追いかけても逃げていく―、市原隼人「芝居は虚像。だからリアルを求める」
INTERVIEW

追いかけても逃げていく―、市原隼人「芝居は虚像。だからリアルを求める」


記者:木村武雄

撮影:

掲載:20年02月28日

読了時間:約10分

今も昔も変わらない人間の普遍的な性格

――俳優以外での一番の欲望は何ですか。

 それは言えないです(笑)。それが「脳内ポイズン」ですから(笑)。本当に色々な恐ろしい事を考えていると思いますよ。瞬間的に色々な事がめぐってきて。その中から、感情をチョイスして動く。僕の役どころは、吉田という感情をチョイスする役割。だからこそ迷いもありますし、感情の中でも揺れ動くような本来の自分の姿、思っている心の中と、表面的なものとの、架け橋になる中間的な存在になればと思っています。

――役柄としては決断をせまられると思いますが、市原さんはすぐに決断できる方ですか。

 出来ることもあるけど、出来ない事の方が多いです。

――深く考えられるお方という印象があります。

 色々な考え方で物事を見るようにしています。一直線だけじゃなくて、360度見渡せる感覚です。例えば、何かを掴むには何かしらの犠牲があります。ですがそれは瞬間的に入れ替わることもある。なのに、そこへの敬意もないから人間は愚かだと思う。弱々しいところを隠しながら表面的に生きていることも沢山あるのに。

――時代劇に出演されているときの市原さんはその武士やその人物の気概みたいなものが雰囲気から伝わってきます。役作りを通して感じる昔と今の違いはありますか。

 昔は死に向かっていったものが、今は死を迎える時代になっている。死をもって花を咲かせて自分の存在意義を見出していく。そこでまた救われる人間がいた。しかし、今は死を待つ時代になっていると思います。忠誠心とか、生まれながらの主君というものもないからこそ、自分で探していかなくてはならない。当時は生まれながらに家系があって、自分の血の流れをしっかり確立して繋いでいくというものがありました。でも今は職業とか自分の在り方の選択肢が沢山増えるが故に辛い部分もあると思います。

――人間は根本的には変わらないですよね。

 変わらないと思います。ただ今は表現の世界でもコンプライアンスが増えてきました。ネットが普及してテレビからネットで作品を見るようになって、見たいときに手軽に見られるようになりました。ただ、便利になった一方で失われているものがあると思うんです。カメラで例えたらフィルムからデジタルになったことによって失われたもの。その失われたものこそ大事で、後世には引き継がれない悲しさを感じています。

 現代の僕らが時代劇や昔の時代のものを描こうとしてしまうと、そこにはロマンを入れてしまう。そうした見栄を張って作られ、それが浸透していき、それが事実だと思い込んでしまう。本来は今も昔も人間心理といいますか、性格的には変わらないと思うんです。例えば「今の若いやつは」ってよく言われますが、それっていつの時代もあって。じいちゃん世代の人もずっと言われていたって話を聞いた時に、どの時代も変わらないものは変わらないんだなと。そうした普遍的なもの、ブレないアイデンティティを演じる上でどこかに持っていれば、自分の人生を務めることができるのかなって思います。

純粋に音楽を楽しみたい

――音楽についてもお聞かせください。アーティスト活動もされていますが、歌に救われたことはありますか。

 長渕剛さんの「Myself」という曲がすごく好きで、歌詞を聴いても、ライブで拝見しても涙が止まらなくなります。真っすぐ生きることが出来れば良いなと思わせてくれますし、常に頭の中に流れています。

――毎日聴いていますか。

 しょっちゅう聴いています。

――音楽は、気持ちを落ち着かせるために聴く? 自分を正すために聴く?

 色々です。泣き芝居の前に聴いたりすることもあります。冷静になるために聴いたり、襟を正すために聴いたり、背中を押してもらう為に聴いたり。音楽はかけがえのないものです。昔から、音楽は好きで、中学の時にパンクロックにハマって、そこからヒップホップが好きになって、16歳でターンテーブルを買って、打ち込みやキーボードを使って家で遊びながら曲を作って、家も現場車の中もLPだらけになって。常に音楽に救われてきました。

――いろいろなジャンルを聴くのですね。

 聴きます。パンクロック、レゲエ、ヒップホップ、J-POP、歌謡曲も。美空ひばりさんとかも。当時は「これしか聴かない」「自分はこうだ」って決めつけていたんですけど、唯一音楽だけは、好きなものを聴きたいと思っています。

――役者としては色々と考え抜いていますが、音楽は自由にフィーリングがあったものだけを聴きたいんですね。

 自由に楽しみたいです。どこかの民族音楽でも好きになれば聴きたいですし、カテゴリーでしばる必要はないと思っていて、純粋に音楽を楽しみたいです。そこには音楽それぞれの歴史と文化が入っていると思うんです。音楽の発祥とか、どんな思いで作られたとか。それを理解した上で聴くことも楽しみの一つでもあります。ただ、何も考えず、単純に音楽を楽しめる環境がすごく好きで、カテゴリーを決めずに、自分の聴く音楽に恥ずかしさもないですし、好きな物は好きと言えることが音楽だと思っています。

市原隼人

市原隼人

(おわり)

作品情報

舞台「脳内ポイズンベリー」
公演日程:2020 年3 月14 日(土)~29 日(日)
会場:新国立劇場 中劇場

原作:「脳内ポイズンベリー」水城せとな(集英社クイーンズコミックス刊)
脚本:新井友香・今奈良孝行
演出:佐藤祐市(共同テレビジョン)

出演:市原隼人 蓮佛美沙子
早霧せいな グァンス(SUPERNOVA) 本髙克樹(7 MEN 侍/ジャニーズJr.) 斉藤優里
白石隼也 渡辺碧斗 河西智美

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市原隼人
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