それぞれの個性が生かされる時代
――「ブエノ ウエノ」はいかがですか。
これは作曲・藤倉大さんと、和太鼓・林英哲さん、ふたりの素晴らしい音楽家のおかげです。まず「英哲さんと演奏したい」という想いがあったんです。もちろんサクソフォンと和太鼓のための楽曲なんてないですから。そこで作っていただく、というときに藤倉さんを紹介していただいたんです。お願いしたら「その組み合わせ面白そうじゃない?!」と言ってくださって。でも、初めは藤倉さんご本人も具体的にはイメージできてなかったとおっしゃっていました。
――和太鼓は音量も大きいですが、録音はどの様に?
この曲に関しては普段とは違って、スタジオでレコーディングしました。確かに和太鼓との録音は難しいんですけど、エンジニアの方が素晴らしかったですね。ブースに入って吹いたんですけど、空気が伝わるように扉を開けて一緒に録音しています。譜面は全部書かれているんですが、英哲さんの作る間が本当に素晴らしい。「タタッ! タタッ!」という微妙な間はクラシックとは種類の違う間なので、彼に合わせて演奏しました。
英哲さんは大先輩にも関わらず、自分のような若手にも一人の音楽家として、尊重してくださり、常に同じ目線・立場で音楽を作れる方でした。大学生の時に藝大の奏楽堂でオーケストラと英哲さんの共演を見て、衝撃を受けたんです。コラボレーションはそれ以来の念願でした。この前代未聞の組み合わせがどんなに格好良いのか、皆さんに早く聴いていただきたくてウズウズしています。
――前作『BREATH ~J.S.Bach×Kohei Ueno~』ではバッハを取り上げられてました。今まで色々な楽曲を演奏されてきたと思いますが、それらを経て自分の演奏が変わったと思われますか?
自分では認識していることはないですが、無意識の内に変わったことはあるかもしれません。ただ今回の音源のミックスで自分の音を聴いていると、6年前に録音した『アドルフに告ぐ』と比べて「こんなに変わったんだ」と思う点はありました。音色から何からすべてですね。
楽器のスキルが上達したということもあるかもしれませんが、それよりも音楽の見え方や感じ方が変わって、出てくるものも変わったということだと思います。特に意識して変化させたということではないですけど歳を重ねるごとに体験してっきたことがそのまま音に現れる・・
きっと音楽ってそういうものなんだと思います。
――今のクラシック・サクソフォンのトレンドや流れで感じることは?
今はそういう流行がないかもしれません。ちょうど過渡期で色々な人が出てきて、色々なものが生まれています。今まではひとつの価値観のもとでみんなが演奏してきたと思うんですけど、それとは別のものも受け入れ始め、それぞれの個性が生かされる時代だなと。