岡田有希子さんは閃きの人、当時のディレクターが語る天賦の才
INTERVIEW

岡田有希子さんは閃きの人、当時のディレクターが語る天賦の才


記者:村上順一

撮影:

掲載:19年10月16日

読了時間:約12分

有希子ちゃんのことを大事に思っています

國吉美織氏

――当時、岡田さんのレコードはすごく売れたと思うのですが、ディレクターという立場からみるといかがでしたか。

 正直、もっと売れても良いなと思っていました。こんなに良い歌があるんだということを、もっと皆さんに知ってもらいたいという思いがありました。やっぱりアレンジャーもミュージシャンもエンジニアも超一流の方々で、アレンジャーの松任谷正隆さんやかしぶち哲郎さんは、アーティストと呼ばれる方たちとしかやっていなかった人たちなんです。その曲を有希子ちゃんが、しっかり自分のものにして歌えていたと思うんです。普通の17歳、18歳の女の子では無理な要求だったと思っています。でも、彼女はそれを難なくこなしていました。

――松任谷さんやかしぶちさんがアイドルの制作に携わるのは異例だったんですね。

 そうなんです。有希子ちゃんもそういう方たちの編曲に触れることができたというのは、彼女にとっても貴重な経験だったと思いますし、リスナーさんの間口も広がって沢山の人に聴いてもらえれるきっかけの音楽が出来たと思います。松任谷さんも一生懸命に作って下さっていたのが、スタッフとしてはすごく嬉しかったんです。

――松任谷さんも歌のレコーディングには立ち会われたのでしょうか。

 それが有三さんのこだわりで作曲家以外の人は立ち会わせなかったんです。おそらく船頭が多くなると、纏めるのが大変だからだと思います。有三さんには有三さんのイメージがあったと思うので。

――レコーディングなのですが、1日に何曲も録ることもあるんですか。

 あります。過密スケジュールだったので、1日どころか3時間で何曲も録ることもありました。それはこちらから見ていてもかわいそうでしたね…。そんな中、レコーディング当日まで歌詞が上がってこないなど、肝を冷やしたことも何度もありました。作詞家の方もプレッシャーから雲隠れしてしまう方もいましたから…。それで事務所の方に何とか探しだしてもらって電話で歌詞を聞いて、楽譜に書き込んでいったりとかもありました。もちろんまりやさんはそういうことはなかったですよ。

――まりやさんと岡田さんとのやりとりで印象的だったことはありましたか。

 有希子ちゃんチームは良い雰囲気で仕事をしていたと思うんです。チームの相性がすごく良かったので、和やかにレコーディングが出来ていました。そこにまりやさんが入って、私達も緊張すると思ったんですけど、その和やかな雰囲気にまりやさんは自然と入ってきて、いつものように楽しくレコーディングが出来たというのは印象的でした。

――まりやさんもチームの空気感を読んでいたんですね。さて、岡田さんの歌や音楽に対しての愛を感じる瞬間はありましたか。

 あります。その曲を把握しているか、していないかは、歌を聴けばこちらはよくわかるんです。それが、曲をよく聴き込んで、歌ってきてくれたんだなというのがわかったので、自分のものにしっかりしてきているというのが伝わってきました。楽譜通りに歌うのではなくて、ある程度自分の中でこういう風に歌いたいとか、イメージが固まってからレコーディングに臨んでいるので、歌詞や楽譜は確認程度に見るぐらいでしたから。

――そうだったんですね。仕事ではありますけど、本当に歌や音楽が好きじゃないと難しいですよね。

 仮歌があるのでそれに近いニュアンスではあるのですが、まりやさんの歌ではこう歌う、かしぶちさんの曲ではこう歌うと、しっかり違いを理解して歌っていましたから。途中から私も仮歌を歌って有希子ちゃんに渡していた時がありました。最初は仮歌を入れてくれる歌手の方に頼んでいたのですが、私達が歌ってほしいイメージをその方に伝えるよりも、有三さんが私が仮歌を歌った方がいいんじゃないかと提案して下さって。私がこうした方が良いなというニュアンスを、彼女は受け止めてくれているんですけど、そっくりには歌ってはこないんです。ちゃんと自分の歌にしてくるので、そこは感心したところでした。

――岡田さんの方から國吉さんに歌について相談されたことはありましたか。

 部分的にはあったと思うんですけど、ほとんどなかったです。彼女は鼻濁音にこだわりをみせている時もありました。あと、音楽に表拍と裏拍というのがあって、意外と理解できていない人も多いんですけど、彼女は教えなくてもわかっていたんです。それによって言葉も入ってきますし、聴きやすい歌になっていると思います。

――やはり色んな音楽を岡田さんは聴いていたのでしょうか。

國吉美織氏

 どうなんでしょうかね? 私から色んな音楽を聴くことを勧めたことはなかったですし、有三さんも色んな音楽を聴いたほうが良いとは彼女に言っていなかったと思います。私としては自分から何かを生み出せる人は、そんなに情報を必要としないと思っています。生み出せない方は、生み出すきっかけとして情報を入れた方が良いとは思うんですけど。

――岡田さんは自分から生み出せるから勧める必要もなかったんですね。

 そうですね。閃きの人だったんじゃないかなと思います。作られた人ではなくて、私達がたまたまダイヤモンドの原石に出会って、みんなで磨きましょうと、一生懸命磨いて、それが結果光ったという感じなんです。

――最後に今作をリリースするにあたって、岡田さんにメッセージを送るとしたら、國吉さんは何と岡田さんに伝えたいですか。

 私達は今でも有希子ちゃんのことを大事に思っています、ということを伝えたいです。もうこれに尽きます。このアルバム『Mariya's Songbook』をリリースすることは、応援してくれていたファンのみなさん、私達にとっても、音楽業界にとってもすごくプラスになるアルバムだと思っています。今とは音楽の作り方も違いますし、チームで作っている良さ、人間が関わっている大きさを感じていただけると思います。これからも残っていく作品だと思いますので、沢山の方に聴いていただきたいと思います。

(おわり)

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