女優で歌手の田村芽実が8日、1stアルバム『無花果』をリリース。2016年にアイドルグループ・アンジュルムを卒業し以降は女優として舞台とミュージカルで活躍。数多くの舞台に立ち、今年は『ウエスト・サイド・ストーリーSeason2』のヒロインであるマリア役を演じ、6月から渡辺直美が主演するミュージカル『ヘアスプレー』にアンバー役で出演することが決まっている。歌手としては、2018年にシングル「輝いて ~My dream goes on~」でメジャーデビュー。『無花果』にはデビューから現在までのシングル表題曲と新曲8曲を含む全12曲を収録。昭和歌謡、ジャズ、フレンチポップ、ミュージカル調など多彩な楽曲で、少女と大人の女性の間で揺れ動く21歳の等身大が表現されている。「音楽活動とミュージカルの両方があってバランスが取れている」と話す彼女。アイドル時代と今の違いや彼女にとっての音楽について話を聞いた。【取材・撮影=榑林史章】
毒々しさと甘さを持つのが女の子
――1stアルバムが完成してどんな気持ちですか?
フルアルバムは曲数がドンッと増えるので制作中は大変なこともありました。ただ今の率直な気持ちとしては、ライブで歌える自分の曲が一気に増えたことがとても嬉しくて、ライブで歌うのが今から楽しみです。
――アンジュルムにいたときもフルアルバムを出していましたが、当時と今では制作に対する考え方は変わりましたか?
まず、やり方がまったく違いますね。グループのときは「アルバムを出すのでこの曲を歌えるようにしてきてください」と言われて、練習をしてきてレコーディングをして。あらかじめ決めてもらったことをやっていく感じでした。でも、今はコンセプトを決める段階から、何から何まで自分が関わるので、制作に対する向き合い方が全く変わりました。
――『無花果』は、10代でデビューし現在21歳という田村さんの、少女と大人の女性との間で揺れ動く気持ちが感じられ、田村さんのデビューしてからの約2年が凝縮されていると感じました。タイトルの『無花果』は、どんなイメージで付けたのですか?
今作は1stシングル「輝いて ~My dream goes on~」から3rdシングル「舞台」までの表題曲とミニアルバム『Sprout』のリード曲「無形有形」それから、ひとりの人間であり歌手である田村芽実のデビューしてから現在までの代表曲と、さらに新しい曲を収録した作品になりました。1stシングルから新曲までの約2年の期間、曲ごとに違う私の歌にどう統一感を持たせようかとすごく悩んでスタッフさんとたくさん話し合いました。2曲目に2月に先行配信した「いちじく」がリード曲に決まった段階で、じゃあアルバムタイトルも『無花果』が良いなと思って。
――“いちじく”は花が咲かずに実を付ける植物であり、「いちじく」の歌詞はそれを女性に例えています。田村さんのなかで、“いちじく”はどんなイメージですか?
子どものころに、公園の木に成っていたいちじくを取って食べたら、体中がかゆくなったという思い出があります(笑)。でも、そのときに食べたいちじくが今まで食べたどのフルーツよりも甘くてすごく美味しかったんです。
いちじくって外側は赤ピンクみたいな可愛い色だけど、切ってみると中身はちょっとグロテスクで、見た目で言ったらイチゴやリンゴのほうが可愛い。でも食べると酸っぱさがあまりなくて、どんなフルーツよりも甘いんです。他のフルーツとは違う複雑さがあって、唯一の果物だという印象です。それこそ10代~20代の女の子の感情と、すごく近い部分があるんじゃないかなって思います。
――いちじくって、ちょっと毒々しいイメージもありますよね。10代~20代の女の子の感情は、毒々しさも含まれると。
けっこう含んでいると思います。私自身、自分ってすごく難しい性格で面倒臭いと思うときがあって。女の子ってあまのじゃくじゃないですか。大人扱いされたかったり、可愛いと思われたかったり。きっとみんなもそうなんだろうなって思います。「私だけがそうなのかな?」と感じる孤独も曲に詰め込めば、きっと共感してくれる人がたくさんいると思う。そういう人に届けば良いなって思います。
――「いちじく」のミュージックビデオは、いろんな衣装と髪型で映っていて、後半はメイクが濃くなっていく仕上がりです。いろいろな田村さんが見られるのも見どころですね。
1日であれだけの数の衣装を着て、その都度ヘアメイクからネイルまでチェンジしたのでハードでした。でも、そういう撮影は初めてだったのですごく楽しかったです。
