大沢たかお「戻ってくる気はなかった」俳優復帰へと向かわせた「スリル」
INTERVIEW

大沢たかお「戻ってくる気はなかった」俳優復帰へと向かわせた「スリル」


記者:木村武雄

撮影:

掲載:20年01月31日

読了時間:約7分

リアルを求めて生まれた天才科学者・桐生浩介

――役作りで新たな挑戦は?

 そもそも映画自体がこんな挑戦していいの? みたいな感じです(笑)。そういうところに行くのであれば、自分の過去の経験でできたルールではないところで勝負したら、突破口が見えると思えて。自分に何ができるのか、と言うところからスタートさせました。それはオリジナル脚本の良いところで、自分も参加することで話をどんどん変えることもできる。北島プロデューサーや入江監督も、もっともっとストーリーを変えられる、というスタンスで入ってきているので、自由もあって意見交換も多かったです。

 例えば、エンターテインメント作品なのに、主人公はスーパーヒーローではなく、普通の人だったらどうか、とか。一つ一つの展開に怖がりますし、完ぺきではない。トム・クルーズさんみたいに戦えない。そういう普通の人を主人公にすること自体は映画として成り立つのか、とか。自分の感覚を信じて「トライしたい」と伝えたら、監督も納得できる部分でどんどん台本が変わっていきました。

――桐生は科学者ですが、逃走シーンでは走ることに慣れていない感じがありました。

 そこは意識した点でもあります。私がハリウッド映画のようなアクションをして、トム・クルーズさんみたいに走ったらその時点でダメなんですよ。最終的にはそういうところではないものにしたくて。それは監督とたくさん話し合いました。走る動作にしても、普段から走っていない人が走ると言っても突然スマートにはできない。桐生は学者で運動にも慣れていないだろうからボロボロになるんです。そういうヒーローも良いなって。観終わった後にヒーローみたいなお父さんだったのかもって思える。でもその途中は、普通のお父さんや恋人のようにもがき苦しんでいて、ただほかの人と違って頭が良くて、数学やプログラミングが優れている。その他はある種欠落した人という感じで挑戦しました。

場面写真(c)2019映画「AI崩壊」製作委員会

――劇中に「AIは人を幸せにするのか」という問いかけがありましたが、どう思いますか。

 最後までそのセリフに疑問があって、ずっと監督やプロデューサーなど、誰かをつかまえては「違う気がします」と話していて。そうこうしていると撮影が後半にどんどん近づいてきて。でも監督も「まだ考えています」と。そんな中でついにそのシーンの撮影日が来てしまって「どうするんですか」みたいな。実はあのシーンは、色々なセリフで何パターンも撮っていました。つまり、原作があるわけではないから答えもない。色々な素敵な言葉があって、いままでの作品だったら監督が決めて「OK」みたいなことはありますが、それがなんだか嫌だなあと思っていて、それだと今までと一緒でなんとなく逃げている気がして。だから、監督に「何パターンも撮りませんか?」と提案して、そうしたら監督から続々と色んな単語が出てきて。基本的に言いたい事は一緒ですが、監督やプロデューサーが映画を繋いだ時に、どれが一番お客さんに伝わりやすいかを考えて決めました。なので、僕も映画を観て「このパターンにしたんだ」と初めて知りました。最終的に僕が一番しっくりきたなと思った言葉でした。

見方によって変わる正解の形

――劇中ではAIが勝手に人間の生きる価値を決めていきますが、大沢さんが思う人間の価値とは?

 それは難しい問題だと思っています。生きているもの全てに価値があると思いますし、そもそも人が価値を決めることではなく、価値は自分で決めればいいと思う。価値って考え方の問題なので。AIの面白いところは、地球という規模で、人類存続を考えた時にどうなのか、という点です。思想とか考え方は、人それぞれなので、見方によって何が正しくて間違っているのかは違うので、それがこの映画の面白いところだと思います。

――社会に対して問題提起をしている?

 それはあると思います。私は最後のシーンがすごく好きです。ネタバレになってしまうので言えませんが、何かメッセージを残して映画が終わればいいなと思ったので良いシーンになっていると思います。

――それと音が凄いですね。

 一般的な映画やドラマとはかけ離れていて、気になったことが沢山ありました。そもそも日本の作品は意外と音がおとなしい。シネコンで観た時に、隣で「ドドドドーン」という異様な音が聴こえてきたことがあって、終わった後にプログラムをみたら『アベンジャーズ』だった(笑)。だからなぜ日本映画ってそういうふうにならないんだろうと思って。そういうことを打ち合わせの時によく話していました。「ボリューム、もっとやりましょう」とか(笑)。監督やプロデューサーも面白がってくれたので、「重低音を多めにしましょうよ」みたいな、子供みたいなアプローチで作っていきました(笑)。

(おわり)

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