「普通ではない空間を、完全に自分のものにしていた」制作総括の出水有三氏は自信に溢れていた。
10月31日スタートのよるドラ『閻魔堂沙羅の推理奇譚』(NHK総合)。ミステリー作家・木元哉多氏の人気シリーズのドラマ化だ。閻魔堂の主・沙羅(演・中条あやみ)が生き返りを願う亡者に、誰に、なぜ、どのように殺されたかを推理させ、その真相を解決させる。
「ファンタジー要素はありますが人間ドラマとして成立させたかった」(同氏)。それを実現させるために求めたのは「リアリティ」。圧倒的な存在感とビジュアルで沙羅を演じ切れるのではないか、と白羽の矢を立てた。その期待に応えたのが主演の中条あやみだ。
誉め言葉に「ハードルが上がる」と照れ笑いを浮かべるが、画面に映る沙羅は森羅万象を知り尽くしているかのごとく堂々としている。「今までとは違う中条あやみ、沙羅を見えて頂けると思います」と手応えを口にした。
原作があるとは言え、異質の閻魔大王の娘という役柄に当初は「どう演じればいいのか」と悩んだそうで、現場でスタッフと話し合いながら作り上げていったという。そのなかで鍵を握るのは達観性。「沙羅は、人間というものはどういう生きものなのかを熟知していて、全てを見透かしているかのようなキャラクター。ぼそっと発する一言が図星を突いている。そういう言葉のきつさや強さを表現しようと思いました」
役作りの手助けになったのはロケ地と衣装。
「毎回、違った衣装をスタイリストさんが用意してくれました。沙羅のSっ気や、大人なのか子供なのか分からないようなところでの遊び心を衣装に取り入れて下さって。その衣装を着るとテンションが上がりますし、衣装だけでなくメイクも豪華。役に入るための大切な武器になりました。ロケ地もかなりこだわられていて、画力(えぢから)があり、それだけでも見ごたえがあります」
印象深かったロケ地は、閻魔堂のシーンを撮った奈良の旧奈良監獄。「実際使われていた監獄で迫力のある場所でした。沙羅としてはやりやすい環境でしたが、亡くなって閻魔堂にきた亡者は怖かったと思います(笑)」
仕草にもこだわった。「沙羅は人間ではなく、閻魔堂に何百年も何千年もいる。歩くときもただ普通に歩くのではなくそろりそろりと。瞬きもしないようにしました」
セリフのなかで印象に残っているのは、<閻魔の世界では裁きは常に公平。人間がどんな悪いことをしても閻魔堂に来たら必ず裁かれる――>。「たとえ人間界では許される悪いことでも見透かされるということが印象深かったです」
制作はNHK大阪。大阪出身の中条は撮影期間、実家から放送局まで通っていたそうで「家を出るときは家族に『行ってきます!』と伝えていました(笑)。クランクインした場所が、小さい時に良く遊びに行っていた靱(うつぼ)公園でした。思い出のある場所で沙羅を演じているのは少し不思議な感覚でした(笑)」
柔らかな表情でそう語る中条。「ドラマを通して、悔いなく今を生きることや、人生をしっかり楽しみながら生きて行こうと思ってもらえる作品になっています」と呼びかけた。【取材=木村武雄】