サザンオールスターズの全楽曲が昨年12月、各サブスクリプションサービスで配信が開始された。これにより、デビュー曲「勝手にシンドバッド」から最新曲「愛はスローにちょっとずつ」まで、サザンの全シングル、全アルバム楽曲がサブスクを介して聴ける環境になった。約40年に渡り日本の音楽シーンのトップを走り続けているサザンの“サブスク”解禁によって、音楽シーンはどのように変化していくのだろうか。

サザンのサブスク解禁が物語る40年間の音楽シーンの変化

 昭和、平成、令和と、サザンが国民的音楽グループとして駆け抜けた約40年で、音楽の聴き方は著しい変化を見せている。具体的には、アナログレコードやカセットテープからCDへ、そしてデジタル配信、サブスクリプションサービスという時代に移り変わっている。

 リスニングの第一選択はほぼCDだった1990年代。そして2000年代に入ると、mp3ファイルなどの圧縮音声データをモバイルやプレーヤーでアルバム何百枚ぶんの曲が“持ち歩ける”ようになった。そんな2000年代のアプローチは、音楽業界全体において革命的な変化だった。

 TVのCMや雑誌の情報でアーティストのCDリリースを知り、盤を購入しにショップへ走るという行動はもはや懐かしさすらある。25年以上前、街角で耳にした「エロティカ・セブン」が心に刺さって能動的に8cmシングル(約1000円)を店頭まで買いに行ったのは今や良い思い出。現在でも、情報を知ってのCD購入はもちろんあるが、“サザン、サブスク解禁”となった現在では、20年以上前では想像もできなかった環境下で「エロティカ・セブン」をサブスクサービスで聴くことができる。もちろん「TSUNAMI」も「マンピーのG★SPOT」だって聴ける。

 現代では、配信ストアやサブスクでいつでも楽曲の情報をキャッチできる。アンテナを張りめぐらせていなくとも、ネット検索すればリリース情報は一発で知ることができる。「指を伸ばせばすぐそこにサザンが」という環境になったのは、ここ数十年を振り返ると大きな変化だ。

 「楽曲の発見」という点以外では、リスナー同士での「シェア」という点でも、大きな変化がみられる。サブスクのプレイリストは、昔で言うところの「カセットテープやMDに詰めこんだオリジナルベスト盤」のバージョンアップ的なものかもしれない。自分の好みの“サザンベスト”がどこでもほぼリアルタイムで共有できるという魅力は大きい。サザンのお気に入り曲をスピーディーに分かち合えるのは、ファンも、そしてこれからサザンの魅力を知るリスナーにとっても、メリットしかないように思える。

 桑田佳祐をはじめとするメンバーソロ作品を含めた全150作品、900曲超え、40年もの間の名曲の数々が満を持してストリーミングサービスで聴くことができるようになり、サブスク解禁日の0時から即座に、SNS上では大きな話題となった。Twitterのトレンドやリアルタイムトレンド検索で上位を占拠し続けた。それは音楽業界の大きな転換期を象徴するかのようなビッグウェーブが巻き起こっていることを物語っている。

 配信ストリーミングサイトは、Apple Music、Amazon Music、AWA、KKBOX、Spotify、YouTube Music、LINE MUSIC、RAKUTEN MUSIC、Rec Music、dヒッツ、うたパス。

 各ストリーミング配信サービスでは、配信開始と同時に異例の大展開。Apple Musicではアプリを開いた最初の画面をサザンが占拠。iTunesではトップページをサザンがジャック。そしてSpotifyでも31もの定番プレイリストの表紙をサザン関連作品のジャケットアートワークがズラリ。前代未聞の展開だ。

サザンが広げる素敵な音楽との出会い

 サザン全楽曲のサブスク解禁は、時代の変化に伴った嬉しいアプローチだ。国民的なグループが今回のアクションを起こし、前述の現象が起こったことは、「音楽シーンが変化した」という時代の転換期をサザンが非常にわかりやすく、派手に、粋に提示したと捉えられるのではないだろうか。“スローにちょっとずつ”ではなく一気に全曲解禁となったことには驚きを禁じ得ないが、リスナーとしてはとても喜ばしいアクションだ。

 世界中で音楽作品の数が増加し続ける昨今、「名作が埋もれる」ということほど悲しいことはない。サザンに限ってはそんなことはないだろうが、今回のサザンのアクションが今まで以上にサザンの音楽を知るきっかけを拡大させることは明白だろう。

 今回のサザンをきっかけにサブスクを利用し始める、というリスナーもいると思われる。それは、「リスナーが楽しめる音楽を取りこぼさない」ということに繋がるのではないだろうか。サザンの楽曲から広がる音楽は多岐に渡る。

 サザンのサブスク解禁によってもたらされる音楽シーンの変化には、「好きな音楽に出会いやすくなる」ということが軸にあるのかもしれない。

 好きな音楽に出会えることさえできれば、さらにディグって盤を購入したり、ライブを体験したり、周囲とシェアすることもできる。自分の“好きな音楽”をさらに拡張することができる。「まず、好きな音楽を知る」ということの起点を広めてくれるという点でも、今回のサザンのサブスク解禁は、サザンの音楽はもちろん、「素敵な音楽との出会いかたそのもの」も広げてくれるだろう。

 「楽曲の発見」「シェアしやすい環境」「新たな音楽との出会い」。他にもあるだろうが、サザンの今回のアクションはこの3点をより広げ、リスナーにとっての音楽の楽しみかたをもっと拡大してくれるだろう。【平吉賢治】

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