Creepy Nutsが13日、『Creepy Nuts 2Man Tour「生業」2020』公演をZepp DiverCityでおこなった。そして翌日にはYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』で「生業」を披露。そして26日、1年ぶりのミニアルバム『かつて天才だった俺たちへ』をリリースする。Creepy Nutsのライブの配信とYouTubeでのパフォーマンスを観て、彼らはマイクロフォンとターンテーブル、PC、そしてあらゆる場面で、全ての所作から感じられるグルーヴを生み出す稀有な存在だと感じた、彼らの魅力に迫りたい。

全ての所作から感じられるグルーヴ

 ラッパーR-指定と、ターンテーブリスト、トラックメイカーとして活躍するDJ松永による1MC 1DJのHIPHOPユニットCreepy Nuts。彼らの来歴をざっと紹介すると、日本最高峰のMCバトル“UMB”で三連覇、『フリースタイルダンジョン』でラスボスを務める日本一のラッパーR-指定。そしてDMC World DJ Championships Final 2019で優勝し、 超絶技巧を持つ世界一のバトルDJ・DJ 松永。“日本一”と“世界一”の称号を持つ2人による1MC1DJのHIP HOPユニット。

 そんなCreepy Nutsのパフォーマンスには、ラップ、ビート、楽曲のみならず、全ての所作にグルーヴがあると感じた。そしてそのグルーヴは、音楽の好みという垣根を超えた“万人共通気持ちよいと感じるグルーヴ”があると率直に感じた。

 R-指定のラップのリリックと同期するフィジカルアクション、DJ松永のスクラッチやフェーダー捌きなどのDJプレイ、2人の呼吸、オーディエンスを煽るタイミング、曲間の無音からフェードイン、MCでの2人のトーク。そしてゲストを迎え入れるタイミングからコラボ開始のタイミングまで、Zepp DiverCity公演は全てが心地よいタイム感で進行。「よふかしのうた」から「生業」までの全14曲が心地よいグルーヴ感のなか、多幸感滲む時間が流れていた。

 生配信されたCreepy Nutsのライブを観ると、彼らのカラフルなサウンドカラーから、純粋にあらゆる音楽を楽しんでいるという感覚を味わわせてくれる。もちろんHIP HOPは基軸にあり、歪んだギターのロックサウンドやスウィングビートなども織り交ぜられ、ありとあらゆる音楽性が昇華したHIP HOPを感じさせてくれる。

 HIP HOPは1970年代に生まれ、近年まで進化し続けている。ブレイクビーツやサンプリングがトラックメイクの主な手法だった頃からデジタル機材の発展と共に、ボーカルの大胆なエフェクトから圧倒的な低音域の出力、ビートのパート単音のクオリティ、様々な音楽性をミックスさせつつも一つの音楽として成立させるなど、年々洗練されてきている。そして、そのかたちをCreepy Nutsはライブで体現していた。「HIP HOPは懐の大きい音楽」という、ライブ中でのR-指定の言葉がストンと腑に落ちるものだ。

 要所でR-指定は先述の言葉のように、多くの人が納得する言葉を端的にオーディエンスへ投げかけ、次曲に向かうというシーンがあり、そのリズム感は楽曲そのもの以外の面からもグルーヴを醸していた。それはCreepy Nutsとオーディエンスが無意識下で阿吽の呼吸を生み出し、生々しい生命の息遣いを感じさせてくれた。その点が、万人に波及するポップさもあると感じたという理由で“万人共通気持ちよいと感じるグルーヴ”という感覚が生じたのである。まるでCreepy Nutsは「人間はどのタイミングで何をすれば気持ちよいのか」ということを多角的に知り尽くしているかのようだった。

Creepy Nutsの真摯な音楽家の姿

 グルーヴとはリズムのゆらぎの心地よさ、それにより生じる高揚感などを指すと思われるが、それは音楽だけではなく、人との会話や、ふとした“間”からも感じることがあると思われる。では、“万人共通気持ちよいと感じるグルーヴ”とは何か。文字にしただけでは少しあいまいとも感じるのでひとつ例を挙げたい。

 以前、とあるアルバム制作のマスタリング(音源制作の最終工程)に立ち会い、「曲間の秒数を決める」という段階に参加した。その時はエンジニアが独断で決めるのではなく、「曲が終わって“次の曲が始まる”というタイミングだと思った瞬間に皆で挙手をする」という方法だった。曲調によってはほぼ間髪入れずに次の曲へ向かう場合が気持ちよい時もあれば、余韻を長めに残した方がグッとくる場合もあり、完全に“感覚”がものを言う場面である。

 この「アルバム曲間の無音時間設定」にスタジオにいた5、6名が全員参加したが、「このタイミングで次の曲」という瞬間は、全員がほぼ同じタイミングで挙手をするという不思議な体験が得られた。そこで、“万人共通「よし」とするタイミングがある”ということを知った。それは、Creepy Nutsのライブや楽曲から感じられる、あらゆる部分でのグルーヴ感、すなわち“万人共通気持ちよいと感じるグルーヴ”と通ずるものがあるのではないかと思った。Creepy Nutsは、HIP HOPという音楽の懐の大きさをリリック、サウンド、パフォーマンス、ライブでの運び、あらゆるタイム感全ての面を留意しているのではないだろうか。

 彼らのグルーヴ感は、YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』の「生業」のテイクからも大いに感いじられた。

 DJ松永がターンテーブルを軽く操作する準備段階からのR-指定の「行きますか」という開始合図。そしてパフォーマンス開始。おおげさかもしれないが、ここまでの流れでも率直にタイム感の心地よさを感じたのである。「THE FIRST TAKE」のテイクでは「ラッパー、DJとしての“生き様”」の真剣味がダイレクトに伝わってくる、鬼気迫るシリアスさがあった。それは、バラエティーなどで見せる彼らのポップで明るく愉快な姿とはよい意味でギャップを感じる、真摯な音楽家の姿だった。

 「DJ上手い奴とラップが上手い奴、その2人ですよ」と、ライブ中にR-指定は言葉にした。もちろん、ラップのスキル、リリックのメッセージ性、DJプレイの技術やフレキシブルな音楽性をはらんだHIP HOPサウンドと、彼らの魅力は広く深い。

 ここでは “万人共通気持ちよいと感じるグルーヴ”と表現し、その点にフォーカスしたが、断じて、“誰でも気軽に美味しく感じられる軽い音楽”という意味ではない。彼らの音楽、所作には、万人を引き込むグルーヴ感という稀有なパワーがあり、吸い寄せられるように彼らの音楽の深みとクオリティの高さに触れられる。この力を持つ音楽家の作品、パフォーマンスは、聴き手を選ばない。【平吉賢治】

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