岡田有希子さんは閃きの人、当時のディレクターが語る天賦の才
INTERVIEW

岡田有希子さんは閃きの人、当時のディレクターが語る天賦の才


記者:村上順一

撮影:

掲載:19年10月16日

読了時間:約12分

岡田有希子さん(撮影=TADASHI MUTO)

 1986年4月に他界した岡田有希子さん。竹内まりやが提供した全作品を1枚にコンプリートしたアルバム『Mariya’s Songbook』を10月16日にリリース。彼女が生前残した楽曲は全部で56曲、その内11曲を竹内まりやが作詞・作曲をおこなった。同アルバムにはその11曲全てが収録されている。

 今作は2015年にハイレゾ用にリマスタリングした音源を使用し、アルバムとして1枚にまとめたのが今作。収録された全ての曲が竹内まりやの楽曲ということもあり、見事な統一感を感じさせるアルバムとなった。その竹内まりやは9月4日にリリースした40周年記念モア・ベスト&レアリティーズ&カバーズ『Turntable』で岡田有希子さんに提供した「ファースト・デイト」「-Dreaming Girl- 恋、はじめまして」「憧れ」の3曲をセルフカバーしたのも記憶に新しい。

 当時、岡田有希子さんのディレクターを担当した元ポニーキャニオンの國吉美織氏のインタビューでは、「彼女は天才型。制作チームも彼女を作り上げるというよりも、ダイヤモンドの原石を磨き上げる作業だった」と話す、その真意が、このアルバムから随所に感じられた。それはアイドルという枠で括るには少し窮屈で、シンガー・岡田有希子さんの高い表現力と感性の鋭さを感じさせた。

 彼女のイメージとしては「-Dreaming Girl- 恋、はじめまして」や「リトルプリンセス」のような、爽やかでキラキラとしたイメージがピッタリ。透明感溢れるピュアな歌声も相まって、正統派アイドルの一面を打ち出し、80年代のアイドルシーンを彩った。

 それとはまた違った一面をこの『Mariya's Songbook』でも堪能できる。アルバムを通して聴くと1曲目の「ファースト・デイト」から6曲目の「気まぐれ」までがレコードでいうA面、7曲目の「哀しい予感」からがB面といった捉え方も出き、ほぼリリース順、時系列に沿って楽曲が収録されているわけだが、デビューから携わる竹内まりやが岡田有希子さんへの、シンガーとしての成長と、彼女の声や表現の新たな魅力に気づいていたのかもしれない。

 特に「哀しい予感」や「ペナルティ」のようなマイナー調の楽曲で見せる、初恋の切なさと憂いが入り混じった歌の表現力からは、彼女が楽曲の世界観をしっかりと理解し、レコーディングに臨んでいる姿が思い浮かぶ。10代という多感な時期だからこその“マジック”も相まって、ドキッとするような歌――。

 8曲目に収録された「恋人たちのカレンダー」では、鼻濁音の表現に注目すると、楽曲のメロディの滑らかさを壊さない、甘い歌い方といった、表現の振り幅を見せているのにも注目したい。

 アイドルというよりも、アーティスト、シンガーの一面を映し出した作品。それは、アレンジを松任谷正隆などが手掛けていたことや、そして、当時のアナログ機材による、今のデジタル機材とはまた一味違ったサウンドが耳を優しく包み込んでくれる。アナログならではの倍音豊かなサウンドは、彼女を知らない世代にも体感して欲しい1枚。

 アルバムを通して聴いていると、彼女の女性としての成長も垣間見えるよう。「哀しい予感」以降は少女から大人の女性へ変化していくような、少し背伸びをした歌を聴かせてくれる。もし生きていたら、未来にはどんな歌を聞かせてくれていたのだろうか――。それは叶わぬことだが、この『Mariya's Songbook』は、岡田有希子さんの過去はもちろん、シンガーとしての未来さえも垣間見せてくれたような1枚だった。【文=村上順一】

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