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神戸出身のオルタナティヴロックバンド・Panorama Panama Town(パノラマパナマタウン)が7日、EP『Rolling』をリリースした。昨年はメンバーの田村夢希(Dr)の脱退、岩渕想太(Vo.Gt)のポリープ手術とバンドとしての一つの岐路となった。サポートメンバーを加え新たにリスタートを切るはずが、現在も続くコロナ禍に。バンドが思うような活動ができない中、YouTubeで『PPT Online Studio』と題した生配信を行い、楽曲が出来上がるまでの過程をファンと共有し、新たな感動の共有を生み出した。その『PPT Online Studio』で制作していた「Rodeo」や「SO YOUNG」に加え、昨年配信された「Sad Good Night」新曲の「氾濫」を加えた4曲を収録し、石毛輝(the telephones、Yap!!!)をプロデューサーに迎え新たな一歩を踏み出した。インタビューではこの1年間を振り返りながら、今作の制作背景、Panorama Panama Townの今の姿勢に迫った。【取材=村上順一】
一つの区切りにしたかった
――新体制となって1年が経ちましたが、今どんな心境で活動されていますか。
岩渕想太 すごく前向きで、今やりたいことをやれていてすごく楽しいです。それがしっかりお客さんにも伝わっているなと感じています。バンドをやり始めた時の空気感に近い感じです。
タノアキヒコ 3人でやる事が明確になってから、自分の中ではすごくスッキリした感覚はありました。新しい不安はあるけど、前にあった不安はなくなって。昨年はこれまでの曲を今のパノパナの曲にしていくことと、新しい曲を作る期間だったので、ライブがなくても大丈夫だったんですけど、だんだん曲が形になっていくと、外との隔たりに精神的に参ってしまう時もあったんです。でも、ライブが出来るようになって気持ちも前向きになれてきて、日々強くなれている気がしています。
浪越康平 3人になることに僕も不安な部分はあったんですけど、岩渕のポリープも(田村)夢希の脱退も予想は出来ていたんです。なので、その答え合わせが出来た、という感じでした。コロナ禍はそんなに落ち込むことはなく、またライブができる日を楽しみにしていましたから。
――孤独にも強いタイプ?
浪越康平 何をやるにもそうなんですけど、自分の中で完結するタイプなので、人に会えなくても割と大丈夫なんです。
岩渕想太 僕は去年の秋くらいに精神的に落ちる瞬間もありました。それは「バンド大丈夫かな」といったことではなくて、出来た曲を届ける先がわからなくなってしまって...。自分たちの中だけで作っていくことに疲れてしまった感じです。早く曲を出したい、という気持ちが強くありました。
――バンド名がカタカナ表記から英語になりましたけど、これにはどんな意味があるんですか。
岩渕想太 腹を括るじゃないですけど、新しくスタートを切るという気持ちがあります。最初はロゴを英語にしようと話していたんですけど、今やっている音楽が英語表記の方が合っているなと思い、ここを一つの区切りにしたいという気持ちがあって英語に変えました。ここから出す音源は英語表記でのパノパナという認識を持ってもらいたくて。
石毛輝プロデュースで得たもの
――第2章という感覚もあるんですね。今回、新しい試みとして石毛輝さんをプロデューサーとして起用されていますが、どんな経緯があったんですか。
岩渕想太 the telephonesは僕がバンドをやる前から好きなバンドです。インディーズでリリースした『PROPOSE』というミニアルバムのツアーで石毛さんのバンド、lovefilmとツーマンをさせて頂いて、そこで憧れていたことをお話しして、そこから石毛さんと僕らの交流が始まりました。それで去年「Rodeo」のデモを作った時に石毛さんが「カッコいい」とメッセージを送ってくださって、その流れで一緒に食事をしたんです。その時にこの曲はこうしてみたいとか色々話してくれて、その時に石毛さんとやったら面白いんじゃないかなと思い、その思いをスタッフに相談して実現しました。
――プロデュースされて新たに気づいたことはありました?
