安田レイ「向いてないんじゃないかと思った」苦悩の年月を経て見えた新境地
INTERVIEW

安田レイ「向いてないんじゃないかと思った」苦悩の年月を経て見えた新境地


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:20年03月18日

読了時間:約15分

 安田レイが18日、3rdアルバム『Re:I』をリリース。本作は昨年11月にリリースした最新シングル「アシンメトリー」を含む全12曲入り、4年ぶりのアルバム。新たなアプローチ満載だったワンマン公演や本作収録曲について、さらにこれからの安田が描くビジョンについて様々な角度からインタビュー。13歳で音楽ユニットの元気ロケッツに参加し、2013年にソロシンガーデビューと、若くして長いキャリアを持つ安田。「向いてないんじゃないかとも思った」と一時は自信を失ってしまった彼女がその苦悩をどう乗り越え、今作の制作に向かったのか赤裸々に語ってもらった。【取材=平吉賢治/撮影=村上順一】

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未発表曲も披露したワンマンでの新たなチャレンジ

安田レイ

――2月7日のワンマンライブ『Invisible Stars』には、人生初のライブ観戦という方々もいたみたいですね。

 嬉しいです。人生初ライブって一生忘れられない思い出じゃないですか? それに安田レイを選んでくれるのは、なんて光栄なことなんだろうと思います。

――ライブの感触はいかがでしたか。

 幅広い年齢層の方々がきていただけているなと思いました。アニメやドラマのタイアップなどもさせて頂いているので幅広いのかなと思っています。ライブは凄く楽しかったです。ステージに出る時は明るく元気よく、というのが多かったんですけど、今回は今までとはやりかたを変えてクールなスタートにしようと静かに歌い出す感じでした。スタンドマイクも使ったり、椅子に座って落ち着いたシーンも作って。今までの終始盛り上げるイメージとは違って落ち着いた自分を見せていこうという部分もありました。

――色んなスタイルのパフォーマンスが楽しめるライブでした。

 新たなチャレンジができたと思います。久しぶりに大きくて良い音響の環境で純粋に音楽を楽しませて頂きました。それこそ小学生の頃のようなピュアな気持ちで「歌うことが好きなんだな」と。2019年は色々揺れ動いたというか、歌から離れたいと思ったり「向いてないかも…」とか思う瞬間もあったんです。でも、ライブをするとその気持ちがどこかに飛んで行くというか。やっぱりこれが一番自分らしいし居場所だと思えました。でも始まる前は不安で(笑)。

――かなり緊張を?

 緊張し過ぎてステージの横で飛び回っていたんです。ドラマーの方から「大丈夫だよ。今日来てくれている人はみんなレイちゃんが好きで来ている仲間だからね。踊ろう!」って言われて(笑)。

――クールに出てくる寸前は踊っていたのですね(笑)。ライブではラストに「Blank Sky」という未発表曲を披露していましたね。

 あれは今のところ音源化する予定がない曲なんです。ライブでしか歌わなくて、ライブでどんどん進化していくような曲があってもいいかなと思ったんです。あの時はピアノだけだったけど、バンドメンバーと一緒にアレンジしたら雰囲気も変わると思うし、楽しみながら育てたい1曲かなと思います。

――凄く素敵なテイクでした。

 実は本当に緊張していて(笑)。照明も暗い中でその日のキーボーディストのセットで弾いたので、椅子の角度から何から家で練習していた環境と違うから鍵盤が鍵盤に見えなくなって…曲はスローに始まったけど、あれは迷いが凄いからああなったんです。

――雰囲気抜群なスローな導入でいいなと感じていましたが、実は探っていたと(笑)。

 演出風にやっているよというスタンスでやりました(笑)。

――完全に狙った演出だと感じていました。あの感じは凄く良かったです。

 「こういう曲だ!」って思いながら弾いていました(笑)。

どう思われてもいいから今の自分を全部さらけ出す

安田レイ

――『Re:I』は“レイ”とも読めますが、どういった想いが込められたタイトルでしょう。

 “レイ”とも読めるけど、正式な読み方は“リ・アイ”なんです。まずは自分の名前“レイ”と読めることと、新たな姿で勝負して行きたいリスタートという意味、もう一つは、メールの件名に「Re:」ってつけるじゃないですか? これは正式には「~について」という意味なんです。だから「私についてのアルバムですよ」というのもあって、トリプルミーニングになっています。「アシンメトリー」とかで私を知ってくれた方にも、もっと深く知ってもらえるきっかけになるアルバムだと思います。「是非、私についてのアルバムを聴いてください」というメッセージも込めています。

――ジャケットについてですが、コンセプトは?

