伊藤千晃「“やりたい”だけで音楽はできない」ファンの声援で踏み出す一歩
INTERVIEW

伊藤千晃「“やりたい”だけで音楽はできない」ファンの声援で踏み出す一歩


記者:桂泉晴名

撮影:

掲載:19年11月22日

読了時間:約12分

 伊藤千晃が11月6日、ファーストアルバム『Be』をリリースした。2018年にソロアーティストとして音楽活動を開始。昨年から今年にかけてコンスタントに楽曲を発表し続けた彼女だが、その間に何度かターニングポイントを迎えたという。今回新しく収録された楽曲ではこれまでにないチャレンジングな伊藤千晃を感じ取ることができる。そんな楽曲制作の話やファンとの絆について聞くとともに今後の活動のことについても話を聞いた。【取材=桂泉晴名】

ファンの方から「歌って」と言ってもらったことがきっかけ

『Be』CDのみジャケ写

――昨年、音楽活動を再開したのは、どのような背景があるのでしょうか?

 音楽活動を再びスタートしたときは、「こういうことを明確にやりたい」という答えはまったく出ていなかったんです。ただ自分が出産を機に子育てに集中して日々を過ごしている中で、少しずつ余裕が出てきたら、空虚感というか心の穴のようなものがずっと空いていることに気づいたんです。モヤモヤした気持ちがずっと続いていました。その中で徐々に活動もトークイベント等で復活させていき、ファンの人たちとまたちゃんと触れ合うようになったことが何よりも自分の活力になって、子育ても仕事も頑張ろうと思えたんです。

 それでファンの人たちの笑顔をこれからも見続けたくて、聞いてみたんですよ。「私が今後どんなことしたら、より皆さんに楽しんでもらえますか?」と。そしたら「歌って!」とファンの方が言ってくだくれたんです。私にとっては、まさかの答えでした。音楽をやめたと言ったつもりはないんですけど、きっとファンのみんなは「千晃ちゃんはもう音楽を止めた」と捉えられているだろうな、と思っていたんです。だから私が「音楽をやりたい」とは言い出してはいけないんじゃないかと考えていて。でもファンの方たちがストレートに「歌って」と言ってたその瞬間から、空いていた心の穴がその言葉でカシっと埋まった感じがしたんです。

 だからファンの方たちがそれを望んでくれるのであれば、その人たちに向けて音楽をやりたい、と素直に思い、スタッフに相談したところ「人を喜ばせていく、幸せにさせていくことは僕らの仕事なので、自分がやりたい気持ちさえあれば、やっていいと思う」というお返事をいただけたんです。それでちゃんと形になってきた時に、ファンの方たちの前で披露したら、皆さん泣きながら喜んでくれたので、音楽活動を再開させてよかったと、改めて感じました。

――活動スタートから立て続けに曲を発表されましたよね。ひとつの方向性というより、かなりバラエティに富んでいると感じたのですが、どのようにセレクトしたのでしょうか?

 最初の「New Beginning」からしばらく今年の頭ぐらいまでは、同じ作曲家さんとやっていいたんです。私が音楽を始める思いをプライベートで話していた時に、「じゃあ、千晃ちゃんのその想いを形にしようよ」と言ってくださって。私が歌ったら良さそうな曲をいくつかつくってくれました。その中で今の気分にはまるもの、表現したいものを選んでいきました。だからその時の自分をちゃんと表現していきたい、という想いから集まった曲たちなんです。

――「こういうアルバムつくりたいから、こういう曲にしよう」と選んだわけではなく?

 はい。このアルバムの曲を作っていた時に「自分は今、何をしたいんだろう? 何になりたいんだろう?」と自分の気持ちと向き合う時期がありました。でも、答えがでなくとも今の自分の気持ちに素直になって表現することが一つの答えなんだと気づきました。それで今回「Be」=「~になる」というタイトルにしました。

――ソロとして初めてのアルバムを制作して、新たに気づいたことはありますか?

 やりたいことを共有する難しさも知りました。例えば「かわいいものをやりたい」と言っても、かわいいは人によって違う。自分が作りたい音楽や表現したいことを言葉で伝えても、受け取る側のニュアンスが変わってしまうので、共通認識してもらえるように伝えることがこんなにも難しいものだと実感しました。そのためには自分の頭の中で思い描いていることを言葉に変換して出さなくてはいけないんですけど、私はそれがすごく苦手なんだな、ということに気づきました。今回の楽曲制作を通して自分自身に気づくアルバムになったと思います。

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