杉山清貴「型から抜け出すことの繰り返しが人生」孤高の歌い手が出した答え
INTERVIEW

杉山清貴「型から抜け出すことの繰り返しが人生」孤高の歌い手が出した答え


記者:村上順一

撮影:

掲載:20年05月13日

読了時間:約12分

 シンガーの杉山清貴が5月13日、オリジナルアルバム『Rainbow Planet』をリリース。2018年から2019年に掛けてはデビュー35周年イヤーで杉山清貴&オメガトライブの活動にフォーカスしてきた杉山。前作『MY SONG MY SOUL』以来、約2年ぶりとなるソロ作はMartin Naganoをサウンドプロデューサーに迎えた3作目。近年の作品の中で、最も杉山清貴らしさが溢れる1枚に仕上がったと話す。インタビューではベテランから新進気鋭の若手アーティストまで参加した制作エピソードを中心に、普段から悩まないと話す杉山の思考、現在興味があることなど多岐にわたり話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=冨田味我】

最も杉山清貴らしいアルバムになった

杉山清貴

――ソロ作品としては前作から2年ほど空きましたが、その間に構想はあったのでしょうか。

 何もなかったです。これまでセルフプロデュースで、次はこうしようと試行錯誤しながら30年作り続けた中で、2016年にアルバム『OCEAN』をリリースしたのですが、完成した時に「自分はこういうアルバムを作りたくて、音楽をやってきていた気がする」というほど手応えを感じました。それで、セルフプロデュースするのは一区切りついたかなと。

 それで次を考えた時に、プロデューサーを立てて、自分にはない世界を取り入れながらボーカリストに徹する仕事をしてみたいと思いました。2017年に初めてMartin Naganoさんと一緒に『Driving Music』を制作しました。お互い初めましてだったので探り探りな感じだったのですが、Martinさんが僕にはこういう楽曲が合うかもしれないなと作られたのが、2018年の『MY SONG MY SOUL』でした。

――Martinさんとの出会いはどんなものだったのですか。

 プロデューサーを探している時に、南佳孝さんから紹介していただいたんです。今作は僕とMartinさんの2人で作った、最も杉山清貴らしいアルバムになったと思います。

――3作完成して、プロデューサーを立てての制作はいかがでしたか。

 もう新鮮なことだらけでした。自分の世界でやっていると、ミュージシャンなどブレーンはあまり広がらないんです。でもMartinさんは僕が縁もゆかりもないところから、ミュージシャンを連れてきていただけるので、それは大きかったです。アルバムの制作についても雑談している中で話すんですけど、真剣には語り合わないんです。そのふわっとした中でMartinさんはイメージを持って進めてくれて。そうしたら去年の秋頃に20曲くらいデモが届きました。

――コンセプトも委ねて。

 そうです。僕からはほとんど要望などは出していなくて。

――今作『Rainbow Planet』は、すごく杉山さんらしさが凝縮されていると思いました。歌詞にも虹にまつわる言葉がたくさん出てきますが、虹というコンセプトはMartinさんが?

 基本、作詞家に関してもMartinさん任せなんですけど、それを意図的に伝えていたかどうかはわからないんです。僕も何作か曲をもらっていく中で。虹がよく登場するのを感じていました。それで、僕からも「せっかくだから虹をキーワードにしたタイトルにしましょう」と提案させていただいて。僕もいくつか考えたんですけど、売野(雅勇)さんに作詞していただいた「Rainbow Planet」という曲があって、これがタイトルに良いんじゃないかと思いました。

――多くの作家が参加されていますが、杉山さんの中で斬新だったと感じた曲や、難しかった曲などありますか。

 毎回あります。自分で作った曲は自分が歌いやすいメロディなんです。でも、他の方が違うアプローチで来るので「これを覚えるのか!」と(笑)。特に今作でそう思ったのはmanzo君が作曲した「Fall in you」です。manzo君は過去2作でも作ってくれていて、トリッキーな曲を書くんです。