あれは単に衣装をチェンジしているわけではないんです。いちじくって最初は未熟な緑色で、それから緑色が深くなって紫色になり、内側からどんどん熟して最後は赤になるんです。そういういちじくが熟していく様を、衣装やメイクで表現しています。いちじくが熟していくことと、女の子の成長を照らし合わせながら「何歳くらいだとこのくらい熟しているんじゃないか」とか、スタッフさんと話し合いながら撮っていきました。だから1日で、私自身も成長して熟していくような気持ちで、それがすごく楽しくて。
――「いちじく」は曲調がポップで、今までのリード曲とはまったく違ったイメージですね。
これまで明るい曲もあったりしましたけど、マイナー調が多かったので、こういうポップな曲は初めて歌いました。サビはわりと楽に歌えそうに聴こえるんですけど、すごく音が取りづらくてレコーディングのときは苦労しました。ポップで明るめな曲調に対して、歌詞はちょっと寂しげで切なげな世界観をあてはめてくださって。そういうチグハグ感も、私と同世代のみんなが持っているものじゃないかなって思います。女の子に限らず男の子も、子どもから大人になる間の年代は、心がチグハグなままみんな生きていると思うので。この曲を聴いて自分と照らし合わせながら、楽しんでいただけたら良いなと思います。
ミュージカルの現場では変だと言われる
――アルバムの中盤以降、「誓約」「不完全ism」「闇夜だけこんばんわ」「肌という嘘」といった新曲は、すごく大人の女性感が表れていますね。
「誓約」など松井(五郎)先生が書いて下さった歌詞は、すごく大人に振り切っていて。このアルバムに限らず、前に作詞をしていただいた曲もそうで、いつも私には大人過ぎて理解に苦しむんです。
――「誓約」はある種、一生の誓いを立てるような歌で、田村さんはまだ21歳なので、そういうことは考えたことないですよね。
そうなんです。それをどう解釈して歌うかが、松井先生の歌詞の一番難しいところです。想像することはできるけど、借り物みたいになってしまうのは怖いし。等身大では歌いきれない部分があるので、「どう歌ったらいいですか?」と松井先生に相談したら、「背伸びしている感じが良いんだよ」とおっしゃっていて。だから、どの曲も私なりの解釈で歌っているんですけど、結果的に松井先生の「こう歌って欲しい」と思うものとはズレているらしくて。「そのズレも面白くて良い」と。最近は、松井先生の期待を良い意味で裏切ってやろうと思って、レコーディングに挑んでいます(笑)。
――想像の斜め上を行くくらいのほうが、想像通りよりも面白くて良いんですよ。それに男性からすると、そういう思い通りにいかない感じが女の子っぽい気がします。小悪魔的と言うか。
単に解釈の違いってことだと思います(笑)。それに私「変わっている」と言われることがよくあって。自分では変わっていることを認めたくなかったんですけど、最近言われすぎてもはや認めざるを得なくなってしまって。
――どういうことで「変わっている」と言われるんですか?
最近まで『ウエスト・サイド・ストーリーSeason2』で、ヒロインのマリア役をやらせていただいたのですが、初対面の共演者やスタッフの方が多かったんです。最初はみなさん私のことを「静かなタイプ」と思っていたのに、それが蓋を開けてみたら全然違っていたらしくて。現場では私がいちばん下のことが多くて、良い子でおとなしくしていれば良いのに、ふざけてしまうんですよ。最初は頑張って良い子でいるんですけど、3日でメッキが剥がれるんです(笑)。
――どうやって笑わせているんですか?
他の方の役を研究して、ミュージカル調で急に歌い出すモノマネをやります。それで場が盛り上がってくれたら良いですけど、たまにシラけてしまうときもあるし。それでもめげずにやってしまうから「変なやつだ」と言われるんです(笑)。
――それは歌の現場でも変なやつですよ(笑)。
いやいや、歌の現場で変わっていると言われたことはないので(笑)。それにミュージカルは2~3カ月一緒にいるから、共演者は全員家族みたいな感覚になるんです。それが音楽の現場では、何ヶ月も毎日一緒にいることはほぼなくて。もちろん周りにスタッフさんがたくさんいてくださるので安心感はあるけど、いざ表舞台に立つときは、自分の名前を背負って表に出るのは私ひとりなので、そういった部分の不安や悩みを共有できる人がいないのが寂しい反面、頑張ろうという気持ちが余計に湧いてきます。
――歌の表現力という部分では、ミュージカルの経験で培ったものが、このアルバムではとても生きていると思いました。ミュージカルと音楽活動の違いはどんな風に感じていますか?
