ANARCHY「ものづくりの呪縛」にかかった初監督作、伝えたかったメッセージ
INTERVIEW

ANARCHY「ものづくりの呪縛」にかかった初監督作、伝えたかったメッセージ


記者:木村武雄

撮影:

掲載:19年10月10日

読了時間:約10分

 人気ラッパーのANARCHYが映画『WALKING MAN』(10月11日公開)で初めて映画監督に挑戦した。極貧生活のなかでもがき苦しむ青年が、ヒップホップとの出会いよって希望を取り戻してく物語。主人公・佐巻アトムを演じるのはプライベートでも仲が良い野村周平。撮影現場での野村の姿を見て「俳優への尊敬が生まれた」と語っている。「ヒップホップを伝えるため」ではなく「一歩を踏み出す勇気になれたら」という思いで映画を作った。ANARCHYがこの作品に託したものとは何か。【取材・撮影=木村武雄】

一歩を踏み出す勇気に

――映画初監督作品となります。音楽と違って映画のインタビューはまた異なりますか?

 とても新鮮です!(笑) 音楽は伝えたいことを曲に込めているので、本当は説明したくなくて(笑)。でも映画は、込めた思いを分かってもらいたいし、観てもらいたいから説明したいですね。

――では、本作のテーマは何でしょうか?

 ラップが主題にあるけど、夢を見つけた子が一歩を踏み出せるようなものにしたいというのがありました。自分が何者かになりたいとか、夢がない子たちとか、そもそも夢が何なのかが分からない子たちとか。夢もいろいろあって大小さまざま。でもそのなかで夢ややりたいことを見つけた子たちが一歩を踏み出せるような映画にしたいと思いました。主人公は口下手でコミュ障というコンプレックスがある。でも、うまく喋れなくても、言いたいことがあれば伝えるべきだと思う。彼の場合はその手段としてラップがあった。

 ちゃんと口で言わないと伝わらないことはいっぱいあって、俺は、人の心の中までは読めないと思っているんです。それは家族でも嫁でも子供でもそう。もちろん表情などで察することはできるけど、それも完璧ではない。この映画は、ちゃんと口にして伝えることが肝になっています。だから主人公のあまりしゃべれないというのは大事なポイント。その子は、言いたいことが溜まって、それをヒップホップというフィルターを通して伝える。ただ、今回たまたまラップだっただけで、何にでも置き換えられる話だと思います。

――人の中には、主人公のラップのように、うまく話せないことを文で補った方もいらっしゃるかと思います。

 僕は、コンプレックスは最大の武器になると思っているんですよ。その逆境を跳ねのける力が大事で、自分がやりたいこと、言いたいこと、伝えたいこと、その気持ちが強ければ乗り越えられる、そのエネルギーこそが武器になると思う。僕の場合も片親で決して裕福な家庭ではなかったけど、それを歌ってきて。主人公のアトムに対しても同じことを考えていて、「しゃべれない」ということは人よりも感受性や観察力が優れていることもある。その逆手にとって強みにすることが大事。例えば、サッカー選手になりたい子がいて、蹴るのが下手でも誰よりも走るのが速かったら、なれるかもしれない。マイナスをプラスに変えることは誰でもできることだと思う。

 しゃべるのが下手だけどラップはできるのかな…と不安にならないで、いろんなことを感じて、一歩を踏み出してほしいと思います。自分が好きと思ったことを楽しんでやってほしいし、「ありがとう」「ごめんなさい」「愛している」などをちゃんと伝えるというのは、子どもにも、大人にも大事なことだと思います。でもそれは難しい。だから僕はラップを通して伝えているのかもしれないですね。

――アトムは、たまたま手にしたカセットテープでラップに目覚めたわけですが、誰にでも平等に機会は得られるものですか?

 機会は平等にあると思います。ただ、一歩踏み出す勇気は必要だと思います。夢を見つけるのは難しいし、見つけたとしてもそれを大事にするのは簡単でも、行動も含めて一歩踏み出すのは難しい。劇中にあるフリースタイルのバトルのシーンで言うと、下にいる人(観客)も本当はステージに上がってみたい、歌ってみたいと思っているはず。でもそれができない。それが一歩踏み出す勇気。そのアトムだって、ステージに上がったけど何もできなかった。そんな自分を悔しく思った。それって経験じゃないですか。それで次は言いたいことを絶対言いたいと練習する。そうやって一歩一歩進んでいく。それを映画のタイトル「WALKING MAN」にも表しました。

 そうしたことを考えても誰にでもチャンスはあると思います。その一歩を踏み出せないのは自信がないからだと思う。でも「できる」「できない」、夢が「叶う」「叶わない」ではなくて、「やってみたい」と思うことを「やってみるか」どうかだと思います。「俳優をやってみたい」「サッカー選手になりたい」などそう思う人に一歩踏み出せる映画になっていると思います。そういう風にとらえてほしい。

 それを伝えたいと思ったから、ヒップホップにイメージ付いている、性やバイオレンスは描きたくなかった。普通の男の子が言葉を発せられるようになる、だからラストで自分の妹にも素直に言えるようになったり、フリースタイルでステージの上で思いをぶつけられる、そういう子になっていく様(さま)がこの映画の大事なところだと思いました。

――もちろん言葉は大事ですが、それを生み出す「思い」というのも重要だということですね。

 そうです。ヒップホップはその人のバックボーンがすごく大事。その人が歌うから響く。薄っぺらい人に正しいことを言われても納得はいかない。経験したり、本当にそう思った人の言葉って響くと思う。本当にかっこいいラッパーというのはそういう人たちだと思います。

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