――今作の中でも異質な1曲です。

 「Fall in you」は本当に難しく、なかなかメロディが覚えられなかったんです。詞に関しては僕が最初書く予定で3~4カ月ぐらい頑張ったけど良いのが書けなくて…。それで鈴木慎一郎くんに書いてもらうことになりました。その慎一郎くんもめちゃくちゃ難しかったと話していて(笑)。

――確かにメロディラインは難しそうなんですけど、不思議と杉山さんの歌が乗るとそれを感じさせないです。

 これは歌詞が乗ったらすごく歌いやすくなりました。「ラララ」で歌っていた時は本当に難しくて。慎一郎くんは「二人の色彩」と「暗闇を照らす微笑み」の2曲を作詞・作曲してくれて独特な世界を持っています。全くタイプの違う曲を持ってくるんですけど、それも面白いなと感じています。

――鈴木慎一郎さんは、過去にロックバンドに所属されていた時のイメージが私にはあったので、杉山さんに提供された曲を聴いて驚きました。

 慎一郎くんはこれまでも何曲か書いてもらっているんですけど、実は中学生の時の慎一郎くんに会っているんです。僕が以前お世話になった方がいて、その方が退社される時に僕がその方の家に挨拶に行ったんですけど、その方の息子さんが僕のファンだという慎一郎くんでした。

サウンドやメロディから触発された「Omotesando'83」

杉山清貴

――1曲目に収録されている「Omotesando'83」は、デビューされる前の景色が描かれています。

 杉山清貴&オメガトライブでデビューが決まる頃の光景を描きました。当時の事務所が表参道にあったんです。その頃は毎日のように事務所に通って、ちょうど街がキラキラし始めた時代でした。カフェやバーが出来て、骨董通りに「Pied Piper House」という輸入盤を扱っている店があって、そこに立ち寄って新譜を探したりして。

 なぜその景色を描いたのかというと、初参加の松下昇平(M-Swift)くんが書いてくれたメロディを聴いた瞬間に、サウンドも含めて懐かしさを感じたんです。その時にキラキラした表参道のイメージが浮かんでしまって「もうこれはその時代のことを書こう」と思いました。

――歌詞に登場するレコードショップはPied Piper Houseだったんですね。

 そうです。当時は日本盤がリリースされるのは海外で発売されてから半年後だったので、新譜をいち早く聴くには輸入盤を扱っているショップに行かないと買えなくて。この時からジャケ買いが流行ってきて、日本盤はオリジナルとは写真が全然違ったりしていたんです。例えば海外盤だとアーティストのポートレイトだったものが、日本盤では綺麗な景色をオリジナルのジャケの上に紙で入れていたり、もしくは最初から完全にジャケを変えられていたりしましたから。それもすごく面白かったんです。

――「二人の色彩」は「Omotesando'83」とは方向性の違うAORですが、歌詞を見た時どのように感じましたか。

 僕らの世代になってくると「何を歌うか」、というのが肝になってくるんです。この年齢になって恋愛を歌ってもなあ、とかあるんですけど、そこを慎一郎くんはうまく表現してくれたなと思います。歌詞に<綺麗なネイルも声も好きさ>とあるんですけど、僕の世代では「ネイル」は全くなかった表現ですから。こういう曲はアーティストというよりボーカリストとしての意識を前面に出すことになります。この部分をどう歌うかは考えました。

――新しい表現方法もあったのでしょうか。

 毎回、無意識に新しい表現になっていると思います。自分で作った曲だとあまり歌い方とか考えないんですけど、いただいた曲だと自然と新しいことに挑戦していて。それはオメガトライブの時は林哲司さんに書いていただいていたので、その時から培ったものもあると思います。

――4曲目の「Daughter」は、杉山さんの娘さんのことを歌っているのでしょうか。

 いえ、僕の娘のことではないんですが、作詞・作曲をしてくださった澤田かおりさんは、僕の娘とほぼ年齢が同じで、おそらくそれもあって、テーマとして「お父さんと娘さんの歌を歌ったら面白い」と思ったと。ピアノ一本でレコーディングも一緒に同時に録りました。

――コーラスが凝っている曲もありますが、全て杉山さんお一人で?

