渡辺謙「老いぼれて役に近づいたかな」、舞台『ピサロ』1年ぶり再演
強さと弱さが同居するピサロ
渡辺謙と宮沢氷魚が14日、東京・渋谷のPARCO劇場で、舞台『ピサロ』(15日~6月6日)初日前会見と公開ゲネプロに臨んだ。昨年コロナ禍で10公演のみとなった本作が1年越しに再演される。この1年で役により近づいたと思うと語る主演の渡辺謙が演じるピサロとは。
本作は、16世紀に167人の寄せ集めの兵を率いて、2400万人のインカ帝国を征服した、成り上がりのスペインの将軍ピサロの物語。山崎努がピサロ、当時まだ無名だった渡辺謙がインカ帝国の王・アタウアルパを演じた。
渡辺は当時「俳優を一生の仕事とする」と覚悟を決めた大切な作品だ。昨年45公演の予定だったがコロナ禍で10公演のみの上演で中止となった。渡辺は「もう少しで届きそうなところで中止になった。今回の3週間少しの公演で何かを掴んで帰りたい。そういう旅にこの舞台をしたい」と遠征に向かうピサロを引き合いに意気込んだ。
中止以降「シャッターを下ろして止まったような感じだった」と語る渡辺だが、1年越しに再会し読み合わせを行った時に「時計が動き出した感じがした。ピサロという者に対して僕の秒針が止まっていたと気づいた」と振り返った。
ピサロは古傷を負いながらも寄せ集めの兵を率いてインカ帝国制服へ遠征する。「僕は1年、老いぼれていて。死を感じる役なので、役に近づいたかな」
兵の士気をあげるために鼓舞するピサロ。だが兵には決して見せない弱さが時折垣間見える。渡辺演じるピサロには終始、その強さと弱さが同居し、それが表裏に反転し続けながら進んでいく。渡辺が語った「役に近づいたかな」。その言葉を裏付けているようにも見える。
舞台は、ステージに大きく陣取る階段、そして、バックには巨大ビジョンが配する。この階段を使い様々な場面を作り上げる。
アンデスの雪山を登攀(とうはん)する場面では、割れた階段を雪山に見立て厳しい姿を映し出す。何度か登場するインカ帝国での場面では太陽の子インカ王アタウアルパの神々しさを宮沢の風格、そして階段に流れるマントのような衣装で表現させている。
そして、目を覆いたくなるスペイン軍が大虐殺する場面では、階段が赤色に染まり、そして背景ビジョンには血を帯びた人々がうだる。出演者一人一人が強いエネルギーを放ち、その中で躍動するピサロの強さと弱さ、そして渡辺が放つ哀愁は物語に血を通わせる。