 今の自分から抜け出したいという想い、進化をアートワークでも表現したいと思いました。ジャケットを見た時に映像の動きが流れるようにしたいと。何かを破ってそこから抜け出している感じがいいなと思って、このアイディア1本勝負でプレゼンテーションしました。楽曲のプレゼンもよくするんです。

――手袋が赤と青というのも深い意味がありそうです。

 自分の負の感情も正の感情もあって、色々混ぜ合わさると私は紫色だと思ったんです。紫色ってちょっと大人っぽい色というか「今の安田レイから一歩大人になっていくんだよ」という意味も込めて。7曲目「赤信号」も大人っぽい楽曲なので、そういう意味で変化しているというので、破っているものは紫色なんです。これもプレゼンしました。

――本作についての安田さんのコメントの一部の「自分の弱さが怖くて、嫌いで、いつも強い自分を演じてしまう」というのはどういった想いでしょうか。

 小学校6年生から歌をやらせて頂いて、その時から「自分はしっかりした人間なんだ」という想いがあったんです。本当じゃない自分を着て、みたいな感じがいまだにあるんです。自分の弱い部分を人に見せたくないというか。だから悩みがあっても相談しないし、問題が起きても私が我慢すれば物事がピースに進んで行くと思ってしまうというか…「本当の自分をさらけ出す」というのがいまだに苦手で「安田レイとはこうじゃなければいけない」というのが常にあったんです。

――「みんなが思う安田レイさん」という感じでしょうか。

 それ以外のことをしたらみんな離れちゃうんじゃないかという不安感、新しいことができないという感情もあったんです。でも歳を重ねていくにつれて、本当の姿を出せない自分に対して嫌になってきたというのが大きくなってきたんです。そんなダメな弱い自分を変えたいというのが2020年の私の大きな目標なんです。もっと人に甘えてみたり、自分の弱い部分をさらけ出せるようになりたいと思って、このアルバムのために自分で作詞作曲した「赤信号」「Re:I」を入れたんです。私にはこういう一面もあるということを知ってもらいたいです。

――本作の安田さん作詞作曲楽曲は、新しい安田さんのイメージが感じられました。これらは今まで出してこなかった面?

 そうです。あったにはあったんですけど。私のイメージって昼か夜かで言ったら昼だと思うし、曲調も4つ打ちで明るいキラッとしたものが多いので、そういうイメージを持つのがナチュラルだと思うんです。みんなが思う安田レイとは真逆のところも存在するというのは、何年間もずっとあったけどモヤモヤしていた部分もあって。だから、自分にとっては冒険というか「みんながどう思うか」と考えると不安になるけど、それがいつも邪魔していたから、「どう思われてもいいから今の自分を全部さらけだしてみよう」という気持ちが凄く大きくありました。

――12曲目の「Re:I」は、正にこれまでの安田レイ像にはなかったアプローチと感じました。

 「Re:I」は、最後に安田レイのこれからの余韻を感じたから、アルバムの最後にしようと思ったんです。「アシンメトリー」がこれからの安田レイ像を大きく変えてくれたと思うので、その大事な1曲は先頭にと思ったんです。そこから「fortunes」「Answers」と、ラブソング3部作みたいな感じになっていて、それも新たな挑戦です。

――「アシンメトリー」から2曲目「fortunes」3曲目「Answers」の流れが素敵だと思いました。

 そういうテーマ性もあるんです。共感ポイントもあって「アシンメトリー」はモヤモヤラブソングで、「fortunes」はダメダメラブソングというテーマで(笑)。「fortunes」は、自分の頭ではわかってなくても行動でだんだん「この人好きかもしれないな」というのが濃くなっていく“あるある”がたくさん入っています。<好きになろうとして好きに なれたわけじゃないから>というサビの歌詞がこの楽曲のテーマを凄く物語っています。自分より誰かを先に占う朝とか、気持ちがないと絶対にやらない行動じゃないですか?

