INTERVIEW

中川大志

想像力があったらハッピーになれる。
主演『FUNNY BUNNY』で共感


記者:鴇田 崇

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掲載:21年05月17日

読了時間:約7分

 出演作が続く実力派俳優の中川大志が、ドラマ、舞台、PVなど、さまざまな分野で活躍する映像作家・飯塚健による傑作舞台&小説を映画化した『FUNNY BUNNY』で主演を務めた。演じるは自殺志願者を見分ける特殊能力を有する自称“小説家”の剣持聡役で、彼が自らの正義のもとで繰り広げる奇想天外な騒動や、いくつものロジックを散りばめた“剣持語録”などが、中川大志の熱演で映画的な魅力を帯びている。

 数々の映画やドラマを経て今や国民的人気を得た中川だが、剣持のようなパワフルで過去を背負っているようなキャラクターは、「自分の記憶や過去をほじくり返して役作りをするのですが、大変な作業でした」と撮影前の苦労を明かす。そして個人的な経験を踏まえ、<世界なんて、想像力で変えられる>という作品のテーマに激しく共感したとも。本作の出演が本人にもたらした影響とは。話を聞いた。【取材=鴇田崇】

剣持という男について行きたくなるか

(C) 2021「FUNNY BUNNY」製作委員会

――中川さんの新たな一面が楽しめる作品になったと思いますが、チャレンジに感じたところはありましたか?

 剣持のようなクセのあるキャラクターを演じたことがなかったことと、自分の中にあまりない要素が多い人物像だったので、キャラクターの部分ではチャレンジだったかなと思います。自分にあまりない部分を引っ張り出してきて演じたところはありました。

――その共通項が少ない剣持聡という男を演じてみていかがでしたか?

 小説家の役なので、彼の“剣持語録”の表現は一番の挑戦だったと言ってもいいと思うのですが、この『FUNNY BUNNY』という映画では、観ている人が剣持という男について行きたくなるかどうか?がキモだと思っていました。

――そのビジョンは監督とどう共有していたのですか?

 監督とは剣持のキャラクターの人物像についての話はほぼしていなかったので、あまり言葉や会話で共有することはなかったです。それは僕自身の作業として、台本から汲み取っているだけでした。でもしっかり汲み取らないと、ただの痛い奴になってしまうと思いました。彼は他人に説教臭いことを言ったりするので、それが(映画を観ている人に)刺さっていかないと、「何だろうこの人!?」という印象になってしまいかねない。なので、そうならないように剣持に力強さ、説得力を持たせられるかどうかは、この役を任せられた上での任務だと思っていましたね。

――なるほど。そうすると具体的には、どう剣持の役作りをしたのですか?

 剣持の心の強さや生き様という、そういうものの強さは、剣持の経験してきた痛みや背負っている過去、生い立ちからくるものだと思ったんです。本当の痛みがわかる、現実を知っているからこそ言葉に強さがあり、覚悟がある。だからかっこいいし、人と全力で向き合えている男だと思うんですよね。

 なので僕も基本的には、自分自身に置き換えて役作りを試みました。いつも、どういう役柄の時でもしていることなのですが、剣持が背負っている痛みは自分の中にあるのかを探すために、自分の記憶や過去をほじくり返して、向き合って、役作りをしましたね。

――それは仕事とはいえ、大変な作業ですね。

 しんどいですね。できることなら思い出したくないことですし、忘れたいことなので。それは逆もしかりで、うれしい経験やハッピーなことを思い出す作業の時もありますが、今回で言うと、自分のトラウマや自分の辛い経験をほじくり返して向き合わないといけない役でした。剣持が背負っているものと同じものを僕も背負わないといけないと思って、それが役を理解することなんだと思うんですよね。そうすれば、ひとつになれると思うんです。

 ただ、彼はここまで辛い思いをしてここに立っているのかと、自分のこととして落とし込んでいくということは辛いけれど、そうやって苦しんでいる姿、身を削っている姿が一番、映画なんじゃないですかね。そこにこそドラマがある。

立ち向かって苦しんでいる姿にドラマ

(C) 2021「FUNNY BUNNY」製作委員会

――それは、別の作品の話になってしまいますが、最近で言うと『ジョゼと虎と魚たち』の鈴川恒夫の時も思いました。後半、一気に深みが増しましたよね。

 主人公は、最終的には勝者になる可能性があるんですよね。でも、そこに向かっていく上での壁というか障害がすごく大事で、そこに立ち向かって苦しんでいる姿に一番のドラマがあるわけですよね、最初から簡単にできてしまっては、ドラマでもなんでもない。

 なので苦しんでいる姿を表現するにあたっては僕たちも辛いのですが、そういう時間で本当に考えたこともたくさんありました。人の死であったり、残された人たちには何ができるのだろうということは、この作品を通じてたくさん考えましたね。

――出演している当事者の中川さん自身も作品のメッセージを受け取ったわけですね。

 生きていれば、なんでも言えるんですよね、好き勝手に。僕も身近な人が亡くなったりした時に、いろんな言葉で悔しくなったり辛い思いをしたことがありましたが、でも本当のことは誰にもわからないじゃないですか。本人にしか本当の真実はわからないので、好き勝手に想像でモノを言えるのですが、違っていたとしてももう死んでいるから謝れない。そういう言葉で傷つく人もたくさんいるし、世界を救うのは想像力だって言っているんですけど、ちょっとの想像力があったらハッピーになることってたぶんいっぱいあるんだろうなって。それは間違いないことなんです。

――さまざまなことが重なり、映画『FUNNY BUNNY』は今観るべき作品になったように思いますが、中川さん個人としてこの作品に参加してよかったことは何ですか?

 僕から見えている剣持の相棒・漆原聡役の岡山天音君や、図書館の景色とか、そういうものの記憶の映像が残っていて、その瞬間の剣持としての記憶がちゃんと映像に残せた感じがあったので、それはすごく自分にとってはよかったなと思いますね。その瞬間に見えた景色は忘れて消え去ってしまうもので、演じている時は役柄のことだけを考えていたのですが、そこを切り取ってもらえたのでよかったなと。

――最後にファンの方へメッセージをお願いいたします。

 僕にとっては、映画館の上映と同時配信は初めての経験なのですが、監督とも話していましたが、こういうご時世的な状況だと、映画館に行きたくても足踏みしてしまう人もいるだろうし、そういう中で観る手段が増えるというのはいいことですよね。作ったのに観てもらえないことが一番悲しいことなので、観てもらわないと何も始まらないですよね。そういう意味では今回は配信でも観られるし、公開と同じタイミングでタイムラグなく観られるということは、すごくうれしいこと。なので映画館に行けないという方、映画館が遠い方、いろいろいな方がいると思いますが、もっと広く言うと海外の方もいると思うので、いろいろなところでこの作品を観てもらえたらいいなと思っています。

 作品のメッセージ的なことで言うと、映画の作りとしてスピード感、爽快感があって、本当にカッコいい、おしゃれな映画になったなと、自分で完成した映画を観て思いました(笑)。スカッと気持ちよく観られる映画になったと思うので、ぜひ楽しんでください。

中川大志

(おわり)

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