岩渕想太 石毛さんはバンドへの愛情、リスペクト、カッコ良さに対しての美学がある方なんです。例えば「Rodeo」のテンポやキーを上げたのもバンドのヒリヒリ感、頑張っている感じが客観的に見たら面白いんじゃないかと話してくれて。テンポやキーを上げることは大変なんですけど、作っていて楽しかったり、バンド感というものを学ばせていただいた、改めて気付かせてくれた感じがあります。
浪越康平 キーを上げたことで岩渕の声がけっこう高いところまで出るんだなと思いました。逆に1曲目の「Sad Good Night」は割と低いんですけど、低音での岩渕の声のカッコよさに改めて気付いた感じがありました。
――ポリープによる声の変化もあったのでしょうか。
岩渕想太 ポリープが出来てしまって今までの発声ではダメだなと気付いて、発声方法を変えました。それが今自分にしっくり来ています。まだまだではあるんですけど、低い声にも説得力が出てきたんじゃないかなと思っていて、加えて高い音域も広がったと思います。そして、納得のいく声が出せるようにしたいと思い、自分の中で好きな声と嫌いな声を考えてみました。
――岩渕さんの理想の声としてどんなシンガーがいますか。
岩渕想太 その時によく聴いていたのが井上陽水さんで、特に高音への持っていき方が理想的でした。陽水さんはすごい高い音までいくんですけど、ボトムごと上がっていると言いますか、声が細くならないんです。低音で好きなのはザ・ストロークスのボーカル、ジュリアン・カサブランカスが好きです。
――タノさんはいかがでしたか。
タノアキヒコ 今回の4曲は自分の中ではデモの段階からけっこう振り切れた曲が出来たと思っていたんですけど、石毛さんがさらに振り切らせてくれました。僕の中でプロデュースしてもらうとキレイに纏まるという感覚、イメージがあるんですが、石毛さんと一緒にやればそうならないという確信はあって、それを再認識出来た感覚があります。
――『Rolling』というタイトルはどんな意味合いでつけたんですか。
岩渕想太 今回EPを作るにあたって、コンセプトは考えずに良い曲を4曲収録したいと思いました。曲としてのコンセプトはなかったんですけど気持ちの面ではあって、再始動の一枚、原点回帰の一枚にしたいというのがありました。バンドを始めた時にかっこいいと思っていたものを今の自分たちで作り直そうという意識はありました。なのでタイトルは悩んだんですけど、改めて振り返ってみると、僕らは転がり続けてきたバンドだったなと思って。特に去年はメンバーの脱退、僕のポリープだったり、そこにコロナ禍も加わってすごく凸凹した1年だったなと。転がり続けてきましたし、まだまだ転がっていきたい、新たなスタートの1枚だと感じたのでこの『Rolling』に決まりました。
――バンドの状態を表していたんですね。さて、「氾濫」は新曲ですね。一番最近できた曲?
岩渕想太 ポリープがわかった時に何曲か作ってたんですけど、その時に「Rodeo」などと同時期に作った曲です。もしかしたら2019年末ぐらいにはあったかもしれない。 ポリープの手術が決まってバンドが再起動してからの方向性をしっかり提示しておこうと思って作っていて、その時は歌えなくなることも考えていて、どこか遺書みたいな感覚で色々曲を作っていた節もあります。
その中で「氾濫」は曲はあったけれども歌詞が一番最後まで決まらなくて、ただ<孤独な歌が宙に彷徨った>というフレーズはコロナ禍の時からあって、最後まで残った言葉でした。ずっと一人で歌っているというのがその時の感覚としてあったなかで、出て来た言葉でした。
面白いと思ったものを自分たちの表現としてアウトプットしたい
――それぞれ今作で新しい試みはありましたか。
浪越康平 こだわったのは良い音でギターを弾かないということでした。 天邪鬼かもしれないんですけど、良いギターの音というのは世の中にありふれているなと思ったんです。なのでハイエンドな楽器や機材ではなくて、ビザールギターやしっかりしたB級ギターで弾くみたいな。エフェクターもディストーションではなくファズにしてみたり、オーバードライブさせるところをクリーンで弾いてみたり、けっこう振り切った音作りにしてみました。 等身大でギターを弾くのがかっこいいなと思ったんです。
岩渕想太 ジャガーにコーラスをかけたりもしていたよね。
――バンドを始めた時の感覚、原点回帰というお話を最初にしていましたが、そこにもつながる感覚はありますか。
浪越康平 あると思います。楽器を始めた最初の頃はいろんな音を作れるわけでもなくて、自分の持っている数少ない機材や技術で好きな音を再現しようとしているんですけど、その時の音って実はすごく個性的だと思うんです。今その時の感覚が戻ってきているような感覚はあります。
――タノさんが今作でこだわったところは?
