ロックバンドのBIGMAMAが5月13日、ライブツアー『BIGMAMA TRANSIT MAMA TOUR 2018』のファイナルを東京・青海のZepp Tokyoで迎えた。【取材=桂 伸也】

 バンド活動10年を超えるBIGMAMAは昨年10月、初の日本武道館ライブをソールドアウトさせ、今年初頭より放送されたドラマ『賭ケグルイ』(TBS系)とのタイアップシングル「Strawberry Feels」で、3月にメジャーデビューを果たした。その確かなテクニックと、ストリングスをワンポイントアクセントとして独自のカラーを持つ彼らのサウンドは、現在多くのロックファンを獲得し、これからの進路に大きな活路を見出している。

 今回のツアーは、これまで彼らが培ってきた自身のストーリーを振り返るというコンセプトでおこなわれており、そのセットリストは2017年の日本武道館公演で披露されなかった楽曲を中心に構成。またタイトルの“TRANSIT”(飛行機などの乗り継ぎ)という言葉には、昨年までインディーズシーンで活動してきた彼らが、いよいよメジャーシーンにその拠点を移すという意味合いも込められている。

 その意味で彼らにとって、まさしく大きな起点となったこのツアーファイナルを、一目見ようとこの日も会場には大勢のファンが駆けつけ、興奮により立ちのぼらせた猛烈な熱気で、会場を満たした。ステージの上には、沢山のカーネーションをまとめた大きな花束が、ドラムセットの上手側に一つ。薄暗いステージでそこにだけスポットライトが当てられ、この“BIGMAMAの日”=「母の日」を祝う大きな象徴としてたたずんでいた。

まさに「運命」の時が、高らかに響く観衆の歌声とともに

撮影=高田 梓

撮影=高田 梓

 ステージスタートの時刻。場内にはこのツアーのタイトルにある「TRANSIT」という言葉にかけて、離陸前の飛行機で聞かれる機内放送をもじった前説が。そして「TRANSIT航空もラストフライトとなりました。シートベルトをはずす準備はよろしいでしょうか?」とフロアにいる満員の観衆に語りかける。その言葉に反応し、大声を上げる観衆。ベートーヴェンの交響曲「運命」をアレンジしたSEが流れ始めると、観衆はまるで申し合わせたように、リズムに合わせて手拍子を始める。いよいよステージには5人が現れ、かくして幕は開かれた。

 SEの終わりに合わせ、柿沼広也がギターで一つの雄叫びを上げる。その音に続いてゆったりとしたビートが、観衆の気持ちを高ぶらせ、開始直後にもかかわらず、そこに流れたメロディを合唱する。そしてふと陥ったブレイクの次の瞬間、「Theater of Mind」の一気に疾走する8ビートへ。その落差の反動で、観衆はさらに興奮を高め、サビに移るとモッシュ、クラウド・サーフィングと尋常ではない状況に。

撮影=高田 梓

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 安井英人、リアド偉武という正確無比のリズムセクション、文字通り掻き鳴らされる柿沼のギター、そしてロックなサウンドの中で絶妙なアクセントを入れる東出真緒のバイオリン。そんなバラエティに富んだサウンドに、自身の感情をぶつけるように、叫ぶように歌う金井政人。まさにロック、といわんばかりに爆走8ビートを基本とした荒々しいサウンドが続く中、東出のソロにベートーヴェンの交響曲第9番のフレーズを入れた「虹を食べたアイリス」、同じくベートーヴェンの「エリーゼのために」の主旋律を楽曲に取り込んだ「テレーゼのため息」と、楽曲のフックやアクセントも様々に、力業だけではない豊かなイメージで、さらにステージを盛り上げていく。

