INTERVIEW

山口乃々華

「一歩先が見えるようになってきた」芝居への意欲:a new musical『ヴァグラント』


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:23年06月30日

読了時間:約8分

 山口乃々華が、8月19日より明治座で上演がスタートするa new musical『ヴァグラント』に出演。親殺しの犯人を探し続けるトキ子を演じる。本作はポルノグラフィティのギタリスト・新藤晴一がプロデュースし、平間壮一と廣野凌大のダブルキャストで、大正時代の炭鉱を舞台に繰り広げられる完全オリジナル新作ミュージカル作品。インタビューでは、「トキ子は自分自身とは真逆な役」だと話す山口に、ミュージカルに臨む姿勢から、役者として追求していきたいことについて話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

その時代を生きているような感覚になれる作品

――出演が決まった時の心境は?

 長い時間をかけて、「この作品に参加しませんか?」というお話しをしてくださったというのを聞いて、その熱意に感動しました。私は「ぜひやらせてください!」という気持ちでした。

――役が決まった時、どんなことを考えましたか。

 自分自身とは真逆な役が来たなと思いました。凛としていて、何ごとにも揺るがないものを持っているような人だと思いました。取締隊の隊長で、とても力強くて男勝なイメージのある役柄なので、私も意地みたいなものは強い方なのですが、私とはかけ離れている気がします。

――a new musical『ヴァグラント』はどんな作品になりそうですか。

 炭鉱のとあるムラの話なのですが、米騒動とか歴史の教科書などでしか知らなかったようなワードが出てきたり、きれい事だけじゃない生々しいやりとりもある作品だと思いました。現実とファンタジーがミックスされてはいるのですが、その時代を生きているような感覚になれるミュージカルになると思います。

――山口さん演じるトキ子は、小南満佑子さんとダブルキャストですが、ダブルキャストについてはどのように感じていますか。

 ダブルキャストは何度か経験があるのですが、私は自分のことを客観的に見れなくなってしまうタイプなので、自分と同じ役を他の役者さんが演じられているのを見ると、勉強になる部分がすごくあるのでダブルキャストは嬉しいです。

――小南さんの印象はいかがですか?

 少しお話しただけなんですけど、すごく優しくて、飛び込んでも許してくれるような懐の大きな方だなと思いました。

――4月30日に開催されたイベント『Hibiya Festival2023』で、本作の楽曲を歌唱されましたが、キャストの皆さんと一緒に歌ってみていかがでしたか。

 皆さん本当にプロフェッショナルで尊敬しています。日々学ばせていただいているのですが、人間性がすごく素敵なんです。そして、人を楽しませるということを率先してやられている方々です。私はまだまだ自分のことで精一杯なので、自分に足りないところは皆さんに支えてもらおうと思っています(笑)。

――大正時代が舞台なのですが、大正時代と聞いて思うことは?

 祖母の家が岐阜にあるんですけど、そこに「日本大正村」という大正ロマンの会館があって、私はそこでよく遊んでいました。なので、私の中で大正時代と聞くと「日本大正村」のイメージが強いんです。そこで見た物は、手間がかかっていて、一つひとつが重厚感のあるものが多い印象を受けました。役を通して「日本大正村」で見た時代を生きられるのが楽しみです。

――まだ稽古前ですが、いま準備はどのようなことをされていますか。(取材時は4月下旬)

 まだあまり準備は進んでいないのですが、衣装の軍服やサーベルがかなり重いんです。その重さに負けないようにしなければというのと、アクションシーンもあるので、まずは体力作りをしっかりやっておきたいなと思っています。

相談は存分にしようと思っている

――山口さんはミュージカル、ステージで歌うことについて、今どんな思いがありますか?

 舞台は緊張した中でいつも演じているんですけど、ちょっと集中力が途切れると歌のピッチがずれてしまう。気持ちを逃してしまうと次のセリフが軽くなってしまったりするので、毎回いろんな反省があります。トライ&エラーといった感じで、常に挑戦という気持ちなんです。

 ミュージカルで、歌で表現するということはものすごくエネルギーが必要なのですが、その分皆さんにパワーを伝えられる。それによって出来上がる空気感みたいなものがあるなと感じています。それをもっと存分に伝えること、情報量がより増えていけばと思っています。

――いろいろプレッシャーがあると思いますが、それを払拭するためにやっていることはありますか。

 プレッシャーとか吹き飛ばせないタイプなので、ミュージカル『SPY×FAMILY』でご一緒した木内健人さんに「すごく緊張してしまうので、どうしたらいいですか?」とお聞きしたことがありました。木内さんは「手に何か固いものを握るのがいいよ」と教えてくださいました。そうすることで余計な力が他に分散されるから、心もとないときにいいとのことでした。そして、朝夏まなとさんは「みんな経験してるから大丈夫」とお話してくださって、色んな方のお話を聞いて、みんなも戦ってるんだと知って、心強くなれました。

――そういったアドバイスは心強いですね!

 あと、ちょっとずるいんですけど、私はみんなに「私、緊張してるから」と先に言ってしまいます(笑)。

――今回もキャストの皆さんに助けていただけそうですか?

 本当は自力で何とかしたいんですよ(笑)。どうしようもなく不安に襲われてしまう時があるんですけど、今回も舞台経験豊富な方がたくさんいらっしゃるので、相談は存分にしようと思っています。

――ミュージカルの出演が続いていますが、作品に出て最高だと思う瞬間は?

