生きていることを感じられるのが舞台、だからやめられない
――覚悟という話もありましたが、本作には哲学的な要素が散りばめられています。日本初上演の時は「森がおまえを一人前にする」というセリフがありました。ご自身がこの仕事で一人前になった瞬間、やっていけるなと思えた瞬間はありますか?
先ほど覚悟を吸収したいと話しましたが、もちろん僕のなかでも仕事に対する覚悟は持っています。ただ、それが本当の覚悟なのかと言ったらまだ分からないところがあります。作品を一つずつやって、終わった時に毎回「この仕事をやっていて良かったな」と思えて、むしろ思えなかったことがない。とは言っても自分が一人前になったとは思っていません。ただ、「この仕事を続けていつかそう思えたらいいな」とはいつも思っていますので、これからだと思います。でもこればっかりは難しいです。自分では分からないことですから。
――逆に他人の評価で印象の残っているものはありますか。
『豊饒の海』に出演したときに、ありがたいことに色々な方から評価を頂きました。僕としても当時演じてきたなかでかなり難しい役でしたし、物語も三島由紀夫の世界ですから難しい。そこに挑戦してやり遂げたのは自信にも繋がりましたし、一皮むけた感じはありました。
――『豊饒の海』から本作と重みのある作品が続いています。舞台に立つ魅力は?
初めての舞台に出演させて頂いた時、正直怖くなりました。過去にも色んな作品を観てきましたし、お客さんの前でやることや膨大なセリフを覚えていることを含め、舞台に立つ人はすごいと思っていて。そのなかでいざ自分が立ってみると、不安は相当あったのにできている自分がいて。舞台中は密度が濃い時間を過ごしますし、成長のレベルが他よりも何倍もある気がします。重圧があるからこそ、それを乗り越えたときに強くなれる。ですので、役者として見た場合、自分の成長が感じられる、それが舞台の魅力だと思います。
――成長が感じられる舞台に立つ度に意識変化はありますか?
毎回、楽しさは強くなっています。でも、舞台は何本も出演を重ねれば緊張しなくなると思っていたんですが、全くそんなことはなくて、やればやるほど緊張する(笑)。今年5月に上演した『CITY』という舞台も『豊饒の海』も何度も出演されている方も出る直前まで重圧で緊張されていて、もちろん僕たちみんなそうでした。でもそういうところに「みんな生きているな」と感じるんです。舞台に立っている間も、待機している時間も全て無駄ではなく、体を燃やす、完全燃焼させていく感じと言いますか。でもそれが終わった後には快感に変わって。だから舞台や止められない。
――ちなみに一番緊張するところはどこですか?
それが稽古場なんですよ(笑)。『豊饒の海』も稽古中が一番不安に感じていました。ある意味、本番が始まってしまえばあとはやるだけなので、吹っ切れるということもあります。と言ってもそれはそれで緊張はしています。ただ、稽古は何もないところから作っていく。何が正しいのかも分からないまま、試行錯誤を繰り返して、少しずつ見えてくる。その間、自分が持っている力や想像力をフルに出さないと作れない。そういう全てを出す、考えなくてはならないことへのプレッシャーを稽古場で感じます。そうして迎える本番なので初日もすごく緊張します。きっとこの作品もそうだと思います(笑)。
――過去の取材記事で「俳優として満足していない」と話されていました。どのあたりが満足されていないですか?
色々な作品に出演させて頂いて、終わった時に前の作品よりも成長が出来たと実感が湧いてくるんです。それと同時に課題も見つかって、それが伸びしろだと思いますが、それを感じている以上はまだまだ未熟というか、それが満足していないという言葉になっていると思います。
――今後どのような役者になっていきたいですか?
僕と共演したい、と思ってもらえるような役者になりたいです。役者さんもそうですし、演出家さんからも「是非宮沢氷魚くんでやりたい」と。それを目指すべきだと思います。