「この日だけは別格」極上の「BIGMAMA」ワールドが展開

撮影=高田 梓

撮影=高田 梓

 ハードなサウンドが続く中、フッとこの日始めてのメジャーキーの楽曲「Overture」が現れると、雰囲気はまた一変。パンキッシュなハイスピードのビートに、観衆の胸の鼓動も高鳴っていくようだ。さらにヘヴィーメタル的な16ビートリズムがさらにその気持ちをかきむしる「Merry-Go-Round」、ジャングルビートからお得意のロックなフィールへと展開する「アリギリス」と、観衆はBIGMAMAのサウンドにされるがままの状態。

 さらにフリジアン系の音使いが印象的な「Flameout」に続いて初披露の新曲へ。彼らならではのロックなビートに乗せた、素直で温かさを感じるそのメロディに、最初はじっと耳を傾けていた観衆だったが、中には徐々に腕を振り上げ、彼らのバイブスをしっかりと手の中に受け止めようとするものもいた。

 ほとんどMCらしいMCもおこなわず、ひたすらプレーを続行し続けたこの日のステージ。中盤は少しお洒落な雰囲気もある16ビートナンバーの「週末思想」「俯瞰show」、エリック・サティのピアノ小曲「ジムノペディ」のメロディにインスパイアされた「Royalize」など、味わい深い楽曲でさらに音楽性の広さをアピールする。そして「The Right」が終わると、他愛もない話で笑いを見せる中「この日だけは別格ですね! 何回目かわかりませんが、初めてBIGMAMAという名前にして良かったな、と思う日です」と、柿沼がふと語る。その声に思わず観衆も拍手を送る。

「シンセカイ」の扉が開く。そして「SPECIAL」な彼らの未来は…

撮影=高田 梓

撮影=高田 梓

 そして雄大な雰囲気のイントロを持つ新曲から「秘密」へと続けて、いよいよステージは後半へ。メジャーデビューシングル「Strawberry Feels」にそのカップリングソング「POPCORN STAR」「Donuts killed Bradford」、ドヴォルザークの交響曲第9番 ホ短調 作品95「新世界より」のメロディを加え広大なスケール感を演出する「荒狂曲“シンセカイ”」、彼らの楽曲の中でも、ライブでははずせないナンバー「ファビュラ・フィビュラ」とファンには堪らないキラーチューンが、クライマックスへのお膳立てをしていく。

 開始から変わらぬ力強い歌を聴かせる金井。その彼をしっかりと支える4人。リアドは“最後の砦”とばかりにクールに、しかし激しくプレーを続ける。安井は、全員全力の8ビートの中でも敢えてスリーフィンガー奏法による16分フレーズを取り入れたり、要所でスラップやダブルストップなどテクニカルな味付けをサウンドに加える。セカンドメロディ的なプレーでサウンドに奥行きを与える東出は、パフォーマンスの部分でも大きく観衆にアピール。そして柿沼のギターはさらに大きく、荒々しくBIGMAMAのロックスピリッツを音で表現していた。

撮影=高田 梓

撮影=高田 梓

 いよいよエンディング間近、金井は「あなたの迷いが晴れますように、あなたの心が晴れますように…一点の曇りなし!」と観衆に言葉を贈り、「CRYSTAL CLEAR」へ。4つ打ちのビートが、明日への希望を旨に植えつけるように気持ちに響いていく。そしてこの日のラストソングは「SPECIALS」。疾風のごとく駆け抜けたこの日のステージを象徴するかのような、疾走するビートが聴く者の胸を打つ。金井の歌声に合わせ、フロアの観衆もまたその歌のフレーズを歌う。<we are the specials><僕らは“SPECIALS”>それは歌の一節というより、BIGMAMAと観衆がお互いを認めるように、語り掛け合っている様のようでもあった。

 こうして全29曲、一部のMCを除いてほとんど途切れることもなく全力で走り抜けたBIGMAMAのステージは、幕を下ろした。観衆はアンコールを求めたが、彼らが再びステージに姿を現すことはなかった。それはまさしくメジャーシーンという舞台に立った彼らの、新たな決意ゆえのことだったに違いない。今後、どのような活躍を彼らは見せてくれるのか、期待せずにはいられないところだ。

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撮影=高田 梓
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