ラストアイドルが15日に8thシングル『愛を知る』をリリースする。表題曲の歌唱メンバーは、総勢41人が参加した選抜オーディションバトルで選ばれた。「大人サバイバー」など過去2作は同じバトルでも団結力や助け合いが求められた。メンバー同士でバトルを繰り広げる今回は原点回帰とも言える。それぞれどのような思いで取り組んだのか。【取材・撮影=木村武雄】
思いは一つ
「ラストアイドルをもっと大きくしたい」
阿部菜々実、長月翠、そして間島和奏が常々言ってきた言葉だ。その思いは昔も今も変わらない。
前代未聞のサバイバルオーディション番組から生まれたグループともあって、メンバーあるいはグループの戦いが常にあった。しかし、「大人サバイバー」以降は共に戦うことが主にあった。
総勢52人全員で初歌唱したシングル「大人サバイバー」。日本体育大学名誉教授でもある清原伸彦氏指導のもと団体行動に挑んだ。約3カ月わたる訓練で1期生、2期生の交流も深まり団結力は高まった。
「青春トレイン」は「バブリーダンス」で話題になった大阪府立登美丘高校ダンス部総監督・akane氏のもと最高難度ダンスに挑戦。振付に一人一人に重要な役割が与えられ、一糸乱れぬパフォーマンスをするには一人も欠けることが許されなかった。
バトルを主にしているグループともあって、最初は否定的な意見を持つメンバーもいた。アイドルになった意味を問うものもいた。しかし、2つの経験を通して得たのは達成感と意識向上、そして能力の底上げだった。一人一人に芽生え始めた「もっと大きくなりたい」。それを経て迎えたのが今回の「8thシングル表題曲 選抜オーディションバトル」だった。
しかし、メンバーの反応は様々だった。
昨年12月15日に、神奈川・カルッツかわさきで行われた『ラストアイドル2周年記念クリスマスコンサート』で開催が発表された際に「やっぱり私たちはバトルがないと」と前向きな意見を述べたのは阿部だった。
阿部菜々実「企画が決まって素直に嬉しかったです。団体行動と難易度の高いダンスは最初嫌だったけど、やってみて達成感はありましたし、このままの方向性で次も頑張ればまた注目してもらえるんじゃないかなと思いました。でもどこかで私は刺激を求めていてバトルに戻りたいという気持ちもありました」
その阿部は選抜オーディションバトルで1位を獲得した。過去2作だけでなく、多くの作品でセンターを務めている。1位という結果が知らされたとき「自分に満足できていなかった。この曲が勝負だと思って頑張ります」と意気込みを語っていた。個々の能力を高めるためにもバトルは欠かせないとの思いが見え隠れする。
一方、否定的だったのは間島だった。阿部と同じく「ラストアイドルを大きくしたい」という思いは一緒だ。しかし、団体行動で指揮を執ってきた彼女の捉え方は違った。
間島和奏「2019年は『ラストアイドルが他のアイドルに勝たなきゃいけない』という意識が皆の中で芽生えてきたので、メンバー同士が戦うということが嫌でした」
そうした葛藤を抱えたなかで立候補した。苦渋の決断だった。メンバー同士で戦っても「思いは一緒」ということを課題曲で示した。選曲したのはラストアイドルのアンセムとも言える「バンドワゴン」だった。
間島和奏「ただのメンバー同士の戦いではなくて、皆が一緒にステップアップするための戦いにしたいと思って歌いました。ラストアイドルを大きくしたいという意思はみんな一つだよねということを再確認したくて」
結成当時からはグループへの思いが強かったのは長月。当時から声を大にして「グループを大きくしたい」と強い意志を示していた。阿部が不動のエースならば、長月は絶対的エースといえる。しかしそんな彼女が挫折を味わう。ダンスが不得意ということから「青春トレイン」では後ろに下がった。「このままではいけない」。そんな思いで挑んだのが今回だった。
長月翠「ファーストバトルの時よりも緊張しました。初めて足がすくんで、体が動かなくなって。それだけ自分がこの2年、ラストアイドルに気持ちを入れてきたんだなということに初めて気が付いて、色々なことを大事にしようと思いました」
「悔しくて絶対に阿部菜々実の横に戻りたかった」強い思いで臨んだ。結果は2位。「引っ張っていきたい」決意を新たにした。
阿部、長月とともにファーストバトルを勝ち抜き、ラストアイドル(現・LaLuce)としてデビューを飾った安田愛里。美形で知られ、当時は自身を「豹」と称していたが、番組が『ラストアイドル 〜ラスアイ、よろしく!〜』として装いを改めたとき“天然キャラ”が輝きだし、新たな一面をのぞかせた。歌唱力はシングルごとに磨かれていき、今回のオーディションバトルでは審査員から高い評価を得て4位につけた。
