BIGMAMA「素人も玄人も格好良いと思う音楽を」クラシックにもロックな姿勢
INTERVIEW

BIGMAMA「素人も玄人も格好良いと思う音楽を」クラシックにもロックな姿勢


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:19年12月18日

読了時間:約15分

「僕らも想像していない掛け算が起きた」

『Roclassick ~the Last~』ジャケ写

――それでは最終章『~the Last~』についてお聞きします。

金井政人 ある程度のビジョンがないと作れないと思いました。「シリーズ物の3はだいたいすべる」という僕のセオリー的なのがあって、すべらない秘訣としては「違うものを作る」、「同じ土俵で勝負しない」と決めているんです。それには「ライブを意識しない」ということが一つ、そしてリアド偉武(Dr)がサポートでしばらく離れる時期に閃いた「デスクトップで制作する」ということです。ドラマーではない人間がリズムをコントロールすることで、前作と違った“3”を意図して作りました。

――それはかなりの変化だと思います。

金井政人 「聴くもの、オーディオ的に楽しむもの」というのが前提で、差別化を図りたかったんです。その代表的なのが、もの凄く派手なものをという「誰が為のレクイエム」だったり。「スピーカーと向き合う」みたいな感じです。3曲目のように聴き流せる良い曲、同じリズムが一定で流れるなかでのちょっとした変化がクセになる、ということも意図したり。5人でライブをやることを意識すると「ここ、どのタイミングでどうするの?」というのがあるんです。今作は「誰がどうやるの?」というのが自分達ですら見えないが正解、というような。「そこに対して鍵をかけない」というのがキーワードでした。

 これまではメンバーと面と向かって作る時間が9割で、今回は逆で9割はPCに向かったりデータ上でやりとりしました。違うものを作るのには違う方法でというのが正しかったんです。映画や漫画もそうだと思うんですけど、「このテーマで同じものを作る」という時に、同じものを3度見せるということはしてはいけないと思ったんです。きっちりと料理の仕方を変えました。

――確かに、エレクトロやキックの連打、「LEMONADE」のリバーブ感などは、PC制作上で出るアイディアと感じます。

金井政人 正にその通りだと思います。

――「あなたの声で僕の名を呼んで」はアコースティックギターが入っていますが、チェンバロの音色に聴こえたりして、クラシック融合のバンドマジックを感じました。

柿沼広也 打ち込みに生音を入れることで生まれる説得力というのが勉強になりました。いつもだったらアコギを軸にして曲を作るんですけど、あえてそうしなかったので違う楽器に聴こえたのも正解だと思います。それがあの独特な空気感、エレクトロなのにオーガニックという雰囲気も感じると思うんです。それはクラシックのメロディとの関係もあるし、僕らも想像していない掛け算が起きたので面白かったです。

――オーガニックという雰囲気は正に感じた部分で、「LEMONADE」もそうでした。これは緑黄色社会フィーチャリングですね。

金井政人 「緑黄色社会」というのがもうオーガニックそうですよね(笑)。

――確かに(笑)。このきっかけは?

金井政人 前作と線引きをしたかったんです。それには「女性ボーカルの曲を書く」とはじめから決めていました。試行錯誤の末、対バンした時に一緒に歌ってくれて声を聴いて、終わった時に全員でどう頼むか話をしていました。

――即決だったと。

金井政人 実はこの曲って、僕と僕以外の人とで凄い温度差があったんです。僕は凄く良い曲が出来たと思っていたんですけど、なかなか伝わらなくて。でも、レコーディングで緑黄色社会の長屋晴子さんが歌ってくれて、その温度差が埋められて「なんていい曲なんだ!」と、みんな気付いたんです。彼女の歌が凄く説得力を足してくれて、凄く感謝しています。

――女性ボーカルというのも、これまでのシリーズにないアプローチですね。スタイルは保ちつつも、かなりの面で変化があったと。

金井政人 そうですね。「ロックバンドにバイオリニストがいてクラシックで遊ぶ」という部分は絶対に崩さず、ボーカルが僕以外、生ドラムでなくてもいいなど「他はなんでもいい」みたいなことだったのかもしれないです。

柿沼広也 「ロックってドラムやギターが鳴ってなくちゃ」というところではないロックの精神です。

金井政人 “attitude”だね!

