INTERVIEW

ピート・ドクター

ダナ・マレー×ケンプ・パワーズ
3人が明かす『ソウルフル・ワールド』制作秘話


記者:木村武雄

写真:提供写真

掲載:20年12月25日

読了時間:約6分

 “生まれる前の魂(ソウル)の世界”を描く、ディズニー&ピクサーの最新作『ソウルフル・ワールド』(原題=Soul)が12月25日にディズニープラスで独占配信される。ピクサーの草創期から監督として数々の作品を手がけ、アカデミー賞を2度受賞したピート・ドクター監督が“人生”をテーマに制作した。そのピート監督、そしてプロデューサーのダナ・マレー氏、共同監督で脚本を手掛けたケンプ・パワーズ氏にインタビューを行った。【取材=木村武雄】

あらすじ

 NYで暮らすジョーはジャズ・ミュージシャンになる夢を叶える直前、マンホールに落ちソウルの世界へ。そこは生まれる前のソウルたちに、自分だけの個性が与えられる場所だった。

 そこでソウルたちの好奇心旺盛な性格や、感じがいいけど疑い深い性格というような個性が決まる。そして最後に見つけなければいけないのが自分だけの“人生のきらめき”。心から夢中になれるものを見つけた時、ソウルたちは地上に生まれることができるという世界なのだ。

 しかし、人生のきらめきを見つけられず何百年もソウルの世界に留まっているのがこじらせソウルの22番。彼女は何をやっても夢中になれるものが見つけられず、生まれる価値などないと考え、マザー・テレサら人生の偉人でさえも、22番に人生のきらめきを教えることはできなかった…。

 そんな22番が音楽教師のジョーと出会い、人生の素晴らしさを知っていく。

「ソウルフル・ワールド」(C)2020 Disney Enterprises, Inc./Pixar

ピクサーマインド

――23年の歳月をかけて製作されたそうですが、なぜその23年も時間がかかったのでしょうか。

ピート監督 あるインタビューで「23年かかった」というのをジョークで言ったんだけど、日本資料には本当に「悩んで23年がかかってしまった」みたいに書かれてしまっているのかもしれない(笑)。

ダナ ピートって本当に作業が遅いのよ(笑)。

ピート監督 いや本当に23年分の想いを込めて作ったんだよ(笑)。時機が来るまでリリースしなかったのさ(笑)。まあそれはジョークとして、始まりは僕らの子供が生まれたときなんだ。人生で個性は形作られてくるものだとはよく言われるけど、赤ちゃんのときから個性があって、それはなんでだろうと思ったところからソウルの世界を想起して。そこから製作には4年がかかった。

――ピクサーは、監督たちの“個人的な体験”をテーマにすることで共感が出来る物語が生まれるとも話していましたね。ダナさんも子供を主人公にした『LOU』という短編も作っていますが、今回の構想を聞いて最初どう思ったんですか。

ダナ 最高に難しそうだなと思ったの。この物語を映像化するなんて不可能じゃないかって。でも私はこう思ったわ。「最高ね! ではやりましょう!」って(笑)。ピクサーは1つの作品に4、5年かけて作っているの。それだけ深い思いを入れがなければ作ることができない。この作品を作るにあたって、宗教的なこととか、スピリチュアルの専門家、文化的なコンサルタントにも話を聞いて、そうしたいろんな人たちに手伝ってもらって作ることが出来た。本当に満ち足りる体験だったわ。ピートの作品はいつもそうなんだけど、自分の思考というのを広げてくれるし、作品作りの中で学ぶことがとても多い。一歩前に背中を押してくれる作品だから、今回も最高だったわ。

――難しいと思われるものを「最高!」と思えるマインドはすごいですね。ケンプさんは元々新聞記者で、40代で脚本家の道に進まれた経歴を持っていますが、新たに挑戦する中で今回は脚本も手掛けられました。意識した点は?