 コーラスはすごく好きなんです。僕が一人でやったのは「君がどんな遠くにいても」です。けっこう凝らせていただきました。この曲はバンドでいつもコーラスを担当してくれている和悠美さんが作ってくれた曲なんですけど、彼女が作るコーラスがめちゃくちゃ面白くて。

作詞はコピーライティングの要素もある

杉山清貴

――「Other Views」は人生を感じさせる歌詞になっていると思ったのですが、どのような心境の時に書かれたのでしょうか。

 僕は割と天を仰いで笑うタイプなんです。あまり悩み苦しんだりしたことはなくて。でも、その裏には思い悩んで答えが出ないものに関しては、その時間がもったいないなと思ってしまって。ただ思い悩んで答えが出るものであれば、悩み苦しんでも良いと思います。僕はどんどん切り替えていくんですけど、それが違う景色を見ることに繋がると思います。この「Other Views」の取っ掛かりは、可哀想な別れをしてしまった身内がいたところから始まりました。それが冒頭の<季節の移ろいに 戸惑う日々続いているよ>という歌詞に表れています。

――杉山さんご本人のことではなかったんですね。

 僕の話ではないのですが、僕の哲学が出ている歌詞になっていると思います。

――私は結構答えが出ないことを考えてしまうタイプなんです。

 やはりマイナスになるようなことは考えない方が良いと思います。例えば、自分は存在していても良いのだろうか、人からどう見られているのかとか。人がどう思うかは僕の中では重要視していないんです。それよりも自分がどうありたいか、というのが大事だと思っています。人間はひとつのところにハマっているのが楽なんですけど、そこから抜け出すことをしてこそ、初めて一歩を踏み出せる。その繰り返しが僕は人生かなと。

――当時、オメガトライブを2年8カ月で解散させてしまったのも、そういう考え方があるからなんですね。

 もう僕は嫌だったらやめる、そういう生き方なので。オメガトライブが解散した時はスタッフにも相談しないで自分達だけで決めてしまったんです。来年のツアーまで全部決まっていたんですけど「年内で解散します」と言ってしまって。今考えるととんでもないことなんですけど(笑)。

――その決断力はすごいです。この「Other Views」は色んな気づきを与えていただける曲だなと歌詞を読ませていただいて思いました。曲も美しいですよね。

 作曲をしてくれたブルー・ペパーズの福田直木くんは27歳なんです。なのにこういった楽曲を書けるのか不思議でした。話を聞いていたら彼はアナログオタクで家に3000枚くらいレコードがあると話していて。彼のブログを見ていたら僕の世代ドンピシャで。その福田くんが作ったメロディや世界観に触発されて、歌詞もこういうものになったんです。僕はあまり内面的な詞は書かないんですけど、それは曲に触発されたからだと思います。

――表題曲の「Rainbow Planet」は売野雅勇さんが作詞をされていて、作曲は宮野弦士さんですね。

 宮野くんは更に若くて26歳です。また彼が渋い曲を作ってきてくれて(笑)。楽器は全部自分で演奏してしまうんです。こういう思考を持った人たちとは同世代の感覚で話してしまいます。彼らの楽曲に対しての掘り下げ方がすごいなと思いました。僕らはそれらを原体験して通り過ぎています。通り過ぎるということはそこにはなかなか戻れない。でも彼らは僕が通り過ぎてしまった当時のことを、いま原体験していてその旬を吐き出している感覚なんです。

――若い世代が作り上げた曲を、当時を知っている杉山さんが歌うという図式はとても面白いです。

 僕の場合はこういう曲をやりたくても、もうあんな曲書けないよな…と思ってしまうんですけど、彼らがそういう曲をポーンとくれると僕も「こういうのを描きたかったんだよね」となるんです。どんなサウンドにしたいかが彼らは明確にあるんです。そして、そこに乗る売野さんの詞は「さすがプロの作詞家だな」と感じさせていただいています。

――杉山さんが感じるプロの作詞家の所以はどんなことでしょう?

