心の呟きが聞こえる共感が出来る歌、石川さゆりが今届けたい音楽とは
INTERVIEW

心の呟きが聞こえる共感が出来る歌、石川さゆりが今届けたい音楽とは


記者:村上順一

撮影:

掲載:19年11月04日

読了時間:約11分

なぜそんなにガムシャラになって歌っているの?

――歌についてお聞きしたいのですが、ズバリ上手く歌うコツみたいなものはありますか。

 上手く歌うというのは、その時にご一緒する共通言語を結んだミュージシャンとのやりとりだと思うんです。そういうのを感じられないと、なかなか言葉が出てこないというのと同じだと思うんです。何を以ってして上手い歌かというのもあります。

 以前、『NHKのど自慢』にゲスト出演した時、参加者の方が歌っているのを聴いて、「えっ! これ誰の歌なんだろう」というくらい歌い手が消えて、突然、涙が出てしまったことがあるんです。

――テクニックとかそういう類ではなく。

 そうなんです。生活の中から出てくるものがあって、本当に歌い手が消えてましたから。そういう経験もあって、歌は上手さといった概念超える事があるんだなと思いました。

――石川さんが5月に紫綬褒章を受け取った時に、「寄り添える歌を歌っていきたい」とお話されていたのですが、その感覚にも似たものがあるのでしょうか。

 日本人があまりにも大変な日が沢山あって、そんな時でも歌は皆さんに寄り添えているのだろうかと、皆さんと歌ったりお話しした時に思いました。私の歌はドラマチックなものが多く、その世界を歌い切ってしまうというのも素敵なんですけど、「そうなんだよね」という心の呟きが聞こえる、共感出来る歌が今は素敵だなと感じています。

――石川さんが共感出来る歌にはどんな曲がありましたか。

 今、歌ってみたい曲があるんです。それは「悲しくてやりきれない」という曲なんですけど、メロディと言葉がすごく気になっています。今、この言葉とメロディにすごく共感出来るんです。

――今、日本は色んな窮地、崖っぷちにいる感じもします。そこに寄り添う部分も「悲しくてやりきれない」にはあるような気がしました。

 これまでの日本だったら崖っぷちなんて言葉は出てこなかったですよね。私が歌い始めてからずっと高度成長期が続いていて右肩上がりでしたから。でも、そんな暗いことばかり言うことが私たちの仕事ではなくて、そんな時にみんなの心に寄り添えたり、「だよね、しょうがないやるか」と歌えていけば良いかなと思います。

――歌といえばデビューから現在まで、石川さんご本人の歌はどのように変化されていますか。

 変わりますよね。歌っている渦中では、変化は何も感じていなかったんですけど、10代、20代、30代と当時の歌を今聴くと、なぜそんなにガムシャラになって歌っているの? と自分の幼さだったり、歌に向かった時の感情みたいなものがすごく思い出されたりして、かわいいなと思う時もありますし、若いなと単純にそう思う時もあります。でも、逆に「その情熱を持っていなきゃダメだよね」と思わされることもあって、改めて時間の経過の中で聴いてみるというのもすごく面白いです。

――昔の自分と向き合うのも大切なんですね。

 見つめ直すといったら大層ですけど、そこからまたヒントが湧いてくることがあるんです。昔の自分の感情から今の自分が何を出していったら良いのかがわかる時もありますから。

――さて、今後の活動の展望をお聞かせ下さい。

 今、また新しいアルバムの制作に入っています。前回のインタビューでもお話ししたんですが、私たちが海外に行った時に持って帰りたい音楽はたくさんありますけど、それが日本には用意できているのかなと思っていて。もちろん今若い方が作っている音楽やいま私が発表している音楽も大事なんですけど、日本人が生活の中で作ってきたものを、令和という風が吹いているなかでご用意しておかないと、海外から来られたお客様に対して、音楽をやっているものとして、いけないんじゃないかなと思います。

 それで、3月に「民~Tami~」というアルバムを発売しました。昭和の時代に童謡をモチーフにした「童~Warashi~」、平成は民謡の「民~Tami~」、そして令和の作品を今制作しているので、来年には発表出来ると思います。今作っておかないと日本人の音楽が消えてしまうなと思っていて、古いものではなく今の生活の中で生まれたものをまとめたいと考えています。

――どんな作品なるのか楽しみにしています。

 こんなにも「歌いたい」というエネルギーを持って作れる時間は、20年も30年もないんです。だから作れる時にたくさん音楽を作りたいと思っているので、楽しみに待って頂けると嬉しいです。

(おわり)

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