サザンオールスターズが1日、茅ヶ崎公園野球場(神奈川県茅ヶ崎市)で野外ライブ『サザンオールスターズ「茅ヶ崎ライブ2023」powered by ユニクロ』を行なった。本公演は桑田佳祐の出身地であり、ファンとサザンの聖地での凱旋ライブ。9月27日、28日、30日、10月1日に開催され、観客動員数は各日1万8千人。9月30日、10月1日の2日間行われたライブ・ビューイングは各日10万人、球場と映画館で4日間合計27万2千人を動員という大盛況をみせた。45周年を迎え、益々熱量を増し続けるサザンの垂涎の野外公演4DYASファイナルの模様をレポートする。【取材=平吉賢治】

“故郷”茅ヶ崎での凱旋ライブ実現

「茅ヶ崎ライブ」は 2000年に初開催。当時、桑田がライブで「故郷の茅ヶ崎でライブをやりたい!」と発言したことをきっかけに、茅ヶ崎市民の有志が地元にサザンを呼ぶべく署名活動を行ない、街全体とサザンが一丸となり実現した。同会場でのライブは、2013 年にデビュー35 周年を迎えて開催した公演以来10年ぶり3度目となり、4DAYSの開催は今回が初となる。

 デビューの1978年から現在まで、昭和、平成、令和と、それぞれの時代で第一線を走り続けるサザン。近年でも各地で精力的に公演活動をしてきた。中でも2020年末のコロナ禍に国民的バンドとして矢面に立ち、横浜アリーナでエンタメ復興の狼煙となる無観客配信ライブを敢行したことは印象深い。サザンは、果敢な姿を、斬新な景色を、音楽家にとっての“希望の轍”を残したのである。当時の「音楽関係、エンタメ業界は負けないからな!」という桑田の頼もしい言葉は、いまだ心に深く残っている。

 サザンはその言葉をこの日、現実として堂々と示した。茅ヶ崎でのライブはサザンにとってもファンにとっても特別なもの。それは開演前から、オーディエンスの表情や、「嬉しい!」というファンの生の言葉が飛び交う会場内の空気感が如実に物語っていた。みんなが、サザンに「おかえり」「ありがとう」という気持ちを胸いっぱいに抱いていたのである。

故郷で楽しみつつ圧巻の凱旋ライブ

撮影=西槇太一

 開始前から十分に温まる会場に、サザンは満面のスマイルでステージに登場。オーディエンス総立ちの中、「C調言葉に御用心」の美しいコーラスのイントロダクションからライブを走らせた。45年間共にしたサザンは、「女呼んでブギ」での演奏で一節を<帰って来たよ>と替え歌して歌う。この公演がサザンにとっても、ファンにとっても、特別であることを明言するワンシーンだった。

「愛とロマンを歌うサザンオールスターズでございます。里帰りさせて頂きました」と、桑田はリラックスした様子で伝えた。最初のMCで本公演の命題と言える言葉を投げかけ、「茅ヶ崎ありがとう、全国から来てくれてみなさんありがとう――最終日……なんでもやります! パンツ脱ぎます!」と、コンディション抜群の様子の桑田。

 ご機嫌のテンションで「全員ね…紙おむつ履いております。ステージ上はちょっとした高齢者施設です(笑)」と、ジョークを交えつつ10年ぶりに帰ってきた感謝の念を表現する。そして、「コロナ明けではありますが、みなさん熱いご声援とパワーをください!」と投げかけると、会場からは拍手喝采に大声援がこだました。先述の無観客ライブから“声出しライブ”への道のりと打開を示した瞬間でもあった。

 サザンのライブは、1978年のデビュー年から現在に至るまで、各時代の楽曲をバランスよくセットリストに並べることが魅力のひとつだろう。1978年から80年代、90年代、2000年代、2010年代、そして2023年の最新曲まで、活動45年間全ての年代からの楽曲がボリューミーに披露される。「あの曲はやってほしい!」「もしかしたらあの曲も聴けるかも…」という期待にドンと応えるスケール感は圧巻だ。

 そして、この日の曲目は凱旋ライブということもあり、“故郷”を思わす楽曲が並ぶことが印象的だった。茅ヶ崎を愛で染めるように歌う「涙のキッス」での<誰よりも愛してる>という一節では、オーディエンスへの想いはもちろん、この地に対しての慕情をより強く感じられるようだった。

「夏をあきらめて」では、キュンと心に響くメロディが陽の沈む空とマッチし、続く「Moon Light Lover」では夜空が会場を覆いロマンティックな雰囲気を醸す。時間配分も考慮した自然一体となる粋な演出をみせるなど、サザンは野外ライブならではの醍醐味を堪能させてくれた。茅ヶ崎という土地そのものも“メンバー”として一緒にパフォーマンスしているかのような美しい瞬間だった。

「栄光の男」では<喜びを誰かと分かち合うのが人生さ>と、アップテンポな演奏と共にオーディエンスを鼓舞する。桑田の絶技のスライドギターのプレイに魅惑される「OH!! SUMMER QUEEN~夏の女王様~」、原 由子が優美にリードボーカルをとってステージフロントで歌唱する「そんなヒロシに騙されて」など、カラフルな表現も重ねる。「これぞサザンのライブ」と誰もが納得するムードが茅ヶ崎に広がった。

