岡田有希子さんは閃きの人、当時のディレクターが語る天賦の才
INTERVIEW

岡田有希子さんは閃きの人、当時のディレクターが語る天賦の才


記者:村上順一

撮影:

掲載:19年10月16日

読了時間:約12分

 1986年4月に他界した岡田有希子さん。10月16日に竹内まりやが携わった曲のみで構成されたコンピレーション・アルバム『Mariya's Songbook』をリリース。アルバムには「ファースト・デイト」「-Dreaming Girl- 恋、はじめまして」など全11曲を収録した。

 今回MusicVoiceでは、当時担当ディレクターを務めた元ポニーキャニオンの國吉美織氏にインタビューをおこなった。過去には堀ちえみ、尾崎亜美、田原俊彦などのディレクションも担当した国吉氏。岡田有希子さんは楽曲を掴む感覚、感性の鋭さが光ったというレコーディングなど、制作チームから見た彼女の魅力に迫った。【取材・撮影=村上順一】

まりやさんと有希子ちゃんが近いセンスを持っていて、それがすごく出ている作品

國吉美織氏

――こういった企画のアルバムがリリースされると知った時、國吉さんはどのような想いが生まれましたか。

 制作側としてはオリジナルアルバムに色んな思い出が詰まっているので、他の方が組み替えたベスト盤というのは、実はあまり好きではないんです。でも、今作は聴かせていただいて、とても良いなと感じました。なにより音が心地良いですし、最後まで聴いて、またもう一度聴きたくなってしまうアルバムになっているなと感じました。それは現代のデジタルの音楽ではなくて、人間が作る人間の良さがすごく出ています。まりやさんと有希子ちゃんが近いセンスを持っていて、それがすごく出ている作品なのかなと思いました。

――その竹内まりやさんと制作するまでの背景はどんな感じだったのでしょうか。

 そこの記憶がけっこうあやふやで、どういった流れだったのかは覚えていないんです。でも、以前リリースされたベスト盤のライナーノーツに、音楽プロデューサーの渡辺有三さんが、まりやさんにお手紙を書いて頼んだとご本人が仰っていたので、私も「そうだったんだ」とその時知りました。有三さんはまりやさんが大好きでしたし、楽曲制作をお願いすることへの閃きに自信があることは、私にも伝わってきていました。

――デモの仮歌はまりやさんが歌っているんですか。

 そうです。有希子ちゃんがそれを聴いて歌います。まりやさんはレコーディングにも立ち会って下さいました。それは、有三さんの強いリクエストでもあったんです。その時にまりやさんにコーラスもお願いしたり。まりやさんのコーラスが入っている曲「ファースト・デイト」「憧れ」「ロンサム・シーズン」が最初にいただいた曲になります。

――3曲同時に来たんですね。これだけの曲が揃うと曲順も難しそうですね。

 まりやさんの曲は一つひとつが完成度がとても高いので、全曲がシングル並みなんです。ですが曲順はどんな順番でも行けそうな気が私はしています。

――どの曲も思い入れは強いと思うのですが、今作で國吉さんが特に思い入れが強い曲はありますか。

 もちろん全曲なんですけど、「リトルプリンセス」は初めて聴いたときから、有希子ちゃんにピッタリだなと思いました。それは周りのスタッフも同じ意見でした。それもあって2枚目のシングルはこの曲にしようとなりました。

 あと私は「-Dreaming Girl- 恋、はじめまして」という曲が好きなんですけど、それは詞と曲の相性の良さと言いますか、聴いた瞬間にパッと世界観が見えるような、まりやさんらしさが出ているお気に入りです。「憧れ」はアイドルの曲としてはマイナー調で珍しい感じで印象に残っています。

――「哀しい予感」もアイドルのシングルA面としてはチャレンジだったんじゃないかなと思いました。

 確かにそうですね。おそらくアイドルらしい曲ではなくても、彼女の良さが伝わると思ったからなんじゃないかなと思います。

――今作はアナログのような滑らかさが合う音楽だと思うんです。

 2015年にハイレゾでリリースすることになって、マスタリングに立ち合わせていただきました。今回の音源もその時のマスタリング音源を使用しているので、アナログに近い音になっていると思います。やっぱりドンシャリでパリパリの音の方が立派に聞こえるんですけど、でもそれが良いかと言ったら、音楽的にはどうなのかなと私は思っていて。中音域が豊かで艶やかな歌声が聴こえて来るような音にしました。

――もちろん今とは違うんですけど、実際すごく音が良いなと感じました。これが30年も前に録音されたものだとは思えないなと。

 そうなんです。アナログの良い卓(ミキサー)で機材もすごく良かったんです。その時の空気感すらも閉じ込めてしまえるような機材が多かったんです。エンジニアの方もオタクと言いますか、この子だったらどういう音で録りたいかをすごく追求していたように思います。私たちも試行錯誤しながら作っていたんですけど、実力以上に相性というのがある気がしていて、アレンジャーやエンジニアも相性を考えて頼んでいたと思います。 

――まりやさんは立ち会われている時、岡田さんのどういうところを見ていたと思いますか。

 彼女に対して指導するということはなかったんです。有希子ちゃんは基本的にピッチも良かったですし、曲の感覚を掴むのがすごく早かったんです。まりやさんの仮歌を聴いて、こうやって歌えば良いんだというのを理解していました。

――岡田さんは天才型?

 天才型だと思います。もともと感性が良かったんです。私も最初は彼女は優等生で頭を使ってすごく考える子なのかな、と構えてしまっていたんですけど、実際はそういう感じではなかったんです。

――感覚を掴むのが早いということはレコーディングもスムーズなんですね。

 スムーズでした。それはチームの願いでもあって、OKテイクは音程が良いものにしようというよりも、良い音楽を作ろうという気持ちが大きかったんです。部分的にレコーディングしていく手法もあるのですが、彼女はそれをしないで一曲頭から最後まで録るんです。一つの音楽というものをすごく大事にして制作していました。

――当時はピッチ修正もなかったと思うので、すごいです。

 セレクターでどのテイクを使うかというのはありましたけど、ピッチ修正はなくて、何もいじっていない彼女の声なんです。

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