――占いで自分以外の星座などをチェックする時は、確かに意中の人がいたりしますね。

 そういうのがどんどん濃くなっていくという。<チェックする服のライン 気づけば君目線>という歌詞も。それって好きという感情がないと出てこない目線だと思うんですよ。「その人だったら何を選ぶかな」とか、無意識にある自分がいて、そういう恋のスタートというか。

――確かに“あるある”ですね。気になっている人がいる時は「あの人だったらこれ選ぶのかな…」とか考えたり、普段絶対行かないお店をのぞいたり。

 そうなんですよね(笑)。きっとそういう部分もみなさんに共感してもらえるんじゃないかなと思いまして。ちなみに星座占いだったら5位以内くらいに自分の星座がランクインしてなかったらその時点でチャンネル変えてあとは見ません。良い時だけ信じます(笑)。

――ポジティブですね(笑)。「Answers」はどんなテーマでしょうか。

 これはカップルのすれ違いの瞬間が入っています。別れる時は「この人と一緒にいて私は幸せなのか」とか色々考えるじゃないですか? 離れたほうがいいのかなと思っても、どこかでまだ繋ぎ止めたいというか。<君じゃない誰かと出会う Let me see… それでいいの?>という部分は、「本当に離れていいの?」というような、冷めているけど離れたくない別れ際の心の揺れが出ています。どこかで一緒にいたいし、あなたもそう思っていてほしいという光を探しているけど、お互いに冷めているのはわかっているという。そういう別れる寸前のカップルというか。

――3曲目までのラブソングには色んなカラーの想いがありますね。安田さん作詞作曲の6曲目「bring back the colors」のテーマは?

 この曲は「あの日の自分と今の自分」というテーマです。小さい頃は世界が色鮮やかに見えていた気がするけど、大人になると良い情報も増えたけど悪い情報も増えて、少し世の中がくすんで見えるというか、ピュアに向き合えない瞬間がいっぱいあるような気がしていて。幼い頃の「大人になったらあんな自分になりたいな」という、ピュアな気持ちを忘れちゃいけないなという気持ちを込めました。

――バラード色の導入から跳ねたミドルテンポという、こういった曲調で出る安田さんの歌のグルーヴも凄く魅力的です。日本語のバラードでグルーヴ感を出すのは比較的難しいと思うんです。

 日本語って本当に難しいと思います。英語ってグルーヴをつくりやすいし、言葉と言葉の間がないから滑らかに歌えるけど、日本語はカクカクしているというか。いつも「どうやったら日本語を伝えながら洋楽のグルーヴを足せるか」というのも凄く考えています。

――言葉と言葉の間もそうですし、ブレスのタイミングもグルーヴを生むために意識していると感じるんです。

 ブレスフェチなので(笑)。語尾のブレスで凄く楽曲のクオリティが左右される気がします。息づかいが上手い人を探す聴きかたも楽しいですし、自分も「この人のブレスは上手いな」と思うものに色々影響を受けて歌っていると思うんです。だから息は超大事だと思っています。バラードの出だしで吸い込むブレスも、みんなの意識が集まる感じがするんです。

――それは安田さんのライブでも感じました。一気に入り込めるんです。

 みんなをいきなりその世界に連れて行ける感じがするというか。息は大事ですね…。

心が揺れ動いた2019年を経て辿り着いた新境地

安田レイ

――「bring back the colors」の次の曲、「赤信号」も安田さん作詞作曲ですね。アルバムの流れとしてもスッと入ってきます。

 自分で作った曲は、いつもやってないことをやりたいというのが凄く出ているし、並びかたも慎重で今回はこの2曲を並べました。今までの安田レイを聴いてくれている方はビックリしちゃうかもしれません。

――新たなアプローチと感じました。

 最初は安田レイのイメージを壊したくない感じが常にあったけど、ここからはどんどん壊していこうかなと。「こんな自分もいるんだよ」というのを見せたいと冒険した曲です。私が普段は昼のイメージだとすると、ガッツリ夜っぽいサウンドや歌詞を作りたかったんです。イメージとしては人があまりいない夜中に高速道路を下りた所の信号です。何が起こるかわからないミステリアスな雰囲気をこの楽曲で表現したくて。

 この曲の主人公は、頭が色んな声でいっぱいでどうしようもなくなって、友達にドライブに連れて行ってもらうところから始まるストーリーです。寂しさがそうさせちゃうというか、そこでいつもの自分じゃないところが見つかるような。それで赤信号で止まった車の中でキスをしてしまうという。1コーラス目では2人の関係は何も書かれていなくて、ここでは「好き同士なんだ」という感じです。でも2番でいきなり友達と一線を超えてしまったということをあえてここで言いたかったんです。最初から最後までのストーリー、お互いの関係性をここで書きました。

 意識していなかった2人がいきなりキスをしてしまって「自分は何やっているんだろう」と、赤信号だけど気持ちは突っ走っちゃってるというか(笑)。そんな自分が怖くなって後悔しているけど、それが意外と自分を自由にしているという。「こういう風に生きていかなければいけない」という厳しいルールから一瞬解き放たれるというのは今の私とリンクしているし、みんなのイメージ通りじゃないものにチャレンジしているというテーマともリンクしているんです。