ミュージカルと音楽活動は、私の中では対極にあって、まったく違うものです。どっちもがどっちもに、すごく良い影響を与えてくれています。ミュージカルをやっているときは集団で、みんなで作品を作ることが大事なので、個というものを失いやすくて。でも音楽活動は主体性を持たないと成り立たない。
特にミュージカルは役になるので、自分というものが無くなってしまいそうになる瞬間があるんですけど、そんなときに音楽のお仕事に戻ってくると、すごく自分に引き戻してくれる感覚があって。その逆もあって、楽曲制作をしているときや、アルバムを作ったりしていると、もっと自分と向き合わなきゃと思ってもっともっと、とどんどん自分の世界に入っていきそうになります。そこでミュージカルの現場で、はつらつとした元気な人たちの間に入ると「ああ、元の世界に戻ったな」って思わせてくれる。私の中では、どちらかひとつだけでは、自分自身が成り立たないと思っています。
――ミュージカルは協調性が必要、音楽活動はわがままさが必要ということですね。
そもそも私、協調性が全然なくて(笑)。でも音楽活動で自分を表現できているからこそ、ミュージカルでは協調性が保てているのかなって思います。もし音楽活動がなかったら、ミュージカルで「もっと目立ちたい!」と思ったり、役や作品に自分のエゴを投影しようと思っちゃっていたかもしれないです。
自分の歌に感動した瞬間を信じる
――アルバムの新曲で、自分のエゴが一番出たなと思う曲はありますか?
う~ん、「いちじく」もけっこう反映されていますけど…。
――「毎日女の子」なんかはどうですか?
これは私のわがままな部分も表現しつつ、私と同世代の女の子全般にも当てはまると思うので、女の子の代弁をしている部分もあります。エゴというところでは、「肌という嘘」という曲はすごく自分に近い感じがしますね。
――歌詞に<私が溢れてしまう>というフレーズも出てきますし。
この曲は「いちじく」と作詞家さんや作曲家さんは違うんですけど、歌詞の世界観的に「いちじく」と対になっている感覚があって面白いです。両曲の作詞家さんに私から伝えたことは同じだったので、歌詞の表現こそ違えど、そこで汲み取ってくださったことの根底にあるものは一緒だったのかなって思います。だからどちらかの曲を聴いて「分かる」と思ってくださった方なら、もう一方の曲も分かってくださるだろうなって。
――「肌という嘘」の作詞家である末満健一さんは、主にミュージカルの脚本を手がけている方で、田村さんは末満さんの作品に出演されたこともあります。ミュージカルの脚本をやっている方に、作詞をして欲しいという希望はあったんですか?
末満さんには、作品に何度も呼んでいただいて、心から尊敬している方だし、末満さんの書く世界観は素晴らしいなっていつも思っていて。私のソロでも作詞をお願いしたいと思って、それが叶ったのがミニアルバム『Sprout』で、そのときに今作の1曲目にも収録している「無形有形」と「歌が咲く」を書いていただきました。それを経て今回のアルバムでは、「肌という嘘」と「毎日女の子」の2曲の作詞をしていただきました。
――歌の面では、演じるように歌っているものあれば、「肌という嘘」では最後に力強いロングトーンを響かせたりと、さまざまなボーカリゼーションを聴かせてくれています。今の田村さんの中で歌とは、どういうものですか?
すごく難しい質問ですね(笑)。うーん…歌は、自分のすべてです。“うた”という名前に改名したいくらい(笑)、子どものころから歌が好きで。今は好きなだけじゃなく嫌になるときもあります。でも歌の可能性って、すごく大きいなと思っていて。それはミュージカルだけじゃ気づけないし、アーティストというお仕事だけでも気づけなかったと思う。しかも歌って一人ひとり顔が違うように、歌の世界が一人ひとりにあって。
――個性みたいなことですか?
そうです。世界にいる何億という人の数だけ、その人の歌があるわけで、そう考えると歌の力の大きさに驚かされます。歌を語れと言われたら、止められるまでずっとこんな風に語っていられるほど好きで、それが私にとっての歌です!
――自分の歌に対しての聴く人の反応は、どんな風に感じていますか? 良いねと言って応援してくれる声もあれば、そうではない声もあるわけで。そういう意味では、やりがいと同時に怖さを感じることもあったりしますか?