ケンプ アニメーションの脚本は今回が初めてだったし、ピクサーの脚本を書くことも人生で経験したことがなかったことだったんだ。僕は脚本を含め、物を書くことはとても孤独な作業だと思っていたけど、ピクサーとの脚本作業はチームスポーツだった。ストーリーは脚本家たちが作るけど、ストーリーアーティストの方達がいろいろ貢献してくれるので、すべての物語を作っていくステップというのはコラボレーションなんだ。だから脚本家としてもコラボレーションにオープンでなければいけないし、大きな挑戦というよりは今までとは違った作業という感じだった。僕にとってはポジティブな経験だったし、最高の仕事環境だった。それと他では違う点が1つあって、ピクサーは物語を何度も何度も書き換えて良くしていくんだ。今回もどのくらいバージョンがあったか分からないくらいだった。

コロナ禍で考えさせられた時間

ダナ・マレー

――さて、ピクサーの作品は現実社会では出来ないことをアニメで実現させています。『トイ・ストーリー』や『カールじいさんの空飛ぶ家』、『モンスターズ・インク』や『インサイド・ヘッド』もそう。そういうことがあったら楽しいなとか、夢があるなとか。作品作りで一貫して大事にしているものはなんですか。

ピート監督 ストーリーを作る時に重要なのは、見ている僕らにちゃんと響くものであること。感情移入できるストーリーであることなんだ。たぶん観ている方というのは、自分自身をスクリーンに反映したものを観たいと思っている。それがおもちゃであれ、モンスターであれ。それと同時にサプライズも期待している。ピクサーの一つの挑戦というのは、どのくらいみなさんが自分達をそのままその作品として見られるのか。つまり慣れ親しんだものがそこにあるのか。そして、サプライズがある程度あるかということ。ただ、サプライズばかりだと何が何だか分からなくなってお手上げになってしまう。全部が予測のつくものでサプライズがないと面白くなくなってしまう。両方のバランスをしっかり見つける。慣れ親しんでいる世界やキャラクターなんだけど、そこにひねりを加えてサプライズをもたらすものを見せたいといつも考えているんだ。

――今回の作品は、先程スピリチュアルという話もありましたが、目に見えないものに対していかに想像を働かせるかということの大切さを感じますし、コロナ過で希望を失っている中で重なる部分もあると思う。その辺どう捉えていますか。

ピート監督 製作を始めたのが5年前で、その時と今は状況も時代は違う。特にここ1年大きく世界は変わっている。確かに今日(こんにち)起きていることにすごく響く事がこの映画には入っていて、朝何のために人は起きるのかという事なんかも考えさせられるものになっていると思う。以前までは朝起きて仕事に行ってとか、旅行に行ってというのが当たり前だったけど、今は「今日そんな重要な事があったっけ?」みたいな。そのことを今改めて考えたりしているんだ。

ダナ 多層構造の作品だけど、まさか2020年がこのような状況になるとは思っていなかった。どうやって時間を過ごすのかという事を改めて考えさせられている気がする。

ケンプ 僕はコロナが終わったら旅がしたいよ。人と単純につながる喜びというものを今僕らは味わえていないし、その素晴らしさを改めて感じるし、レストランでテイクアウトではないメニューが食べられる時が来たら、本当にマジカルな瞬間なんだろうと思う。

劇中に登場させた監督のメンター

ケンプ・パワーズ共同監督

――大切な人が亡くなってその人に会いたいという気持ちを持っている人もいるかもしれません。その人にとっては、魂にスポットを当てた今回の作品を通じて、会いたい人に会える体験を得られるかもしれないですね。少なくとも私はそう思って感動しています。伝えたい大切なメッセージがありましたら教えてください。

ピート監督 今回22番のキャラクターのメンターであった方々がたくさん出てくるんだ。その壁に貼られている2人が僕の実際のメンターだった。もう亡くなっているんだけど、いまだに彼らに話しけるし、彼らも話しかけてくれる。それが現実なのか想像している事なのかは分からないけど、煮詰まったりすると彼らに話しかけ、それが魂なのか彼らのエッセンスが自分の頭の中で内在化しているのか分からないけど、そうやって今でも繋がりを持てている。肉体という意味では無くなってはいるんだけど、そういう関係というのが変わっただけなんじゃないかと捉えているんだ。だからいつでも会えると思うよ。

(おわり)

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