INTERVIEW

浜野謙太×川栄李奈

ささいな日常、無駄と思える時間が大切。
『ソウルフル・ワールド』日本版声優


記者:木村武雄

写真:提供写真

掲載:21年01月06日

読了時間:約5分

 浜野謙太と川栄李奈が、ディズニー&ピクサーの最新作『ソウルフル・ワールド』(ピート・ドクター監督)の日本版声優を務めている。洋画アニメーションの声優初挑戦となる浜野は“ジャズ・ピアニストを夢見る”音楽教師のジョー役、川栄は“自分のやりたいことが見つけられず「人間の世界に行きたくない」と何百年もソウルの世界に留まっている“ソウルの22番役の声を担当した。ジャズ・ピアニストになりたいという夢だけを追いかけ“夢を叶えるためになんとしても地上に戻りたい“ジョー”と、“こじらせソウル”の22番。正反対の2人の出会いが生んだ奇跡を描く。自身の考えを見つめるきっかけにもなったという本作。どういう思いで臨んだのか。【取材=木村武雄】

浜野謙太が思う大切な時間

左が22番、右がジョー(C)2021 Disney/Pixar.

――川栄さん、この話が決まった時、嬉しさのあまりに叫んだそうですが、どのように叫んだのですか(笑)。

川栄李奈 「えっ! 本当に!」という驚きに近い叫びだったかもしれません(笑)。もちろん私も喜びましたが、私以上にマネージャーさんが喜んで。報せを聞いた時は私、お風呂に入っていたんですけど、急ぎの電話だったので取ったら「すごい! 決まったよ!」って。私も驚いてその後、家族に伝えました、「決まったよ!」って。

――一方の浜野さんは、プロのジャズ・ピアニストになる夢だけを追い続けるジョーに「俺だ!」と思ったそうですね。

浜野謙太 僕はミュージシャンと役者をやっていますが、そのなかで危うく見失いがちになることがあるんです。大きな役目や希望みたいなものが分かりやすく見えると、日々の小さな喜びや、音楽をやっていることの喜びを置いてしまいがちになるんです。そうした“見失いがち”な点をジョーに重ねていました。ジョーは、マンホールへ落下してしまいソウルの世界に行きますが、「生きるんだ!」と地上に戻りたいという勢いはあるものの、「じゃあなんで生きるの」という目的意識は薄かったりもする。この世界はそれを探す旅でもありますし。

――見失いがちになるのは忙しさのあまりに?

浜野謙太 目的意識が強すぎるからだと思います。例えば「売れたい」「こんなドラマに出たい」とか、「主役をやりたい」とか。もちろんそうした思いも大事ですが、それよりも大切な「物語が素晴らしい」や、「演じることが楽しい」、「音楽で踊ることが気持ちいい」という事をふと忘れてしまう時があるんです。目的ばかりが先行してしまうというか。

――見失っていると気づいた時、どのように立ち止まっていますか?

浜野謙太 無駄と思いがちな時間が大切だと思います。例えば、子育てしている時、子供と接している時間ってお金にならないから「無駄じゃん」って思う人もいるかもしれない。でも、僕にとっては幸せな時間であり立ち返れる時間というか。そういう何気ないところにすごく素敵なものが詰まっている気がします。僕も人生の途上にいますが、本当に見失っちゃうんですよね。子供との時間もそうだけど、ゲームしている時間とかも。ゲームしている時間って無茶苦茶無駄じゃないですか(笑)。でもハマって楽しんでいる瞬間が大事というか。そういう「無駄じゃん」と思うところがないと音楽も湧いてこないような気もします。

――ミュージシャンの方が俳優をされていると、音楽の時は素の状態だからいいバランスになっていると聞きますが、音楽の面でもそういうふうに感じる時があるんですね。

浜野謙太 音楽との付き合いも長いですから、辛いときも良いときもあります。なるべくわがままに自由に行き来するようにしているんですけどね。僕には「芝居の時間と音楽の時間を都合よく行き来するように」っていうポリシーを設けてあって、でもなかなか上手くいかないですね。

浜野謙太

川栄李奈、目標を達成する過程も大事

――川栄さんは22番というキャラクターをどう解釈されて、どのように声を演じられたのですか。

川栄李奈 22番は人間の世界に行きたくないし、特に目的もない、きらめきが見つからないというキャラクターでした。私もガツガツしていないというか、夢や目標があってもそこに「いくぞ!」というよりかは、流れに身を任せて、「そうじゃなかったらそれでいいや」みたいなところがあるんです。なので、感じ方が22番とちょっと似ているところがあるかもしれないですね。

――川栄さんは、この作品を観たら「きっと自分の考え方が変わると思う」と話していましたが、ご自身はこの作品に携わって考え方に変化は?

川栄李奈 ジョーの行動を見て、私と性格は違うなと思いましたが、共感できるところもあって。ジョー自身は夢を実現させたいけど、「あれ?これがやりたいことだったのかな」「はたして僕が行くところはここなのかな」と迷うところもあります。それを見て「分かるわー」と頷きました。私自身も思い当たる節があって、夢が叶うと「あれ?叶ったけど、これだっけ?何だっけ?」と思うことがあるんです。初めは、考え方はジョーっぽくないと思ったけど、物語が進むうちに、実はみんなもこういう考え方がどこかにあるかもしれないと思いました。

――夢も大切ですが、もう一つ大切なものがあるとしたら何だと思いますか?

川栄李奈 夢を達成するということも大事な目標だと思いますが、この作品を観て思ったのは、達成するまでの過程がすごく大事だなって。出会う人や、ささいな日常が大切だと思いました。

川栄李奈

影響を受けた人、会いたい人

――22番はジョーに出会い、ジョーはソウルの世界に行ったことで考え方に変化が出てきますが、これまでの人生の中で影響を受けた人、亡くなったけれど会いたい人がいたら教えてください。

浜野謙太 僕は水木しげるさん。水木さんの幸福論ってめちゃくちゃ面白くて。『鬼太郎』をしっかり読んでこなかったけど、戦争のことや自分のエピソードが本当に面白くて。「人生は好きな事だけやっていればいい」と、それ以外の細かいことは言わないというか。妖怪と繋がって妖怪に漫画を書かされてみたいな。戦争から帰った時も戦死した上官の亡霊とか見て、「笑ってんじゃねー」と亡霊に言われるけど、「幸せだったら思いっきり笑えばいいんだ」とか「へらへらしていよう」みたいな極端な感じが好きです。

――会って話してみたいですね。

浜野謙太 話が通じるかどうか分かんないですけどね(笑)。

――川栄さんは。

川栄李奈 私は影響を受けた人としてお母さんです。お母さんは自分の好きな事をさせてくれていて、私は周りの意見を聞かず自分で決めてしまうタイプなので、事後報告が多いんです。それでも「自分がやりたいならいいんじゃない」と何でもやりたいことをやらせてくれました。それが今になって、決断力として培われた気がします。本当に感謝しています。

川栄李奈と浜野謙太

(おわり)

『ソウルフル・ワールド』はディズニープラスで独占配信中。

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