INTERVIEW

島崎信長

僕の本質は山本理央に近い――『思い、思われ、ふり、ふられ』当初は意外だった配役


記者:鴇田 崇

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掲載:20年09月28日

読了時間:約6分

 大人気少女コミック「ストロボ・エッジ」と「アオハライド」、その両作の系譜を継ぐ「咲坂伊緒 青春三部作」の最終章にして、累計部数500万部を突破した「思い、思われ、ふり、ふられ」が、史上稀にみるアニメーション&実写での連動W映画化プロジェクトが実現した。このうちアニメーション制作は、大ヒット作品『劇場版 ソードアート・オンライン-オーディナル・スケール-』のA-1 Picturesが担当。4人の高校生が過ごす、青春時代の何気ないようで特別な時間を、ときめきや切なさという細やかな感情と絡めながら、ドラマチックに描いていく。

 そのひとり、山本理央役の島崎信長(※崎は山へんに立つ可)にインタビューを敢行した。「Free!」(七瀬遙)、「ダイヤのA」(降谷暁)、「ソードアート・オンライン アリシゼーション」(ユージオ)など高い評価を得ている人気声優が、演じる上で大切にしていることとは。本人に聞いた。【取材・撮影=鴇田崇】

(C)2020 アニメ映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会(C)咲坂伊緒/集英社

山本理央に合っていた

――今回は、どのような経緯で出演が決まったのでしょうか?

 まずオーディションのお話をいただいて、受けさせていただきました。オーディションは複数のキャラクターで受けさせていただくことが多いので、今回は実はふたりとも理央も和臣も受けました。そして出演が決まったという連絡を受けた時に相手役が斉藤壮馬君だと聞いて。最近の自分の中の感触では僕が和臣で、壮馬君に理央のイメージがあったので、配役が反対だったことを知って意外だなと思いました。でも実際にやってみたらすごく納得がいくキャスティングで、僕も壮馬君の和臣が好きになって、本質的には自分は理央が合っていたなと思わされましたね。

――ご自身が理央だなと思われた一番の理由は何でしょうか?

 理央ってすごく分かりやすい男の子なんですね。和臣も方向性が違うだけで実はストレートな子だと僕は思ってるんですけど(笑)、理央はいじけたり、自分の中でくすぶったり、怒ったり悲しんだり、全部が等身大のところがある。僕も普段、いろいろと考えはするのですが、最後のほうは感情で決めてしまうところがあるんですよ(笑)。「ものごと気持ちで!」みたいなタイプでもあるので、理央のほうが自分との親和性が高く、演じやすくて好感が持てました。朱里や由奈とのシーンでは、由奈と話しているシーンのほうが、僕個人の感覚では話しやすい感じがして。どんどん話したくなる感じがして、自分の中の扉が開かれていくような感じもあって。そういう意味での僕の本質は、理央のほうが近いなって思いました。

――演じるキャラクターと自分自身の感情を、まるで交互に往来しているような作業の繰り返しで正解を見つけていくものなのですね。

 そうですね。でもそれは作品や演じる役柄にもよると思うのですが、こういう等身大の青春ものは、より自分に近づくというか、感情移入するところがあります。キャラクターとして固めてしまうと、どうにもウソみたいな感じになる。もともとウソを本当にする仕事で、それはお芝居をする仕事であればどのジャンルも同じことだと思いますが、そのなかでもリアリティーを追い求めていく、そこに生活をしているほどの等身大のリアルを求めるとなると、より繊細な寄り添い方をしますよね。盛りもせず、作り込みもせず、極力余計なものを削いで、本質的な部分で近づけたらなと思うことが多いですね。

(C)2020 アニメ映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会(C)咲坂伊緒/集英社

――理央はどのようにキャラクター像を作り上げたのでしょうか?

