ジョン・バティステ、映画「ソウルフル・ワールド」で表現した音楽とは
INTERVIEW

ジョン・バティステ

映画「ソウルフル・ワールド」で表現した音楽とは


記者:編集部

撮影:

掲載:20年12月25日

読了時間:約8分

 今アメリカで最も注目されている若手ジャズ・ミュージシャンのジョン・バティステ。ニューオリンズの音楽一家で育ち、ニューヨークの名門校ジュリアード音楽院でピアノを学び、在学中にステイ・ヒューマンというバンドを結成。また、注目されている点のひとつに“ブラック・ライヴズ・マター”運動の平和的な抗議活動がある。 そのジョンが音楽を手懸けた映画『ソウルフル・ワールド』が12月25日からディズニープラスで配信されている。それにあわせて、オンラインでインタビュー。映画をはじめ、抗議運動についてもいろいろ語ってくれた。

音楽とは人とのつながりの中から生まれるもの

「ソウルフル・ワールド」(C)2020 Disney Enterprises, Inc./Pixar

――これまでにスパイク・リー監督の映画『レッド・フック・サマー』(2012年、日本未公開)の音楽を手懸けられていますが、アニメーション映画の音楽は初めてですよね。今回引き受けられた理由は、どこにありますか。

 ひとつは、ピクサーという制作会社が好きだということ。ピクサーの作品にはソウルを感じるし、描かれている物語に深みもある。彼らの理念というのがこれまたクールで、全世代、全文化をひとつにする作品を作り、それを全人類に発信するというもので、僕自身とても共感している。それが『ソウルフル・ワールド』の音楽を引き受けた理由なんだ。

――主人公のジョーがジャズ・ミュージシャンを夢見る音楽教師ということから、劇中で多くジャズが流れます。ピート・ドクター監督から「ジャズを聴く人なら誰でも、ジャズ・ファンじゃなくても、初めて聴く人でも入り込めると思えるような曲を書いて欲しい」と言われたそうですが、その時にこれこそが自分のやりたかったことと応えられたと聞いています。それはどういう理由から?

 きっと聴いたら好きになるだろう、という思いから、まだ知らないでいる人達に音楽を紹介することに生き甲斐を感じているんだ。きっとロックやポップが好きな人が、普段ジャズを聴く機会はほとんどないんじゃないかと思う。でも、ジャズって本当に素晴らしい表現が出来る音楽だと僕は信じている。だから、『ソウルフル・ワールド』に関わることで、何百人、何千人、いやもっと大勢の人達に、彼らの人生観や世界観さえも変え得るジャズという音楽に出会って欲しいと思ったんだよね。

――幅広い層に受け入れられるジャズ。言うのは簡単だけれど、実際に作曲するとなると、制約もあるだろうし、難しいと思うんだけれど……。

 これをやるためにこれまでずっと経験を積んできた。僕が生まれ育ったニューオリンズという街は、ジャズ発祥の地ではあるけれど、音楽をジャンルで考えることはなく、音楽とは人とのつながりの中から生まれるものという意識が根付いている。その考え方は、ジュリアード音楽院でクラシックを学んでいる時も変わることはなかった。在学中に結成したバンド、ステイ・ヒューマンでもそれを実践している。だから、「みんなに聴いてもらえるジャズ」を作るということは僕にとって新しいチャレンジではないんだ。それをやりたくて経験を積み重ねてきた15年のキャリアのなかで、ようやく花開く時が来たと思っている。このために今まで頑張ってきたんだという思いさえあるんだ。

――具体的に作曲を始めるなかで、お父さんとの思い出や、音楽が2人の絆を深めたことなど、父親のマイケルさんとの関係が作曲のインスピレーションになったそうですが、それはなぜですか。映画のテーマは、親子の物語ではないですよね。

 これまで多くの人が音楽のメンターとなり、僕を導いてくれたけれど、人生最初のメンターは、父さんだった。僕の家族は、全員が音楽に関わっていて、親族で結成したバティステ・ブラザーズ・バンドと共にツアーし、世界各地で演奏するという環境で育った。ジュリアード音楽院に進学するために地元を離れた後は、ジャズならばアビー・リンカーン、カサンドラ・ウィルソン、ロイ・ハーグローヴ、ウィントン・マルサリス、ロックならばプリンス、レニー・クラヴィッツ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズとの仕事を通して、多くを学ばせてもらった。彼らからたくさんのインスピレーションをもらった自分を振り返りつつ、主人公ジョーのジャズ・ミュージシャンとして成功したい気持ちにもインスパイアされて作曲していったんだ。

――劇中ではあなたが作曲したジャズが流れる一方で、エンディングではカーティスト・メイフィールドの『イッツ・オールライト』をジャズのアレンジでカヴァーしていますよね。高音の優しいヴォーカルがとても素敵ですが、このカヴァーはご自身のアイディアですか?

