【インタビュー】鈴木蘭々は今何を思う、人気絶頂期に休業した理由　一度は諦めた「歌手」【音楽】

一度は諦めた歌手

　芸能生活25周年を迎えた2013年。それまでの活動の集大成とし、演劇と歌、ダンスを取り入れた公演をおこなった。企画構成は自身で考えた。2014年、芸能ではないモノづくりをしてみたいと、かねてから関心があった化粧品の会社を設立した。そのタイミングで「歌は二度とやることはないから」と高校時代に書いた歌詞、そして売れなかった時代に録ったプリプロの音源を全て捨てた。

　「25周年のライブは大変だったこともあって、音楽やライブは二度とやらないと思っていました。」

　その考えが覆ったのは旧知の再会だった。

　今回のライブのバンマスを務めた立川氏と2017年に会った。氏は鈴木の「キミとボク」が好きで、共通の作家を通じて鈴木にライブのオファーをしたのだ。「全てサポートしてくれるということだったので去年、芸能生活30周年を記念したライブを開きました。」

　ライブは盛況だった。変わらぬ歌唱力で表現する歌の世界観に涙する人もいた。

　一度は歌うことを諦めた。しかし、2018年の芸能生活30周年公演のステージに立った。

　「改めて歌は難しいなと思いました。ライブハウスというのもあって観客とも近距離だから緊張してしまって。なぜもう一度歌おうと思ったのか。一番は自分よりも周りが一生懸命にやってくれていて、その熱に応えたいという思いがあったからです。一生懸命に用意してくれたものに乗るのが今も昔も変わらず私の役割。乗ることでやりたいと思っている人の喜びにもなる。」

　そのライブから約１年が経った今年８月。ライブハウスに彼女の姿があった。

　デビュー曲でもある「泣かないぞェ」や新曲「迷宮輪舞曲」、猫との日常を切り取ったブルージーな「Cat saves the universe」などを歌い上げた。また、「Let it be」などのカバーでは日本人離れした歌唱力で聴く者の心を惹きつけた。更に、「少年時代」「瑠璃色の地球」の作曲家・平井夏美がこのライブのために書き下ろした新曲「Mother」、最新曲「Just Do it, Do it over」を歌い届けた。

　笑顔で歌う鈴木。その表情には充実感があった。

　「新人に戻った気持ちですよ。良い刺激になっています。昔とは違う気持ち、楽な気持ちで音楽と向き合えていますし、歌詞を書いていると自分の思いがそのまま表れていて。そこで気づいたのは昔から何も変わっていないんだということでした。」

　そして、彼女には「泣かないぞェ」をリリースした約25年前と変わらないものがある。

　「やっぱり世の中全て嘘つきだと思っていますよ（笑）。実際にそうですし、当時よりもそうなっている。当時はマスメディアのみの情報だったけど、今は自分から探せる時代。なかにはびっくりするような裏側も知れることができますから。もう『泣かないぞェ』の歌詞のまま。」

　当時付けていたフィルターは、ない。

　「誰もが自由に発信できる時代ですし、こうしなければならないというのはないと思う。アーティストは一つのパブリックイメージで歌を作っていく、いわゆるブランディングが必要だけど、私の場合はその時その時思ったことをそのまま歌にしていきたい。だからてんでバラバラな曲になることもあるけど、それもそれでいいと思う。今後はそういう方向で歌をやっていきたい。」

　当時のマネージャーやスタッフ、ミュージシャンが彼女の背中を押す。そうした周囲の支えもあって彼女はステージに立った。感謝の気持ちも忘れていない。そして、何のしがらみのない彼女の歌は伸びやかでクリーンだ。

　12月17日、彼女は新たに楽曲「ビュリホービュリホー」（BOLSTAR MUSIC）をリリースする。2000年に世界でヒットしたAQUAの「Cartoon Heroes」のカバーだ。

　「2000年当時、リリース予定で制作が進んでいた楽曲だったんですが、世に出ることはありませんでした。しかし、当時の制作スタッフが想いのほか、この曲への愛が強く、リリースすることを強く勧められ、改めて私も聴けば聴くほど良い曲で。今の私だから表現できる歌い方もあると思った。」

　＜私たちはアニメのヒーロー＞

　原曲の童心に帰させてくれるこの曲を彼女はどう表現するのか。「ミュージカルのおかげで裏声が強くなって色々な声が出せるようになったんですよ。」衰えるどころか進化を続けるその歌声。鈴木蘭々はいまも夢を追い続けている。