安田レイ×H ZETTRIOが5日、一発撮りのパフォーマンスを鮮明に切り取るYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』で、安田レイの代表曲の1つである「Brand New Day」を披露した。

生命力みなぎる等身大の姿

 「今日は、とっても大事な1曲をスペシャルバージョンで――」と、安田レイは笑顔を交えつつ言葉にし、「Brand New Day」の曲名紹介からピアノトリオ・H ZETTRIOのピアノ、ウッドベース、ドラムスの生演奏が鳴り響く。アレンジはソウルフルでジャジーな生々しいグルーヴのテイスト。リリース音源の4つ打ちが印象的なオリジナルバージョンとは一味も二味も異なるカラーだ。

 安田のボーカルの特色は多種多様だ。豊かな声量、膨よかな声の倍音、明瞭な発声とリズムの安定感、ウィスパーボイスの滑らかさ、休符にあたるブレスにも含まれるグルーヴと、様々挙げられる。『THE FIRST TAKE』では、その全てが一発テイクで鮮明に表れていた。

 このテイクで個人的に最も感じたのは「生命力溢れるテイク」というものだ。終始、安田を含む演者全員が“ゾーン”に突入しているのが映像、音から如実に伝わってくる。

 そして、ひときわ光っていると感じられたのは、安田の歌唱とH ZETTRIO のハイスキルな演奏はもちろんだが、“落ちサビ”部分のエモーショナルな表現がラストサビへの絶妙なフックとなり、楽曲のダイナミズムを繊細かつ豪快に生み出しているというポイントだ。このようなアレンジをコラボで一発撮りのTHE FIRST TAKEで披露するという醍醐味になっているのであろう。

 パフォーマンス後の安田の明るい表情からは、余裕すら垣間見えた。「ワンテイク」という緊張感を見せないのは安田の音楽家としての地力、ポテンシャルの表れと言えるのではないだろうか。

絶望と対峙し光を見据える安田レイが遂げる進化

 今回の『THE FIRST TAKE』でのパフォーマンスを観て、2020年2月におこなわれた彼女の初フルバンドワンマン公演での姿が頭をよぎった。その公演はスタンディングオベーションで締めくくられる大盛況。アンコールでは、その公演のために作ったという楽曲「Blank Sky」が弾き語り演奏された。

 その公演のため、初披露、ワンテイク、という点で今回の『THE FIRST TAKE』のテイクとある種通ずるものがあるように思える。その「Blank Sky」のライブ披露もまた、生命力溢れるパフォーマンスで、歌の魅力が凝縮されているようだった。

 最新シングル作品「Not the End」のインタビュー時に「今までの中でも一番絶望感の強い1曲に――」と語り、「所々に諦めきれない『絶対ここから抜け出すぞ』というマインドと希望を」と続けた。

 そこには、同曲に対し「ラブソングの要素もあるけど、それ以上の強いメッセージ性、みんなが直面している絶望感と孤独感を強い言葉で代弁したい」という心境があるという。彼女は近年、人間の内面と情念について非常に深く向き合って創られたと思われる作品を発表し続けている。

 安田レイというアーティストからは、自身と自分以外の心の奥底に飛び込み、体験や思念をより深く広げた上で抽出される情念を具現化させ、自身の音楽、歌唱で表現する真摯なスタンスがあるように思える。

 そうして完成された楽曲を発表し続け、安田は常に進化を遂げている。そんな現在の彼女がパフォーマンスした『THE FIRST TAKE』のテイクから感じとることができるのは、進化し続ける、何色もの色彩が鮮やかに交差するような、等身大の姿と言えるのではないだろうか。【平吉賢治】

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