――2人の物語として書かれているけど、今の安田さんの心情ともリンクしているのですね。

 道路で赤信号を突っ走っちゃうのはダメだけど、気持ちの面でたまに「ダメだ」と思っていることでもやってみると意外と自由を感じたりとか、新しい自分に出会えたり。「こんな自分もいたんだ」という発見があるので、そういうのも悪くないよというのをテーマとして作りたかったんです。

――本作では重要な楽曲ですね。「Classy」は作詞を手がけていますね。

 これは4年前の曲で配信だけでした。盤で聴きたいと言ってくださる方もいらっしゃいまして。人生一度きりという大きなテーマでやらせて頂いています。使っているワードも、普段自分の楽曲では使わないような言葉がふんだんに使われています。

――12曲目「Re:I」はどんな想いで制作しましたか。

 この曲は安田レイのこれからの進化をギュッと詰めたくて作りました。2019年は心の変化というか、凄く揺れ動いていたんです。15年くらいやっていて、昔「一緒に頑張って行こうね」と言っていた仲間はほとんどみんな別の世界で頑張っていて。それで今の自分はどうだろうと去年はいっぱい考えていました。

 ファンのみんなはこんなに愛をくれているけど、私は楽曲を通して何ができているかなとか、事務所やレーベルのみんなに何ができているかなと思ったら、全然何もできていない自分しか見えなくて。はたしてこのまま歌を歌っていていいのかと自分を責めたというか、「向いてないんじゃないか」というくらい思った年だったんです。自分は前にも後ろにも進めていない、ずっと同じ場所にいる気がしていて。「自分の幸せとは?」と思った時に、離れるべきかもしれないと凄く思ってしまって…。

――そういうことを人生で最も考えたのが2019年?

 そうです。今までも何回か思う瞬間もあったんですけど、本気で「辞めよう」と思ったことはなかったんです。でも絶対みんなも同じ苦しみを通ってやっているから私も頑張らなきゃと思ったんですけど、一周まわって凄く冷静になって「離れるべきかもしれない」みたいな。

――そこまで悩んでいたのですか…。

 その気持ちがどんどん大きくなっていっちゃって…でもそんな弱音はもちろんTwitterとかで言ったらみんな心配しちゃうから言ってないけど、「書いたっけ?」というくらい良いタイミングで手紙とかSNSで、自分が欲していた力になる言葉を頂けるんです。凄いタイミングで来るんです!

――安田さんとファンの方々と、見えない何かで繋がっているのかもしれませんね。

 そう。気持ちで何か繋がっているのかと。その時、結局色んな言葉に支えられているなと思って。こうやって私を必要としてくれている人がいると確認して、「こんな弱音を吐いている場合じゃない」と、もっとちゃんと自分の弱さと向き合って戦っていかなきゃと思いました。そうやって、いつも愛情をくれるファンのみんなに向けた1曲を作りたいと思って「Re:I」を作りました。

 <どうやってここまできたの? 誰のために泣いているの?>という部分とか、けっこう自分の弱さが漏れているところも出てくるけど、その中で<君の優しさに何度も 救われたから>というのはファンの人に対しての想いです。「その言葉があって前に進もうと思ったんだよ。みんなありがとう」というのを言葉で伝えたいなと思って書いたんです。

――ファンの方々に向けた曲でもあるのですね。

 いつもたくさんのサポートがあってリリースもライブもできているし、最後の<You will let me know 複雑に絡み合う迷路 そのヒント君の手の中に>というのは、いつも近くにいる誰かが教えてくれるというか、自分では本当に何もできないんですけど、そういうサポートがあって前に進めて行けているという「ありがとう」という気持ちを伝えたいなと思いました。あとはラブソングとしての見かたもできるかなと思って。

――そういった視点でも解釈できますね。

 ラブソングでもあるし、自分の葛藤を乗り越えてみんなの優しさに触れて前に進んで行こうと思った誓いでもあるし。聴く方によって色んな風に捉えられるかなと思います。

――周囲への気持ちと新しいチャレンジもあってと、この先は明るそうですね。

 そうですね。2019年は感情が揺れ動いて凄く不安定だったんですけど、今年はこのアルバムも作ってみんなに聴いてもらいたいし、7月にワンマンライブもあるし。凄く色々できることが待っているので、今は本当にポジティブな気持ちであふれています。

(おわり)

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