前は怖いと思うこともありましたけど、今は自分の歌を信じているので、怖いと思うことはまったくありません。アンチの声が耳に入ると、ちょっと嫌な気持ちにはなることもあるけど、それは今のその人に今の私の歌が届かなかっただけで、聴く人のタイミングもあるので偶然のようなものだと思っています。でも、それと同じぶんだけ今の私の歌が今の誰かに届いていることでもあるので、自分の歌声が誰かの心を動かすことができると信じて歌っています。
――信じられるようになったきっかけはありましたか?
一昨年からソロアーティストとしての活動を始めたころに、自分が自分の歌を好きになって、自分が自分の歌に感動した瞬間があって。自分の歌を聴いて「全然だな」って思うときもたくさんあるんですけど、たった一瞬でも自分の歌に感動して自分の心を動かせたのだから、きっと誰かの心に届くはずだと。だから、今はたくさんの人を意識することよりも、たった一人の心の奥深いところに届くような歌が歌いたいと思っています。でも、それは昔からの積み重ねで少しずつ信じられるようになってきたことなので、決してその日から急にではなくて。積み重ねで、自分の歌を若干認められるようになったというのもあったと思いますね。
――『無花果』は、どんな風に聴いてもらえたら嬉しいですか?
いかようにも、聴いてくれる人それぞれの感じ方で、聴いてくれたら嬉しいです。私は普段の生活の中で映画に出ている気持ちになることがあって。好きな音楽を聴いて、好きな洋服を着て、好きな靴を履いて、好きなバッグを持って街へ出かけると、誰も私のことを見ていないのに、まるでカメラで撮られているようなルンルンの気分になるんです。女の子女の子ばかり言うのもあれだけど、特に女の子は、こういう気持ちを分かってくれるんじゃないかと思います。
そういう聴いてくれる人の日々を彩るものの一つになってくれたら良いなと思います。心に溜まったいろんな気持ちを、アルバムを聴いて発散していただいたり、アルバムを聴くことでどこかに落としどころを見つけてもらったりとか、ちょっとでもそういうことの手助けができたら良いなと思います。
(おわり)
作品情報
田村芽実
1stアルバム『無花果』
4月8日発売
【初回限定盤】 (CD+DVD) VIZL-1758 3818円 (+税)
【通常盤】 (CD) VICL-65360 3000円 (+税)
<CD収録内容>
1. 無形有形 (作詞:末満健一 作曲・編曲:和田俊輔)
2. いちじく (作詞:河田総一郎 作曲・編曲:鶴崎輝一)
3. 魔法をあげるよ ~Magic In The Air~ (作詞:藤林聖子 作曲・編曲:飛内将大)
4. わたしたちの冤罪 (作詞:松井五郎 作曲・編曲:田上陽一)
5. 舞台 (作詞・作曲:吉澤嘉代子 編曲:横山裕章)
6. 誓約 (作詞:松井五郎 作曲・編曲:飛内将大)
7. 不完全ism (作詞:松井五郎 作曲・編曲:田上陽一)
8. 闇夜だけこんばんわ (作詞:阿久悠 作曲:深田太郎 編曲:佐々木 望)
9. 肌という嘘 (作詞:末満健一 作曲・編曲:飛内将大)
10. 毎日女の子 (作詞:末満健一 作曲・編曲:南ゆに)
11. 輝いて ~My dream goes on~ (作詞:藤林聖子 作曲:Kari Kimmel 編曲:飛内将大)
12. ユリシス (作詞:長谷川久美子 作曲:長谷川久美子 編曲:長谷川久美子・田上陽一)
<初回限定盤DVD収録内容>
「田村芽実×赤澤えるSpecial Document」
ファッションブランド『LEBECCA boutique』の赤澤えるとのプライベート感溢れるトーク映像を収録。(約20分)
DVD-VIDEO『CLIP&COVERS』
VIBL-983 4091円(+税)
<収録内容>
◆Music Video
1. 輝いて ~My dream goes on~(1st Single)
2. 魔法をあげるよ ~Magic In The Air~(2nd Single)
3. 舞台(3rd Single)
4. 無形有形(Mini Album 「Sprout」収録)
5. 愛の讃歌(3rd Single c/w)
6. いちじく(FIRST ALBUM「無花果」収録)
◆COVERS
7. グッド・バイ・マイ・ラブ (アン・ルイス)
8. お祭りマンボ (美空ひばり)
9. 悲しくてやりきれない (ザ・フォーク・クルセダーズ)
10. 76th Star (レベッカ)
11. 渚のシンドバッド (ピンク・レディー)
12. 喝采 (ちあきなおみ)
13. 木蘭の涙 (STARDUST REVUE)
14. 五番街のマリーへ (ペドロ&カプリシャス)
15. ベルベット・イースター (松任谷由美)