INTERVIEW

福士誠治

やり遂げた生身のアクション。
映画『ある用務員』で主演


記者:鴇田 崇

写真:鴇田崇

掲載:21年02月03日

読了時間:約7分

 実力派俳優の福士誠治が、映画初主演にして本格的なアクションにも挑戦している映画『ある用務員』が公開となった。主演の福士以下、芋生悠、山路和弘、前田朋哉、般若などが共演した骨太な一作で、用務員としてとある高校で働く深見(福士)が、ある理由で密かに見守っていた真島唯(芋生)を守るために、9人の刺客たちと死闘を繰り広げていく物語だ。

 注目ポイントは何といっても福士自身でやり遂げた生身のアクションで、激しいスタントは怖かったと述懐する福士だが、「銃撃戦には心理戦もあり、ナイフには緊張感や疾走感がある。全部味わいが違う」と仕上がりには自信をのぞかせる。音楽ユニット「MISSION」としての顔も含め、近年活動の幅が広がっている福士に、映画、仕事、人生の話などを聞いた。【取材・撮影=鴇田崇】

『ある用務員』

挑戦だったアクション

――アクション満載のクライムサスペンスでしたが、最初に脚本を手にした時はいかがでしたか?

 脚本をいただく前にアクションがメインになるとうかがっていましたが、現代の日本ではあまり考えられないけれど、古き良きファンタジーとしてストーリーが練られていると思いました。本当はあってほしくない世界ではあるものの、裏の世界に精通した暴力と、その中にある哀しみ、人間の持っている切なさ、生きざま、そういうものがたくさんつまっていたので、アクション映画というカテゴリーの中でも、切ない人間模様がたくさん描かれている題材だなと思いました。

――アクションもセリフの一部のような、物語と活劇が分離していない、しっかりしたノワールですよね。

 アクションも切なく見える時があるんですよね。誰かのために守るということだけ集中して戦っている。いつでも自分ひとりであれば逃げられる状況にあるけれど、人を守りつつ戦うことは切ないわけです。

 主人公は暗殺者として育てられている人物像なのですが、ただの殺人鬼ではなくて、暗殺者としての道を自分で選んでいる気がする。お世話になった組長の娘さんのために、命を掛けて自分の暗殺者としての暗い部分を吐き出さなきゃいけないという。そういう義というか、この男は明るい楽しいことを知らずに育ってきて、他人には寂しい、悲しいと思われるかもしれないけれど、でも知らないからこそ、小さなことで幸せを感じられる、そういう側面もある。赤子のような気持ちのまま大人になってしまった人物像のような気がしました。

――まるで韓国映画のような疾走感や骨太な味わいも新鮮でした。

 外国映画っぽいテイストはありますよね。言葉だとチープになっていくけれど、いろいろな感情が主人公にはたくさんあり、娘さんを守るしかない、自分がやることはそれしかないわけです。生きがいなのか死にがいなのか、強制的に思わされてしまう感情ですよね。ある意味死を覚悟したところに飛び込んでいかないといけない。誰かのために動くことが人生みたいな育てられ方なので、そこは演じていても切なかった。言葉も上手く話せる人ではないし、奥底にあるものが動いた映画のような気がします。

――今回俳優として、挑みがいがあったことは何でしたか?

 アクションですよね。あれだけ戦うことは人生であまりないので(笑)。刺客たちの戦い方がそれぞれ違って、銃撃戦の刺客もいれば、ナイフや肉弾戦の刺客もいて、ジークンドーみたいな人、プロレス系の人、往年の殴り合いもあります。だから毎回のアクションが違うんです。銃撃戦には心理戦もあり、ナイフには緊張感や疾走感がある。全部味わいが違う。撮影中、中二階から飛び降りたこともありましたが、すべてのシーンでスタントなしでやらせてもらいました。怖かったですけど(笑)。

――全部ってすごいですね。かなり本格的でした。

 今回、自分でやってみたいと思って。刺客の方もアクションをやっていたり、もともとプロレスをやっていた方もいて助けていただいたのですが、スタントマンに任せず、全部自分でやり遂げることができて楽しかったです。アクションのプロに言わせれば、まだまだ甘いと思われるかもしれませんが、この映画に関してはスタントなしで自分でやれたことは、楽しいことだったかなと思います。

福士誠治

――演じる深見は、それこそ寡黙なので、最初に触れたようにアクション=セリフみたいな面もありましたしね。

 彼は内に秘めた何か、組長に対する想いや実の父親に対する想い、娘さんに対する想いがあるので、そういうことを自分の中で膨らませていました。ある意味、抑圧しながら作り上げていくキャラクターで、アクションの動と心の中の静が入り乱れた役だったので、役者としてはやりがいのある役でした。

――演じる上で人物像は、どうやって作り上げるのですか?

