ANARCHY「ものづくりの呪縛」にかかった初監督作、伝えたかったメッセージ
INTERVIEW

ANARCHY「ものづくりの呪縛」にかかった初監督作、伝えたかったメッセージ


記者:木村武雄

撮影:

掲載:19年10月10日

読了時間:約10分

ものづくりの呪縛

――ラッパーは「自分とは何か」「なぜこうなっているんだ」ということを突き詰めていくところがあって、哲学者のような感じもしますね。

 僕がどうかは分からないけど、物事を突き詰めるというところが哲学者に似ていると言われたらそうなのかもしれないですね。それと代弁者なところもあると思うんです。初めは自分のために歌っていたものが、途中からみんなの気持ちまでも乗せて歌う。それがプロのラッパーだと思います。

――ANARCHYさん自身も変わった瞬間があったんですよね?

 ありました。今も自分の事を歌ってはいますけどね、例えば<団地で育って、こんな貧乏な所で育って、でも俺は這い上がっていく>ということを歌ってきた。でもいまは、弱くて本当に苦しんでいる人たちのことも歌いたい。ラッパーって選挙活動みたいなところもあると思っていて、いろんな街に行って、お前らのことを歌っている、それに賛同してくれるヤツがいる。みんなが言いたくても言えないことを言えるのがラッパーとしてのもう一つの役割だと思います。

――ANARCHYさんはラップで思いを伝えてきて、そして今回は映画に挑戦されて。オフィシャルインタビューでは「映画ではないと表現できないところもある」とは語っていましたが、なぜここにきて映画だったのか。

 ヒップホップは今でこそ一般的にも聴かれるようになりましたが、やっぱりラップって、ラップ好き、ヒップホップ好きしか聴かないところもある。だから色んな人に伝えたいという思いもありました。特にラップのことを知ってほしくて、ラップにこだわって作ったわけじゃなくて、僕の武器がたまたまヒップホップだったから、今回はラッパーを目指す主人公を描いた。何かをやりたい人や、夢ができた人が一歩踏み出すものを作るのに、ラップでもできたかもしれないけど、より表現することができるのは映画だと思ったんです。

――音楽、特にMVはどんどん映画寄りになっていて、その垣根がなくなってきていると思います。

 そうかもしれないですね。ただ、MVではなく音楽だけで考えたら、それは違うものだと思います。音楽は想像するものだと僕は思っていて、それは目に見えないから。だからこの言葉の意味はなんだろうと深く考える。それは映画ももちろんできると思うけど、映画の場合は表情や空気、場所の絵がはっきりと見えて、それが目に見えて分かる。聴いて想像するのと、観て考えるのはまた別物だと思いますね。

――初監督作品がこうして出来上がって、どういうお気持ちですか?

 率直に嬉しいですね。それと、まだまだやっていきたいという思いが芽生えました。アーティストはゴールがないと思うんです。作品に対しても100点がない。キャストのためにも100点と言うけれど、自分自身には100点は付けられない。それは音楽も一緒。だからその先を目指せる。100点ができたときはモノづくりをやめると思います(笑)。小学生の時の心と一緒で100点が取りたいから頑張る、取れるまで頑張る。映画をまた作りたいし、音楽でも100点を取ったことがないから作り続けたい。

――理想はありますか?

 正直、何をもって100点なのかは自分でも分からない。そこが面白いとところで、未完成の完成だと思うんですよ。これ以上はない、けれど未完成を埋めるためにその先も頑張る。今までのアルバムもそう。もしかしたら100点と思えるものが完成したとき、創作意欲がなくなってしまうかもしれない。またはもう一度100点を取ってみたいと思うかもしれない。でも(本作のプロデューサー)高橋ツトムさん(※高ははしごだか)が言ったけど「ものづくりの呪い」、それにはとり憑かれています。アルバムを作っているときに次のアルバムの構想というのが浮かぶし、「もっと次はこうしたい」というのは常に出てくる。それがものづくりの人たちの呪い。

――さて、プライベートでも仲が良い野村周平さんはどうでしたか?

 撮影前、普段から遊んでいる友達という感覚がありました。もちろん映画やドラマなどの仕事の部分は映像を通しては見ているけど、そういう部分の奥深いところは知らなかった。でも実際に現場で観ると、僕らがステージに上がるのと一緒で、カメラが回った瞬間にアトムになる。その姿にゾクっとするものがありました。すごいなって。もちろん、アトムの妹を演じてくれた優希美青ちゃんもそうでした。全ての俳優が、カメラが回った瞬間に役になる。俺はステージに上がってもANARCHYにしかいられない。しかもアトムというしゃべることが少ないなか表情で表現していくというのはなかなかできることではない。俳優さんへの尊敬の念が生まれました。その一方で、ラッパーと俳優は似ているなという気もしました。それが何かは言えないけど、感覚的に。だから気が合う俳優さんが多い。

――今回は主題歌「WALKING MAN」や劇中歌「Promise」も書き下ろしました。「Promise」はアトム一人のために書いたということでは初めてになりますが、どう思いましたか?

 率直に僕も書けるんだなって思いました(笑)。今回は完全オリジナル作品で、梶原阿貴さんが脚本を作って、それをもとに、アトムという男はどういう人物なのかを分かったうえで書いていきました。だから苦労せず、アトムの気持ちで書くことができました。

――最後にメッセージを。

 僕らが込めたメッセージを映画から感じてほしいですね。

(おわり)

ANARCHY

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アルバム情報

『WALKING MAN THE ALBUM』
2019年10月9日(水)発売
アーティスト: V.A.
形態: CD/ダウンロード/ストリーミング
レーベル: 1%
商品番号: 1PCT-1005

WALKING MAN

商品詳細 
日本を代表する人気ラッパーANARCHYが初監督で挑む10月11日(金)ロードショーの完全オリジナル映画『WALKING MAN』を記念して制作されたコンピレーション・アルバム。映画の主題歌 ANARCHY「WALKING MAN」 (Prod. Ava1anche) をはじめ、映画にも登場するWILYWNKAは仙人掌とタッグを組んだ新曲「U&ME」、YENTOWNからDJ U-LEEプロデュースによるMONYPETZJNKMNの新曲「Yeah We Do」、LEON FANOURAKIS、BANK SOMSARRTによる新曲「アドレナリン」を収録。また、このアルバムのために企画されたコンテスト受賞者6名 (Kvi Baba、CREATURES、ESSENCIAL、RICK NOVA、RINOH、AMAYA)の楽曲を含む全10曲を収録。

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