INTERVIEW

悠木 碧

プリキュアが私にくれた希望。
集大成『映画ヒープリ』公開、走り抜いた1年


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:21年03月27日

読了時間:約8分

 テレビアニメ『ヒーリングっど(ハートマーク)プリキュア』が先日最終回を迎えた。昨年はコロナ禍による緊急事態宣言発出で9週間、再放送に切り替わった。しかし、主人公の花寺のどか(キュアグレース)を演じた悠木碧は「不遇とは言わせたくない」と希望を届け続けた。3月20日(土)には、夢をテーマにした『映画ヒーリングっど(ハートマーク)プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』も公開される。『ヒープリ』の集大成の公開を迎え、悠木碧にこの1年を振り返ってもらった。【取材・撮影=木村武雄】

コロナ禍、不遇とは言わせたくない

――TVシリーズはコロナ禍で再放送に切り替わった時期もありましたが、悠木さんはエッセーで「不遇とは言わせたくない」と書いていて。改めてこの1年どうでしたか。

 回数が減ってしまったことで表現をする上での期間が短くなり難しかった点もあったと思います。でも、この時代だからこそプリキュアという希望の塊が必要とされていたとも思うんです。いろんなことに直面しているなかで進化をしなければならない、それはアニメ業界に限らず全体的に言えることで、それに立ち向かうために一緒に手をつなぎ歩いていくその象徴になるべき作品。こんなにも世に求められたシリーズがあったのかと思うぐらいでした。その必要とされているなかで、のどかを演じられたことは誇りに思います。

 何事もなく普通に1年やれていたら、きっと流されてしまったであろう事にも、みんなが敏感に受け取ろうと見てくれていたと思います。だから、削られてしまった期間は決して無駄ではなくむしろ価値があったと思います。そういう意味でも、言いたいことはきっとみんなに十二分に伝わったんじゃないかと。そのなかで、私たちが「不遇」と言ったら見てくれた方に申し訳ないですよね。一生懸命に見てくれたから、私たちもそれに全力で答えようと意識してきました。

――昨年2月ごろに会見を開いて「これから」という時に緊急事態宣言が発出されて、当時はどう思いましたか。

 戸惑いました。それとテーマがテーマなので、視聴者の皆さんにどう響くんだろうということも想像がつきませんでした。コロナという未曽有の事態に何をすれば正しいのかは当時誰も分からない。みんながみんな何をすれば最善なのか、どうすれば誠実なのか考えていたと思うんです。だから大変だったよりも、みんなと同じように一生懸命でした。

 大変なこの状況を現状のせいにするのは、プリキュアっぽくないというか、そうしたことも乗り越え、大切なものを自分たちの力でどうやって守れるかが彼女たちだと思いますので、「コロナで大変でした」とはやっぱり言いたくないですね。

悠木碧

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ある気づきでのどかとの乖離感はなくなった

――のどかと1年向き合ってきて考えが変わったところはありますか? なかでも42話は、キングビョーゲンに追われたダルイゼンの助けを拒絶したことを「自分のことしか考えていないビョーゲンズと同じなのかもしれない」と自責するシーンが印象的でしたが。

 ぼんやりと思っていたことが、その第42話ではっきり見えたことがありました。優しすぎるのどかが、みんなの理想になっていたなかで「でもそうじゃないよ、のどかはのどか。救世主ではなくて同じ人だよ」と問われました。私はもともとそう解釈していたので間違っていなかったと。

 第42話は哲学的と言いますか、倫理が問われると思っていて、私はこれまでにいろんな正義の味方を演じてきましたが、のどかのような子って見たことがなかったんですね。それまでは自己犠牲が日本の正義という形だと思っていたので、のどかを見て自己犠牲は正しくないかもしれないと思わせてくれました。そもそも正しい正しくないかは人によると思うんです。

 ラビリンが、「のどかが助けたいんだったら一緒に助ける、のどかが助けたくないんだったら助けなくていい」と言ったことで、視聴者も自分のことのように「自分だったらどうするか」と置き換えられたと思います。

 今までダルイゼンがやってきたことも考えると、私だったら助けられない方を選ぶと思うんです。でもどこかで、「のどかならやってくれるんじゃないか」と思っている自分もいて。それ自体がのどかの人格を否定していることになっていると気づいて。

 一視聴者として、「この子だったら優しいから何でもやってくれる。私たちにもできない選択をしてくれるんじゃないか」みたいな期待を、14歳の普通の女の子に負わせていたんだなと。その時にふとこれまで、優しさの搾取をしていた事がなかったのか自問自答しました。

 演じる上でも最初は、「この子はこうであってほしい、ああであってほしい、こんなだったら素敵だな」と理想みたいなものを考えていました。でも途中から、それは私や視聴者の理想であって、のどか自身はどうなのか、のどかのなりたい人って何なんだろうと思うようになりました。それが象徴的に表れたのは第42話ですが、それ以前からそう感じるようになって。

 1年は長いですから、ずっと一緒にやらせてもらっている間に、この子の事をもっと分かりたいと強く思い見つめ直した時に、「あっ、私、いかにこの子に理想を押し付けていたんだろう」という気持ちになりました。大人の立場から子どもの未来を考えるように、のどかのやりたいことを肯定して応援する。そう思うようになってから役との乖離感が減ったというか。ぐっと身近に感じるようになりました。

