内木志が、21日から上演される、たやのりょう一座第7回公演『あゝ涙乃橋商店街』(浅草・木馬亭)に出演する。NMB48卒業後は舞台などを中心に女優として活躍する彼女が、本作では自身初の“母親”役で新境地を見せる。【取材・撮影=木村武雄】
天性の安心感
「姫がいると周りが自然と笑顔になるんですよ。相手に安心感を与える、そういうものを持っていると思いました」
座長の田谷野亮は内木の印象を語った。
俳優でもある田谷野座長がプロデュースする“たやのりょう一座”公演への出演は、昨年10月に上演された『イサヤ島の王女と神の右腕』に続き2度目となる。前作ではイサヤ島の王女・ナバナ姫を演じた。
「誰が観ても愛してくれるお姫様を探していました。内木さんはそれを体現してくれました」と当時を回顧する田谷野座長は、今回再び内木に出演を依頼した経緯を「とある一家の奥さんを演じて頂きますが、パッと周囲を明るくするような人を探していていました。欲しくて。演出の戸田(彬弘)さんとも話しましたが、姫は真っすぐで話し方に母性があり安心するんです」と明かした。
それを横で聞く内木。「嬉しい!」と太陽の様な笑顔を見せて喜ぶ。
本作は、昭和の東京下町にある豆腐屋を舞台にした人情劇。田谷野座長は「昭和のコテコテの人情劇になっています。コロナ禍で人と人が離れ離れになっている状況でお客さんたちが人に会いたいと思ってもらえるように稽古に励んでいます」と語る。
内木が演じるのは、こぐれ修演じる一家の主の妻で、3人の子供の母。しかし、次女出産後に亡くなってしまう。内木にとっては初の母親役になる。
内木は「子供たちを空から見守ることしかできないので悲しいですが、成長している姿を見て本当に母の様な気持ちになってきています」と振り返る。
実体験がない役どころで、しかも昭和という経験もない時代の母を演じる。
「舞台セットでは当時使われていたものが再現されています。私の実家も昭和っぽいので、お家に帰ったような感覚です」とほほ笑むが、母親役という役柄に「稽古しているいまも模索しています」
そのなかで手応えを感じた場面があった。田谷野座長も「あのシーンは本当に泣けました」とする、ラストの子供たちの背中を押すシーン。「昨日、初めて稽古でそのシーンをやった時に、お母さんみたいだなと感じました」
そんな内木には目指している女優がいる。堀内敬子。「演技はもちろんですが、優しさが滲み出ていて、そんな女優さんになりたいです」と語っていた憧れの人だ。
田谷野座長が内木に求めた「母の様な安心感」。それは、内木自身が無意識のうちに憧れの人に近づいている表れとも言えるが「まだまだだと思いますが、そう言われて嬉しいです」と笑顔を見せつつも、気を引き締める。
打ち解けたなかでの芝居
2度目となる、“たやのりょう一座”公演への出演。「再び呼んで頂けてめちゃくちゃ嬉しいです。田谷野さんの一座はフレンドリーで、前回に引き続き同じ方と出られるのは嬉しいです。私は人見知りな方ですが、それが今回なくて打ち解けています」と表情を緩ませる。
関西出身者が多いことも内木の心をほぐしている。「舞台セットだけでなく、そうしたところにも実家感があります(笑)」
夫を演じるのは、前回演出を担当したこぐれ修。こぐれから言われたことがあった。
「こぐれさんは違う舞台を見てくれた時に「内木だと思わなかった、めっちゃうまかった』と言って下さって嬉しかったです」
そうした成長した姿を今回は、母親役、そして、怒るシーンという新たな一面で見せる。
「実は怒るシーンは私にとって初めてなんです。なので、一皮むけた私を見てもらえると思います。関西弁で怒るんですけど早口になっちゃって。聞き取りやすいように怒るのは難しいです。でも感情を吐き出すという意味では関西弁なので素の部分が出やすくてやりやすいです」
そして、本作では元・劇団4ドル50セントの糸原美波が長女役で出演する。
「『ドラ恋』(恋愛ドラマな恋がしたい)を見て、めちゃくちゃ可愛いなと思っていたので嬉しかったです。糸原さんとは「秋元先生つながりで一緒だね」と顔合わせの時に話して。お互い関西出身もあってめちゃくちゃ話しやすくて。『ドラ恋』でも演技うまいなと思っていたけど、本当にうまくて勉強になっています。刺激になっています」
そんな内木が本作の役を通して、そして、コロナ禍で感じたことがある。
「物語に『伝えたかったけど、伝えられなかった』という場面が出来てきますが、後悔はしたくないのでこれからは言葉にしていこうと思いました。もともと言えるタイプですが、伝えたい事は伝えた方が良い。そして一つ一つを大事にしたいです。きっと私の祖父も見守ってくれていると思うので、繋がりを感じながら頑張っていきたいです」
(おわり)