 涙腺を優しく刺激する「いとしのエリー」では、サザンのバラード特有のグルーヴにつつまれ、その普遍的なメロディに皆、酔いしれていた。サザンのライブに関しては「ここがハイライト」という部分があまりにもありすぎて絞れないのだが、故郷で歌う親しみのある楽曲の披露という点で、まずここは誰もが頷く恍惚のポイントではないだろうか。

茅ヶ崎からそれぞれの“故郷”へ

撮影=西槇太一

 MCで桑田が客席に「どこから来たの?」と問いかける。すると、客席からは全国各地の地名がコールされ、いかにサザンがこの地でライブをすることをファンが望んでいたかが露わになった。また、この日に茅ヶ崎FMが開局されることも紹介し、祝辞をあげる一幕もみせつつライブは中盤に突入。

 新曲“サザン2023新曲三部作”からの「歌えニッポンの空」では<ありがっとう!>のコールがステージ、客席からと鮮烈に鳴り響き、10名以上のダンサーも加わりライブの勢いはさらに増していく。また、曲中で<ここは茅ヶ崎>と歌詞を変えて歌唱する「待ってました!」のおはからいで会場に歓喜の声が響き渡る。

 続く「東京VICTORY」では、観客席からレーザーが縦横無尽に空を射し、オーディエンスが手首に付ける通称「烏帽子(えぼし)ライト」が輝く美麗なビジュアルが瞬時に展開される。息を呑むほどの鮮麗さとパワフルな演奏に大歓声とシンガロングが巻き起こり、数あるハイライトのひとつと言える大盛り上がりをみせた。どこまでもボルテージを上げるライブは「太陽は罪な奴」でさらにブーストされ、熱量は天井知らずに昇り続ける。

 そのままアップテンポが連なると思いきや、このタイミングでサザンの愛の生命力を感じさせる「真夏の果実」を優しくはさみつつ、「LOVE AFFAIR~秘密のデート~」「ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)」とたたみ込むドラマティックな流れでオーディエンスを魅了する。

 終盤でも当然のように熱気は上がり続け、サザン2023新曲三部作第一弾「盆ギリ恋歌」でエキゾチック・歌謡アンセムのサザン節が炸裂。その勢いのまま「みんなのうた」に続き、桑田はステージ上から客席にホースを向けて大量の水を放射。鎮火ならぬライブの熱気の火に油を注ぎまくるかの如きパフォーマンスで、ライブは白熱のお祭り騒ぎだ。

撮影=西槇太一

「最後に……静かな曲を」という桑田の“フリ”から展開された本編ラストは、ギラつく轟音のギターリフからの「マンピーのG★SPOT」。桑田はヅラ(通称・マンヅラ)を被り、相模ナンバーのプレートを額に装着という振り切ったいでたちでシャウトする。艶やかなダンサーに囲まれつつ、ロックパワー溢れまくりのサウンドと共に、とてつもないハイテンションで会場一体大盛り上がりのフィナーレを迎えた。

 興奮収まりきらない会場では全席でウェーブが巻き起こり、再びサザン登場。4曲のアンコールに応え、ラストは歌い出しに<茅ヶ崎>と地名が入るデビュー曲の「勝手にシンドバッド」。「フレッ! フレッ! 茅ヶ崎!」と、この地でのライブならではのコール&レスポンスが長らく続き、メンバー、ダンサー総出のステージも客席も狂喜乱舞。<ラララ――>というお馴染みのコーラスがこだまし、会場一体でライブは最高潮に達した。

 アリーナ、ドーム、様々な大会場で行なうサザンのライブは老若男女楽しめる最高の音楽空間であり、エンタメの真骨頂である。その原点とも言える場所で開催された本公演は、ひとしおの幸福と快感と歓楽をもたらしてくれた。

撮影=西槇太一

 最後にサザンは、「4日間、本当にありがとう! また帰ってきます!」と、次なる計画を練ることを約束してくれた。その言葉が、これから先、どれだけ我々の想像を上回るかたちで示してくれるかは、サザンの45年間の歴史がいつの時代でも証明してくれている。

 本公演に参加したオーディエンスは、誰もが多幸感を全身から発していた。この日の茅ヶ崎ライブでもらったサザンの真髄は、オーディエンスそれぞれの“故郷”である全国各地に波及するという多大な意義を伴う。これからもサザンは我々に光明を照らし、いつの時代でも第一線で、明るく楽しい希望あふれる未来への道を切り拓いてくれるだろう。

撮影=西槇太一

セットリスト

『サザンオールスターズ「茅ヶ崎ライブ2023」powered by ユニクロ』

2023年10月1日@神奈川・茅ヶ崎公園野球場

01.C調言葉に御用心
02.女呼んでブギ
03.YOU
04.My Foreplay Music
05.涙のキッス
06.夏をあきらめて
07.Moon Light Lover
08.栄光の男
09.OH!! SUMMER QUEEN~夏の女王様~
10.そんなヒロシに騙されて
11.いとしのエリー
12.歌えニッポンの空
13.君だけに夢をもう一度
14.東京VICTORY
15.栞(しおり)のテーマ
16.太陽は罪な奴
17.真夏の果実
18.LOVE AFFAIR~秘密のデート~
19.ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)
20.盆ギリ恋歌
21.みんなのうた
22.マンピーのG★SPOT

ENCORE

EN1.ロックンロール・スーパーマン~Rock'n Roll Superman〜
EN2. Ya Ya (あの時代(とき)を忘れない)
EN3. 希望の轍
EN4. 勝手にシンドバッド

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