悠木碧

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――改めて1年は良い意味で長いですね。

 そうですね。アニメの現場はとても刹那的なので、そういう意味で言うと1年はとても長いなと。本当はもっとずっとやっていたい気持ちもありますが、新しいプリキュアが増えるということは新しい友達が増えることでもありますからね。

 プリキュアには様々な子がいます。体の弱い子や最初は何もできないけど希望だけ持っている子、スポーツができる子、おしゃれな子、そうしたいろんなタイプの女の子を肯定してくれるのがプリキュアだと思っていて、だから新しいプリキュアが生まれることイコール、また新しい人格の肯定にもなると思っています。

 「ヒープリ」という物語が終わるのは寂しいけど、新しいプリキュアは、新しい女の子の肯定になる。それはとても素敵なサイクルだと思っています。

映画ヒープリで描かれる夢

――さて、「希望をなくしたら見て欲しい」という話も過去にされていました。今回の映画はまさにそういうところが描かれていますが、脚本を読んでどのように思いましたか。

 「夢」をテーマにしていて、夢の力と夢を実現させる技術というものが組み合わさった物語です。とても印象的だったのは「ゆめアール」を使うことで夢が見られるということでした。今の技術で叶えられる夢、今は無理でも近い未来に新技術で叶えられる夢があって、それを実現させるのはその人自身の力、人と人の繋がりが必要という話になっていて、それは今に刺さる内容だと思っています。

 コロナ禍での自粛で、楽しいことも我慢しないといけないという風潮になっていますが、楽しいこと自体を我慢しなければならないのではなくて、環境に合わせて楽しむことが求められていると思うんです。そうしたメッセージが込められているなと。楽しさや幸せは生きる希望にもなりますし、その生きる希望が現状を打ち勝つ力になると思っています。だから、こういう作品を作り続けなきゃって改めて思わされました。

――「Yes!プリキュア5GoGo!」とのコラボも見どころです。キュアドリーム(夢原のぞみ)の三瓶由布子と共演はいかがでしたか。

 久しぶりに演じられたようですが、マイクの前に立った瞬間にもうのぞみちゃんだったので、仕事人でした(笑)! 収録をご一緒する時間はすごく短かったけど濃密な時間を過ごさせて頂きました。プリキュアファミリーとしてぐっと近くにいられて、本当に楽しかったですし、光栄でした。

――映画の映像美も印象的ですね。

 弾けるパワーという感じで大画面を通して浴びたい光感ですよね。ゆめアールで再現された世界観や、かぐやちゃんのライブシーン、バトルシーンも迫力あってかっこいい。スタッフさんたちもきっと気合いを入れた1作だったと思いますし、私の想定ですけど、5さん(Yes!プリキュア5、Yes!プリキュア5 GoGO!)たちを見て育ってきた人たちが、クリエイター側に入っているんじゃないかなって。やっぱり作り手も胸熱ですよね。そういう意味でもこのコラボはいろんな人を勇気づけられるんじゃないかと思います。

悠木碧

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プリキュアが希望をくれた

――今回の作品のテーマ「夢」にちなんで、悠木さんが幼少期に抱いていた夢あるいは、今抱えている夢は?

 『セーラームーン』や『カードキャプターさくら』の世代だったので、セーラームーンになりたいのはありました。幼稚園の時も“ごっこ”とかもしていたし。美しく戦う女の子たちに憧れていたので、そういう意味で言うとちょっと夢が叶ったのかなって思います。今の夢は、私はアニメ好きなので「YUKI×AOI キメラプロジェクト」という企画を動かしているので、それがちゃんとアニメ化できたらいいなと思っています。それは明確な夢かもしれないですね。

――夢達成にはいろんな困難があると思いますが、そうした困難を乗り越えるためにされていること、または支えになっている言葉は?

 夢を達成するのって本当に大変ですよね。夢に向かって走っている時の楽しさというのは絶対あると思っていて、しんどいトライアルアンドエラーもその間って夢を見ているからめちゃめちゃ楽しいし、希望があるんですよね。まだまだ新しいことをやりたいと思えるのは、その時の過程や叶えたときに得られるハッピー感が忘れられなくて、それをまた欲してしまう。もちろん諦めようかなと思うこともいっぱいあるんですけどね。でもそれらを引いて見たら楽しさがこみ上げてくる。チャップリンの「人生は寄って見ると悲劇だけど引いて見ると喜劇」に近いですね。

――こうしてお話を聞いていると、悠木さん自身は楽しさや希望を大切にされていると伺えます。それはプリキュアにも重なるような気もしますね。

 最初にプリキュアを見たのが『キラキラ☆プリキュアアラモード』の時でした。キャラクターの顔が好みで見ていたんですけど、毎話希望に溢れていて見るだけで希望を摂取できて。大人になってから心に希望が満ち溢れることはなかなかないと思うんですよ。だからその時にプリキュアはすごい、こんなにも人に希望を受け渡すことができるんだと思い、そこから憧れに変わりました。『ヒープリ』も希望に満ちたお話ばかりで嬉しくなりましたし、演じているこちらも希望に満ち溢れて。

 そうしてもらったものがあるからこそ、それを込めて届けたいという気持ちになって。やりたいって思える作品に出会えるありがたさ。視聴者としても演じる側としても本当にありがたいなって思うシリーズですし、伝承され続けてきているのも含めて、プリキュアが私にくれたもので、それはこの先も大事にして育んでいくものなんだと思います。

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(おわり)

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