 監督のピートと共同監督&脚本家のケンプ・パワーズと、ラストシーンにはどんな音楽がいいか、という話し合いを重ねた。ちょっとメランコリックでありつつ、新たな希望にも満ちている。そんな主人公ジョーの心情を表現するのにふさわしい音楽はなにか。3人でいろいろアイディアを出し合うなかで、やはりブラック・ミュージックの伝統を継承しているアーティストがいいだろうということで、カーティス・メイフィールドの名前が挙がった。彼は、偉大な作詞家、作曲家でもあり、本当にいい楽曲をたくさん書いている。その名曲の宝庫から最終的に『イッツ・オールライト』を選び、ジャズのアレンジで演奏し、僕が歌うことになった。

――映画を観て、大人が観るべきアニメーション映画だと思いました。いろいろなメッセージが受け取れますよね。そのなかでも主人公ジョーの生き生きとしたピアノの演奏がリアルで、とても印象的でした。

 僕も初めて観た時は、ショックだった。というのは、あのピアノを弾く指の動きは、実際に僕が演奏したパフォーマンスをアニメーション化したものだから。嬉しさとショックで、試写を観ながら、口があんぐりと開いてしまった。希望や愛に溢れた映画の美しさにも感動したけれど、驚きの連続でもあったね。

“ブラック・ライヴズ・マター”運動について

――さて、“ブラック・ライヴズ・マター”運動についても聞かせて下さい。あなたの非暴力的な活動が高く評価されていますが、運動を始めたのはどんな理由からですか。

 始まりは2009年で、僕は“ソーシャル・ミュージック”と呼ぶ、社会を意識した音楽、これまで僕らが生きてきた社会や歴史で起きたこと、そこに自分の経験を掛け合わせた表現の音楽を試みてきた。そして、その音楽をニューヨークの地下鉄や街角、公共の場、レストランなどでも演奏してきた。抗議運動のなかで行進したり、演奏したりすることは、“ソーシャル・ミュージック”の原点だと思っている。音楽が商業化する前のカタチでもあるよね。昔は、日々の生活の中で起きたことを音楽で表現していたわけだから。それと同じようなことをやろうとしているだけさ。

――ということは、たまたま今年主要メディアが報道するなどして脚光を浴びているけれど、ずっと前から続けていたということ?

 行進はニューヨークでも、世界各国でも10年以上は続けている。ラヴ・ライオッツ(愛の暴動)と呼んでいるんだけれど、大勢が集う真ん中にバンドがいて、演奏をしている。行進していてわかることは、集まってきた人の熱気のすごさ。ニューヨークは、特に人種のルツボだから言葉が通じない人もいるけれど、そういう人も集まって、一緒に歌い、手拍子をしたり、踊ったりするなかで、愛を分かち合うことが出来る。そういう場所を僕は作り続けているんだ。

――「ウィー・アー」という曲は、その活動の中から生まれた曲ですか。

 結論から言うと、そうではなくて、かなり前に書いた曲がニューヨークでの「WE ARE - a peaceful protest march with music」の行進にピッタリだと思ったので、演奏したんだ。もともとはファンクのリズムが核にあり、そこに中東風のハーモニーが重なり、さらにクワイアの歌を加えてみると、これまで聴いたことがないようなグローバルなサウンドになった。そこから繰り返し歌う<ウィー・アー~♪>という歌詞が生まれたんだけれど、何か足りないと思うなかで、マーチングバンドと聖歌隊が共演するヴィジョンが生まれた。曲が完成した時点で、これをどう表現すべきかと考えた時、僕の大切な人達に参加してもらいたいと思い、故郷ニューオリンズで祖父が率いる教会のクワイアと、僕が卒業した高校のマーチングバンドに演奏してもらった。それがニューヨークの抗議運動で人々に知られることとなり、シングルとして配信されることになったんだ。

(おわり)

 ジョン、いろいろなお話をありがとうございました。 映画『ソウルフル・ワールド』のオリジナル・サウンドトラックには地上の世界を担当したジョン・バティステの音楽の他に、生まれる前のソウルの世界を担ったトレント・レズナーとアッティカス・ロス、映画『ソーシャル・ネットワーク』でアカデミー賞作曲賞を受賞したチームによる、愛らしい浮遊感が未知の世界の旅を盛り上げてくれるようなイマジネイティヴな音楽も収録されている。

作品情報

『ソウルフル・ワールド オリジナル・サウンドトラック』(UWCD-1096/税込2,750円)
12月23日(水)よりCD発売/デジタルアルバム配信中
試聴とご購入はこちらから:https://umj.lnk.to/Soul_OST
商品情報はこちら:https://www.universal-music.co.jp/p/uwcd-1096/
発売元:ユニバーサル ミュージック合同会社

『ソウルフル・ワールド』映画情報

『トイ・ストーリー4』『リメンバー・ミー』のディズニー&ピクサー史上“最も深い“感動の物語。日常の中で<人生のきらめき>を見失っている全ての人へ贈る、”魂”を揺さぶるファンタジー・アドベンチャー!生まれる前の魂(ソウル)たちの世界で、「やりたいこと」が見つけられず何百年も暮らす“こじらせ”ソウル・22番と、この世界に迷い込んだジャズ・ピアニストを夢見る音楽教師・ジョーによる奇跡の大冒険が始まる!

ディズニープラス情報

Disney+ (ディズニープラス)は、ディズニーがグローバルで展開する定額制公式動画配信サービスです。ディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズ、ナショナル ジオグラフィックの名作・話題作が続々と登場。『リメンバー・ミー』や『トイ・ストーリー4』を含むピクサー長編映画21作品はもちろん、短編ショーツもオリジナルも全てが定額見放題でいつでも、どこでも、楽しめます。(C)2020 Disney Enterprises, Inc./Pixar

この記事の写真

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)

関連する記事