1」は事前収録スタイルのライヴとすることで、ライヴハウスや屋外など様々なシチュエーションで歌う昭仁の姿を堪能させてくれていたが、今回は完全生ライヴとしてより生々しく、エモーショナルなパフォーマンスを届けてくれることとなった。
“新たな音楽探訪が始まる”――そんな惹句に導かれるようにステージへ登場した昭仁は、アコースティックギターをつま弾きながら、ゆっくりと歌い始める。1曲目はポルノグラフィティの「ギフト」。たった1人で、自らの呼吸感で弾き語っていくことで生まれる心地良い緩急は、そこに込められたストレートなメッセージをより鮮やかに聴き手の胸へと運ぶ。続く「リンク」もポルノグラフィティのナンバー。巻き舌を随所に織り交ぜたボーカルや、アウトロでのスキャットやフェイクによって原曲とは異なるニュアンスがしっかりと提示されている。シンプルなスタイルだからこそ伝わる歌い手としての矜持に溢れたオープニングとなった。
3曲目以降は、ポルノグラフィティのライヴでもおなじみのtasuku(G)と、今回が初の顔合わせとなる渡辺シュンスケ(Key)と共に、様々な楽曲のカバーをすることで日本の輝かしい音楽史を辿っていくことに。前回の配信ライヴでは昭仁もギターを弾きながら歌うシーンがメインとなっていたが、今回はよりボーカリストに徹することでさらに豊かで、ふくよかな歌が表現されていく。あいみょんの「マリーゴールド」で瑞々しさを感じさせる歌声を響かせたかと思えば、Mr.Children「HANABI」では儚さの中にある希望を真摯に歌い上げていく。時代を超越した名曲たちに真っ向からぶつかりながら、そのすべてを岡野昭仁色に染め上げていく姿は本当に頼もしいものだ。
MCではリアルタイムで流れていくチャットのコメントを読み上げることで、視聴者とのコミュニケーションを楽しむ。ライヴ冒頭での声の調子を心配するコメントに対しては「ちょっと張り切りすぎたかも(笑)」と語っていたが、ライヴが進むにつれて声のノリや艶はどんどんと増していくことになる。そこもまた“生ライヴ”ならではの醍醐味と言えるだろう。
自らの青春時代の感情をシティポップなサウンドに投影して届けられたのは、Awesome City Clubの「勿忘」。「今の時代のアンセムになるような曲」と紹介したSUPER BEAVER「人として」では、“信じ続けるしかないじゃないか”“愛し続けるしかないじゃないか”という強力なフレーズを力いっぱいに届けていく。次のパートでは1974年生まれの昭仁が、同世代のアーティストへの共感とリスペクトを込めた2曲を。くるりの「JUBILEE」では、ピアノと歌のみで切なさを秘めた美しい景色を描き出す。ピアノにスライドギターを加え、そこにいる3人だけで奏でられたのはSUPER BUTTER DOGの「サヨナラCOLOR」。心地良い音像の中、言葉ひとつひとつを丁寧に紡いでいく昭仁の歌が聴き手の心に柔らかく沁み込んでいった。
UAの「情熱」を披露する前には、彼女のアルバム「11」(1996年リリース)で受けた衝撃を語る昭仁。そこで朝本浩文の手腕に惹かれたことが後にポルノグラフィティの「生まれた街」の作曲オファーに繋がったというエピソードが印象的だった。さらに、松任谷由実と小田和正、財津和夫というレジェンド級の3人のコラボによる1985年の名曲「今だから」の思い出話もおもしろい。当時11歳だった昭仁少年は、「オレたちひょうきん族」で山田邦子らが歌っていたことでこの曲と出会い、そこから原曲を聴くことになったのだという。そんなエピソードを楽しそうに語る昭仁には、ピュアな音楽ファン、音楽フリークとしての表情が浮かんでいた。その人生の中で様々な音楽に触れ合い、ボーカリストとしてたくさんの影響を受けてきたことが垣間見えたのは非常に貴重な瞬間だったようにも思う。原曲に寄り添ったグルーブを感じさせてくれた「情熱」も、80年代を意識したアレンジが光る「今だから」も、素晴らしいカヴァーになっていたことは言うまでもない。
7年前の2014年に一度開催されたカヴァーライヴでも披露されていたという米津玄師の「アイネクライネ」を愛情たっぷりに歌い、そして原曲が持つ圧倒的な世界観を丁寧な歌声で彩っていったフジファブリック「若者のすべて」で、全10曲に及んだ日本の音楽史を探訪するカヴァーパートは幕を閉じた。
自身の愛する音楽に身を委ね、歌うことに没入する時間。それに対して昭仁は、「いやー、めっちゃ楽しんでるわ(笑)」と相好を崩す。そこからアコギを抱え、ステージ上のベンチに座って弾き語りで歌われたのはポルノグラフィティ の「フラワー」。ここまで敬愛する様々な名曲群を自分色に染めてきたわけだが、やはり自らが作曲を手掛け、相方である新藤晴一の言葉が躍る楽曲に向き合う姿は実にしっくりくるものがある。その安心感はソロを経験したからこそより色鮮やかになったものでもあるのだろう。
ラストパートは、ソロとして配信してきた楽曲を3連発で。その存在がソロとしての大きな起爆剤となったという奇才・辻村有記が手がけたエレクトロナンバー「Shaft of Light」での斬新な表現はより一層馴染んできた印象がある。間奏やアウトロでの圧倒的なフェイクもしびれるものがあった。澤野弘之が作曲・アレンジを手掛け、ヨルシカのn-bunaが歌詞を手掛けた「光あれ」は、ソロ始動曲としてあらためて大きな存在感を放つ。そして、前回の配信ライヴ以降、新たにラインナップに加わった「その先の光へ」は、澤野弘之の曲に尊敬する先輩であるスガ シカオが言葉をのせたことで、タイトル通りソロとしての“その先”を示唆する1曲になった。
充実した活動を通して、岡野昭仁の「歌を抱えて、歩いていく」プロジェクトはどんどんと成熟し、より力強い光を放ち始めている。2度目となる今回の配信ライヴは、そんなことを強く実感させてくれる内容だったと思う。となれば、次の動きにも期待してしまうわけだが……。
「このソロプロジェクトはこの先も続いていきます。いろんな方の力を借りて居心地がいい“離れ”ができたなと思うんですけど、まあでもそれはポルノグラフィティという “母屋”があるからこそでもあって。なので、そろそろ母屋の様子を見に帰らにゃいけんなと思ってますので、その辺は乞うご期待ということで」
ソロとしての次なる動きはもちろん、この一連のソロプロジェクトでの経験が“母屋”であるポルノグラフィティにどう還元されるのかも非常に楽しみなところだ。配信ライヴのラスト、画面に浮かび上がったことば――“自分の壁をぶっ壊して、進め その先の光へ”。それはすべてのファンに向けたメッセージであるのと同時に、昭仁自身にとっての強い思いでもあるはずだ。【もりひでゆき】
セットリスト
01.ギフト
02.リンク
03.マリーゴールド
04.HANABI
05.勿忘
06.人として
07.JUBILEE
08.サヨナラCOLOR
09.情熱
10.今だから
11.アイネクライネ
12.若者のすべて
13.フラワー
14.Shaft of Light
15.光あれ
16.その先の光へ