 色々あるんですけど、ワンコーラスで全てを言い切れているかどうかだと思います。その中で言いたいことが言えている方たちが言葉のプロだなと。たくさん言わないと伝わらないというのは、まだプロの域に達していないのかなと思います。なのでプロの作詞家の方たちは2コーラス書くのが大変だと言っていますから(笑)。

 その分たくさん言葉を知っていないと埋まらないと思います。決められた尺の中に収めるのは大変な作業なんです。作詞はコピーライティングの要素もあります。まさに売野さんはコピーライターから作詞家になった方ので、一瞬でその世界に引っ張る力があります。特にポップ・ミュージックはそこの真価が問われると僕は思っています。

ボーカリストとしてどこまで表現できるのか

杉山清貴

――アルバムを締めくくる「もう僕らは虹を見て、綺麗だとは言わない」は、アコースティックギターの音色が美しいですね。

 これは編曲をしていただいた小倉(博和)さんのギターです。僕が持っていった元々のデモはアコギ1本でした。それをMartinさんに渡したら「これはギターサウンドでいこう」となって、小倉さんにお願いすることになりました。確かアコギも2~3本、さらにエレキギターも重ねていたと思います。

――作曲は杉山さんですが、作詞は高柳恋さんです。なぜ高柳さんにお願いすることになったのでしょうか。

 これはMartinさんから「高柳恋さんって知ってる?」と聞かれ、僕は一緒にやったことはなかったんですけど、詞が面白いことは知っていて。それでMartinさんが「頼んでみましょう」と実現しました。この曲はタイトルだけ見ると驚くと思うんですけど、人生経験を積むと色んなものを受け入れられるようになってくると、敢えて言わなくてもいいことが出てくると思います。そういう歌なのかなと僕は思いました。あと、アルバムタイトルが『Rainbow Planet』と謳っておきながら、ラストは「もう僕らは虹を見て、綺麗だとは言わない」を持ってきたのはすごく面白いなと思って。

――さて、デビューされて35年、杉山さんの中で音楽はどのような存在に変化してきていますか。

 自分で作詞作曲をして歌うという固執していたものが外れて、なんでも受け入れてボーカリストに専念するのも楽しいですし、誰かのバックでコーラスをやるのも楽しいだろうなと思ったり。自分の音楽性の根底にあるのはザ・ビートルズだったりAORだったりするんですけど、それに決めつけてしまわない方が良いかなとは昔から思っていて。

 僕は目の前にある楽しいことをやるだけで、音楽に対してもそのスタンスは変わらないです。今、自宅にいる時は結構YouTubeを観ているんですけど、最近ジャパニーズレゲエが面白いなと思いました。でも、こうやって深みにハマっていくとレゲエの深いところに行ってしまいそうで(笑)。

――いずれ杉山さんのレゲエが聴ける日が来るかもしれない。

 やるならしっかりリスペクトして、まずはジャマイカに10年は行かないと(笑)伝統音楽はそれぐらいの気持ちで臨まないとダメだと思っています。他にもまだまだやったことがない音楽はたくさんあって、それこそジャズスタンダードやビッグバンドも面白いかな。ボーカリストとしてどこまで表現できるのか、そこにチャレンジしていきたいです。

――楽しみです。最後にファンの方へのメッセージをお願い致します。

 閉塞感が伴う今の時代に、僕らミュージシャンは音楽を作って、皆さんに提示するぐらいしかできないのですが、それで少しでも幸せになってもらえたらというのが、僕の望みです。
(おわり)

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