 変な言い方なのですが、まわりにかわいそうと同情しちゃう人がいても、この深見という男には後悔していてほしくなかった。すべてが終わった時にひとつの任務として、娘さんを学校から逃がすことができれば、そこに自分の中で本当の満足ではなくても、自分を肯定できる瞬間がある…そこまでの段階は作っていきたいなという想いはありました。頭ではこっちの道が楽だとわかっているけれど、この険しい道の方に飛び込み、すべてが終わった時に悪くなかったなというような、それが心に最後あふれてきたらいいなあと思ってはいました。

――演技のこだわりは何でしょうか?

 もちろん脚本があり、その設計図がすべてだと思っています。その中で僕が演じる人にフォーカスを当てるわけですが、脚本の中に僕が演じる深見のバックグラウンドだったり、膨らませるエッセンスがいっぱい入っていて、それを膨らませて反映させることで、その人物を俯瞰的に見ることができる。そこから自分の感性や、経験値として足りない感情であったりを、自分の中で引き出してくっつけていく感じです。もしも僕だったらでもいいのですが、僕が深見だったらだけで考えてしまうと、逆にいろいろなことを落としていってしまうような気もするんです。明らかに僕と生きてきた背景が違うので、自分と比べきれない。だから、誰かが演じているイメージを一度作り上げたい。そこから自分と似た感情だったり、自分の人生を利用したり、そういう作業をしますかね。

音楽の存在

福士誠治

――話は変わりますが、今回映画初主演だけでなく、音楽ユニット「MISSION」としての顔もあり、活動の幅が広がっていますよね。

 俳優、役者と日頃自己紹介をしていますが、いつからか表現者と大きなくくりで言うほうが性に合ってきた時期がありました。バンドで集うだけじゃなく、舞台の演出もやり始めた時に、これも表現だなと。朗読や声だけの仕事などが続いた時期もあったので、広く何かを表現して発信していくことが、なんかとても幸せに感じたんです。「二足の草鞋?どっちなの?」「大変じゃない?」って、周りは言うかも知れないけれど、やりたいんですよね、僕が(笑)!そういう心持ちになれたことが大きかったです。

――どっちか決めるという問題じゃないわけですよね。

 どっちも楽しいじゃないですか。子どもなんですかね?自分が(笑)。ほしいものに出会えるようにもなってきたというのもありますが、音楽は音楽で、改めて取材してほしいくらいです。一緒にやっている相方がいますので!

――何かを表現する、その方法が違っていると捉えられますよね。

 そういう話をよくします。音楽ってみんな好きですよね。いくつになっても。だから人生の生きがいとして、音楽活動は楽しいです。40歳近い男がいきなりバンドを組み、「君たち、ついて来い!」みたいな(笑)。もったいないじゃないですか。レールの上だけじゃ。会社員で給料がこれくらい、ボーナスがこれくらいで、定年が60歳で、って。計算しますよね。生涯のこと。それを踏まえて何かできるのであれば、心豊かな生活をしたほうがいい。ちょっと高いけれど、昔ほしかったギブソンのギターを買おうとか。練習して今ならアプリでもなんでも仲間を集めて、すぐスタジオ入ってできますよ。僕はそれを本気でやっているだけです。

――ロックですね!

 だからちょっとずつですけど、ライブは男の人にも観に来てほしいです。夢じゃないですか、カッコいい歌をカッコよく歌うって。もっと追求することが山ほどありますけど、心の動きみたいなものは単純に子ども心で持っていたい。俳優業も音楽も舞台の演出も、別のエネルギーで楽しいことだなと思います。ぜひ音楽でも取材お願いします!

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