 最高の瞬間はお客さんから拍手をもらった時と、緊張から解き放たれた時です。毎公演命がけといった気持ちで舞台に立っているので、お客さんから拍手をいただくと自然と涙が出ます。

――緊張から解き放たれた時というのは、カーテンコールですか?

 カーテンコールでは、まだ緊張から解放されないんです。本当に全部が終わって、衣装も脱いだ時にやっと「今日もやりきれた!」みたいな感覚になれるんです。

――今回公演される場所が明治座と歌舞伎座なのですが、思うことはありますか。

 戦前からあった明治座に立たせていただけるというのはすごく嬉しいです。有名な劇場というのはもちろんですが、たくさんの人がここでお芝居して、色んなものを届けてきたという事実があるので、私もすごく神聖な気持ちになります。

――明治座は初めてですか。 

 初めてです。観劇は2回ほどしたことがあります。幕間にお弁当休憩があったり、古き良きと言いますか、私は「こんな習慣があるんだ」と新鮮でした。私にとって明治座はすごく遠い存在なのですが、なぜか遠く感じさせない親近感みたいなものが劇場にある気がして、今度はステージ側から客席を見られることが楽しみなんです。

ミュージカルをやれるなんて思ってもいなかった

――ところで、最近はどんな音楽を聴かれますか。

 Charaさん、最近は緑黄色社会さんも好きでよく聴いています。あとは最近アニメのオープニング曲とエンディング曲が、プレイリストとして1つにまとめられているものもよく聴いています。

――好きな音楽は変化されてますか。

 ずっとディズニーが好きですし、大きくは変わってないと思います。ただ、男性アーティストの曲、平井堅さんや、秦基博さん、星野源さん、清水翔太さんのような柔らかいトーンの声が好きで、よく聴いていた時期があったのですが、最近は女性アーティストの割合が増えてきているかもしれないです。

――『ヴァグラント』は、ポルノグラフィティの新藤晴一さんがプロデュースのミュージカルで、山口さんのご両親がよくポルノの曲を車でかけていたとお聞きしました。それがきっかけで山口さんは特に「サウダージ」がお好きだとお話しされていましたが、他にも好きな曲はありますか。

 『僕のヒーローアカデミア』のOPテーマ「The Day」も好きです。ポルノグラフィティさんの曲はカラオケでみんなよく歌っているので、それを聴くとテンションが上がります。

――お母さまがポルノグラフィティのファン?

 はい。アミューズさんのアーティストが大好きなんです。アミューズさんが主催するフェスにも母はよく行っていましたし、もう“箱推し”ならぬ“事務所推し”なんです(笑)。

――では、今回のミュージカルもすごく喜ばれて。

 すごく喜んでました。今回私が新藤さんと一緒にお仕事することに「なんか不思議な感じ」とずっと言ってます(笑)。

――女優としてというのも、お母さまの中では意外だったのかもしれないですね。

 音大出身でもボーカル出身でもない私が、ミュージカルをやれるなんて思ってもいなかったです。最初は「私でいいのかしら」と思っていたところから、今では一丁前に悔しがったりして、本当にありがたいご縁だなと思います。

――山口さんがいま追求してること、もしくは追求していきたいことはありますか。

 その時の心境によって歌がぶれてしまうので、そこをどう整えていくのか、というのが一番の課題です。まだ変なところで力んでしまったりするので、今ボイトレの先生と色々試している最中なんです。発声を間違えてしまうと歌がガタガタになるので、歌に関してはもっと追求していかなければと思っています。

――役者として今どのようなやりがいを感じていますか?

 私のお芝居を見てくださった人に、こういう気持ちになったよとか言っていただけた時に、「お芝居をやっていてよかった」とやりがいを感じます。でも、役者だと胸を張って言えるかと言ったら、まだ自分ではわからないんです。本格的にお芝居を始めた2年前と比べると、やっと役者としての一歩先が見えるようになってきた気がしています。

――成長を感じるきっかけになった作品はありましたか。

 特定の作品というよりも全てだと思います。お芝居に関してあまりに経験がなさすぎたので、経験を積んでちょっと掴めてきたのかなと思っても、やっぱりわからないことも多くて。この2年間はお芝居をさせてもらう機会を多くいただけたので、次はこんなことにチャレンジしてみたい、ちゃんと自分で役の本質を見つけたいなと思ったり、そういうのを繰り返してく中で、ちょっとずつ自分がこうしたいという理想を見つけられた気がしています。

――最後にこのミュージカルを楽しみにしてる方へメッセージをお願いします。

 a new musical『ヴァグラント』は、どこにでもある人間関係や悩みだったり、時代が違うだけで、皆さんも体験したことのある痛みなど共感してもらえるポイントがあると思います。お祭りみたいな楽しいシーンもあるので、あまり気を張らずに公演を観に来ていただけたら嬉しいです。生々しいセリフのやりとりがあるので、心はしっかり動くと思いますが、それが重たい気持ちになるわけではなく、最後は希望をしっかり見させてくれるお話なので、明るい気持ちで帰路についていただけると思います。みんなで最高の夏にしましょう!

(おわり)

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村上順一
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