柿沼広也 そう。みんなで頭を柔らかくして。「それって、逆にそうしないほうがカッコいいよね」というのをやる勇気だったり。「それもロックな精神なんじゃない?」という気持ちにもなって。長屋さんに関して一番感動したのが、一度も会わないままやったレコーディングのファーストテイクが最高だったんです。金井のニュアンスをちゃんとトレースして、たぶん結構練習をしてきてくれたんだと思います。BIGMAMAの良いところって金井以外が歌っても良い歌だというところだと思うんです。それを体現してくれたことに感動しました。

――誰が歌っても良い曲というのは、非常に強いと思います。

金井政人 この曲はある種のデュエットだから、みんなが歌いたくなるような曲を書きたい気持ちがあったんです。こういうチャンスだからこそ、振り切ってできるんです。“Roclassick”であれば、ジャンルやスピード感など全て飛び越えて「面白かったらいいでしょ」という曲を揃えられるんです。これがオリジナルアルバムだったら「このバンド何がやりたいの?」って思われますから(笑)。“Roclassick”で繋がっているので、色々起きているほうが面白いんです。そういう意味で自由だし、“Roclassick”のこのチャレンジだったら何も恥ずかしくないし、ご機嫌に差し出せるからこの曲は凄く好きです。

――全体的な“面白さ”というのはとても納得できる言葉です。

金井政人 バンドを長く飽きることなく続けるよう気をつけていた結果、そうなったと思います。バイオリニストがいるロックバンドの続けかたに関しては、色んなトライ&エラーをしないと飽きるという。それがその時期、曲ごとに起きているんだと思います。

――ところで、クラシックのモチーフの曲の選別はどのように?

金井政人 お笑いで言う“オチ”が見えているかどうかです。例えば「the Last Song」のショパン「別れの曲」だったら、お題としてその曲があって、「めっちゃ悲しい曲で感情高ぶる演奏の曲を書いてみたい」と、話を最後までどう料理するか言葉で見えるかどうかです。

 「LEMONADE」は、モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」という曲がセレナーデという形式らしくて、どうやらラブソングらしいと。それで自分のなかで「これはラブソングで、相手を想ったフレーズなんだ」と思いながら、フレーズをリピートさせてラブソングの歌詞を書いて、ダジャレで「セレナーデ」で韻を踏んで「LEMONADE」が出てきたんです。それにみたててラブソングを書くというオチがみえたから出来ると。元のクラシックから、「どう料理したら面白いか」までみえると上手くいきやすいです。

――「誰が為のレクイエム」だと?

金井政人 このヴェルディ『レクイエム「怒りの日」』で「誰かのとどめを刺すようなアレンジで曲を書いてやれ」みたいなことが浮かぶか浮かばないかです。

――大喜利みたいですね。

金井政人 ずっと大喜利してます。「クラシックでひとボケ」をずっとやっているんです(笑)。

柿沼広也 Roclassickシリーズで最初に出来た曲「計算高いシンデレラ」は、間奏のパッヘルベル「カノン」のフレーズが流れる部分で登場人物達を結婚させたいと言うんです。でも曲中で結婚式を挙げるアレンジって、よくわからないじゃないですか? ただ、金井の歌詞的なゴールがあったから、そういう風にメロディが流れて結婚するんだと。そういうところから始まって、いまのスタイルがあります。僕らは“Roclassick”に限らず曲が先、歌詞があと、というのが多いんですけど、歌詞をイメージしてもらえるようなアレンジにできるといいなと思って作っています。

金井政人 それで言うと、今作の「ワルキューレの非行」は、元はワーグナー「ワルキューレの騎行」じゃないですか? 金井大喜利としては“騎行”が“奇行”でも、“ワルキューレの逃避行”でもいいし。最初は“逃避行”でしたから。最終的に曲が仕上がって歌詞を乗せる時、「この曲、凄い悪い奴だな。“非行”くらいが丁度いいな」と言ってそれになったという。最終的には曲に呼ばれます。

――曲調もまたハードですよね。

柿沼広也 ちょっとやり過ぎました(笑)。2、3曲目の流れからだとびっくりするかなと。

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