タノアキヒコ 今回はシンセの同期も入らないと決めていたので、バンドサウンドだけでやるとなった時に、今まで以上にベースの音に説得力がないと駄目だなと思いました。ルートで8分を弾いてるだけでもかっこいいと思えるようなベースを弾きたいなと思ったんです。今までは混み入ったフレーズを弾くのも好きだったんですけど、今回はその辺をあえて全て排除してシンプルにカッコよく弾くにはどうしたらいいかというのを考えた一年でした。今サポートでドラムを叩いてもらっている大見(勇人)とスタジオに入ってフィーリングを合わせていって、その中で自然と出てきたフレーズを曲で採用しています。
――大見さんは長い付き合いなんですよね。
タノアキヒコ 大学の時からの友達で、浪越よりも出会いは先なんです。僕が初めてスタジオに入った時のドラムは大見でした。
――ちなみにサポートドラムの決め手は何だったんですか。
岩渕想太 音も腕もそうなんですけど、一番重要だったのはバンド以外でも楽しくいられることでした。そうじゃないとパノパナでやっていくのは結構難しいなと感じていて。あと、彼は前傾姿勢でハイハットを“チキチキ”叩くんですけど、そのスタイルが僕等にすごく合ってるなと思いました(笑)。
タノアキヒコ もう誰が言ったのか覚えてないくらい自然に名前が出て、満場一致で大見に決まりました。
――今回のEPでもそのチキチキは「Rodeo」や「SO YOUNG」でフィーチャーされていますよね。さて、今作で岩渕さんのチャレンジやこだわったところは?
岩渕想太 バンドとして聴いていて面白いものにしたいというのがありました。今のシーンを見ているとギターで面白いことをしているバンドってすごく少ないと思うんです。ロンドンにポストパンクムーブメントみたいなのがあって、それらを聴いていたらすごいかっこ良くて。ザ・ストロークスの新譜もすごく良かったですし、ちゃんと自分が面白いと思ったものを自分たちの表現としてアウトプットしたいというのがありました。自分が好きなものを考えた時にエクストリームなものといいますが、疾走感があってヒリヒリするようなものや、乾いたサウンド、どこか埋まりきってないバンドサウンドが好きだということがわかって。どうやったら4人のバンドサウンドでオリジナリティを出せるか、というのをすごく考えました。そこが今回の挑戦でした。
――ちょっと脱線しますけど、皆さんがいま興味や関心があること何ですか。
岩渕想太 『ウォッチメン』という漫画にDr.マンハッタンというキャラクターがいて、そのキャラの独白のシーンがあるんですけど、全て時系列がバラバラにストーリーが進んでいくんです。その中で『エヴァンゲリオン』を改めて見直していて 旧劇場版の『シト新生』という作品を見たんですけど、『ウォッチメン』と同じような作り方をしていて。それで歌詞というのは基本、時系列で進んでいくと思うんですけど、歌詞も時系列をシャッフルできるんじゃないかと思って。そういう歌詞が書けたら面白いんじゃないかなと思い、そう言った楽曲作りに興味がむいています。
浪越康平 全然音楽とは関係ないんですけど、僕は草木を育てているんです。それが全部枯れてしまって...。だけど最近、葉っぱがついて花も咲いてきたんです。その光景を見て改めて生命力のすごさに驚かされました。
タノアキヒコ 僕はファッションと精神性の繋がりにいま興味があります。外に出ない時期があったので、そうなると見た目とか全然気にしなくなってしまうんです。でも今のようにライブが地下で浮いてきたり、こうやってリリースがあると外に出る機会がすごく多くなってきて、美容院に行ったり新しい服が欲しくなったり行動力が出てくるんです。自分の気持ちとの接点がそういったファッションなどと繋がっているんじゃないかと思って。人は外見じゃないと言いますけど、やっぱり外見も大切だなとか、この期間に考えていました。
――面白いですね。4月10日と25日にライブ『Panorama Panama Town presents”Rolling Night Tour”』も行われますが、どんな気持ちで臨みますか。
岩渕想太 サポートの大見君も含めてすごくバンドがいま良い状態なんです。 この四人でスタジオに入ってリハーサルをやめることも楽しいし、ステージに立ってライブができるというのもめちゃくちゃ楽しみです。久しぶりのツアーでもあるので今の僕たちをお客さんに直接届ける、いろんな制約がある中で一緒にライブを楽しむというのは。去年行ったライブでもマスク越しでもみんなが楽しんでるのがすごく伝わってきたんです。みんな行きたいけど行ききれないみたいなライブというのは今しかできない経験だと思うんです。今できる最高を届けに行きたいです。
イベント情報
4月25日に新宿LOFTにて行われる『Panorama Panama Town presents”Rolling Night Tour”』で、ツイッター企画を実施することが決定!
ハッシュタグ #PPT_Rollingがついたツイートの中からピックアップされたものはMusic Voiceで紹介を予定。参加方法はハッシュタグ #PPT_Rollingをつけて、ライブの感想をツイートするだけとなっている。
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