安田愛里「今までのバトルの中で一番自分らしくできました。緊張はしましたが、オーディションだから緊張したのではなく、大人(審査員)がたくさんいたから緊張したのであって、それ以外は自分らしく伸び伸びとできた気がします。それが自分にとっても初めての経験で今までとは違っていました」
団体行動、そして高難度ダンス。厳しいレッスンを乗り越えたからこそ見える景色がある。安田の表情からはどこか自信がみられる。
ラストアイドルでは毎回、様々なドラマがある。大森莉緒は今回のヒロインとも言える。ファーストバトルに敗れ、Love Cocchiのメンバーとしてデビューした。注目はされながらも控えめな位置だった彼女が5位を射止めた。大躍進だ。
大森莉緒「オーディションバトルをやると聞いた時はチャンスだと思いました。絶対に18人の中に入りたいと思って、オーディションまでたくさん練習して、思いや努力など全てを詰め込みました。呼ばれた時はびっくりしましたし、不安もありましたが嬉しかったです」
寄り添いたい
それぞれの思いで挑んだ今回のオーディションバトル。表題曲の作詞は秋元康氏、作曲はバグベア氏、編曲は野中“まさ”雄一氏が手掛けた。表題曲としてはこれまでとは異なる王道のアイドルソング。歌詞に描かれているのは自暴自棄になりながらも明るい未来を見出していく主人公。メンバーも「最初は暗いけど、後半から明るくなる」とその印象を語っていた。
ミュージックビデオでは、制服姿で学校などを走りぬく姿が印象的。教室のドアを開けた先に広がるステージ。振付はakane氏。振り入れの時に厳しく叱責したが、それによってメンバーは「ラストアイドルを代表する気持ちで頑張らないといけない」と気を引き締めた。この曲は彼女たちにとってどういうものになったのか。そして聴きどころは。
大森莉緒「今までの曲は真剣な表情で歌うものが多かったですが、こんなに明るくてみんなが笑顔になる曲は初めて。早くライブで歌いたいです。歌詞も良くて、メロディも元気になれる曲なので、沢山の方に聴いてほしいと思います。一回聞いたら頭から離れないような曲です」
安田愛里「この曲で見た事のない景色を見てみたいと思っているので、色々な世代の方に注目していただきたいなと思います。歌詞はネガティブから始まるけど最終的には明るくなれるような曲なので、色々なシチュエーションで聴いて欲しいです」
間島和奏「王道アイドルファンの方を捕まえたいと言いますか、今までのラストアイドルは暗めのシリアスな聴き入る曲が多くて、他のアイドルさんとフェスに出ると勢いに押されてしまっているところがありました。今回ライブの起爆剤になる曲を頂けたなと思っていますし、衣装も可愛い。ラストアイドルはなんとなく知っているという方を捕まえに行けたらなと思っています」
長月翠「私にとって転機になる曲だと思っています。これまでも『好きで好きでしょうがない』も『大人サバイバー』とか私にとって転機になる曲がありましたが、どれも暗い。もっと自分の心の中のアルバムに明るい曲も入れたいと思っているので、そういう意味でも今回の明るい曲で転機を迎えたいと思っています」
阿部菜々実「歌詞に共感できる部分が多くて聴いて下さる方に寄り添ってくれるような歌詞だと思います。悩んでいる人や学校に行きたくないと思っている学生さんとかに聴いてもらって、少しでも明日も頑張って生きてみようかなと思えたら嬉しいです。そして、私たちのパフォーマンスを観て元気になってもらえたら嬉しい」
大石夏摘の卒業
ファーストシーズンを戦い抜き、ラストアイドル(現・LaLuce)としてデビューを飾った大石夏摘が3月31日に卒業した。デビュー当時は最年少の13歳。インタビューも緊張からたどたどしいところもあったが、最近ではハキハキと自分の考えを伝えられるようになっていた。この2年での成長は著しかった。メンバーも共に歩んできた仲間の卒業に思いは募る。LaLuceを代表して長月が胸中を語ってくれた。
長月翠「正直、寂しいです。でも自分自身が決めた卒業は誰かが止められるものでも、進められるものではないと思っています。心から応援したいと思っています」
LaLuceには様々なバトルを乗り越えて出した答えがあった。それは「笑顔」、そして「楽しむこと」だった。『Everything will be all right』のインタビューで阿部、長月、安田、鈴木遥夏、大石が口を揃えてそう答えていた。そのうちの大石の言葉を紹介したい。
大石夏摘「私達が必死だと、たぶんファンの方も必死になっちゃうし楽しめないから。メンバーみんなが楽しんでいるとやっぱり楽しんでくれるんじゃないかなと」
笑顔で送り出す。その答えは彼女たちの指針となり、そして絆は卒業後も変わらない。
(おわり)
※次回からは、阿部菜々実、長月翠、間島和奏、安田愛里、大森莉緒の個別記事を掲載予定。