 理央に関しては、冒頭から大きなディレクションはいただいてないんです。方向性くらいです。でもひとつだけ、冒頭で由奈ちゃんと仲良くなる前の理央は、これからかわいらしい男の子に到達する前の、出発点ではもうちょっと柔らかい理央で初めはトライしたんです。そこではもっと、壁や距離があったほうがいいと言っていただいて。僕はキャラクター個人しか観ていなかったけれど、監督は完成形まで予想しておっしゃっていたので、完成した映画を観た時にバチっと理解できました。壁があったけれど次第に柔らかくなっていく出発点は、到達点が鮮明に見えるなあって関心しました。明確なビジョンをお持ちだったということになりますよね。

――キャラクターを演じる上で心がけていることは何でしょうか?

 自分がどうのではなく、作品を良くするためには何をするかを考えています。それが一番大事なことだと僕は思います。自分がどう見える、どういい声を出すか、島崎信長がどう目立つのかではなく、山本理央が輝くためにはどうすればいいのか、作品のために何ができるのかを考えて行動できればいいなと思いますね。みなさんそう思ってやっていると思いますが。

僕はこの仕事が一番好きだなって

――ところで音楽の話もうかがいたいです。どういう楽曲が好みですか?

 いつも聴いているわけではないのですが、内田雄馬くんという後輩の声優がいて、実は彼の曲をよく聴いています。聴いていると、彼の楽しそうな顔が浮かぶんですよね(笑)。僕は音楽は好きでも、あんまりアーティストのことまで思い浮かべて聴いてはいなかったんですよね。曲だけを聴いていた。でもそれはそれで没頭できるのですが、雄馬くんの場合は、彼がアーティストになる前からの関係性があり、ご飯に行ったり遊びに行ったり、彼の人間性はわかっていて、非常に身近な存在なんですよね。

島崎信長

――とても素敵なことですね。

 なんでも楽しそうにやる子なんですよ。プライベートでも暇さえあれば歌ってくれる子。人間ジュークボックスみたいな感じです。昭和歌謡のものまねも上手くて。だから彼の歌を聴くと、楽し気な彼を思い出す。メディアに出ている彼を観てそう思うので、ファンの気持ちってこうだろうなって(笑)。それは僕自身も初めての経験でしたね。生身の一個人を思い描いて、自分の思い出まで楽しく感じることは初めてのこと。なのでエネルギーをもらえるんですよね。ファンの気持ちも、ちょっとわかりました。

――話は変わりますが、今エンタメ界はダメージを受けていて、何か思うところはありますか?

 今まで当たり前にできたことができなくなり、そういう時にその大切さを知りますよね、改めて実感する。今ってアフレコもなかなか一緒に録れないと思うのですが、特に流れがあるお芝居の場合、チームを一緒に作っている感じがあるんですよね。そこでどんどん掛け合いが生まれ、それが作品にフィードバックされ、よりよい作品になっていく。先輩がたにそういうやり方を教わってきて、密な作品を作りたいけれど、今ってそれが難しい。みんなで揃って録れないし、みんなで空気を共有して作れない。だから、またやりたいですね。長く休みを取っていたようなものなのでリフレッシュはしたけれど、今度は仕事をしたいと思うし、人に会いたいと思うし、外出たいと思う。もともと楽しいことが好きでこの仕事をしていて、人生も極力楽しいことをしようと思って生きているのですが、それをもっとしたくなったし、もっと大切にしようと思いました。

――あの出来事は、仕事の魅力を再発見する機会になった方が多かったみたいですよね。

 僕は自分の姿が出ない状態で人と掛け合うことが一番好きみたいで(笑)、だから改めて収録できない期間、僕はこの仕事が一番好きだなって思いました。好きなことを仕事にするとどこかで辛くなるなんて言いますけど、僕は幸いそうは思っていないんです。大変なところはたくさんあるけれど、根本のところで楽しいことは変わってないで、このままずっと楽しく過ごしたいですね。ただ、こういう業界なのでいつ仕事がなくなるかわからないし、ずっと今の状態で仕事が続くかはわからない。やっていければいいなって希望を持ちつつ、いい表現ができたらいい、みなさんにも楽しんでほしいと思いながら、毎日楽しく過ごそうと思っています。

アニメーション映画『思い、思われ、ふり、ふられ』
9月18日(金)全国ロードショー
配給:東宝
(C) 2020 アニメ映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会
(C) 咲坂伊緒/集英社

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