嘘っぽいものはバレると思う――、寛一郎 リアルを追求した初アクション
INTERVIEW

嘘っぽいものはバレると思う――、寛一郎 リアルを追求した初アクション


記者:木村武雄

撮影:

掲載:19年10月04日

読了時間:約10分

制限とフリー、どちらが良くてどちらが悪い?

――でも、あの「息を切らせている」ところに竜の背景が見えた気がしました。多くの人と戦っているというのもあるかもしれませんが、忍びの里から離れた以降、まともに鍛錬もしてこなかったんだろうな、と。そこに竜の置かれている立場が見えると言いますか。

 そうかもしれないですね。僕も、竜はわりと苦労していないように感じましたし。忍びの里を抜けてから忍びの練習もしていないだろうし。でも「やるときはやる」、そういうメリハリのある人物にしたいと思いました。彼は、忍びをやめて絵描きになるんですけど、彼にとってはなりたかった職業ではないと思う。何者かになりたいけど、なれないから絵描きをやっている。そうした模索はあると思っていて。対する結木くんが演じた尚は過去に辛い思いがあって。竜にはそうした過去の覚悟、重みがない。ただ逆に、何の色もついていない状態だから何者でもなれる。そうした柔軟性があると思うんです。竜にそうしたものを僕は見ていました。

――そうした竜が薩摩藩の姫・静(山口まゆ)と出会う。出自が違うし、性格も違う。その姫との旅路のなかで竜は何を得たのでしょうか。

 静は、家柄はすごいけど、その分、行動範囲が狭められているから葛藤を持っている。対して竜はフリー。何をしてもいい。その違いはあって、どっちがいいのか言われてもどっちも難しい。本来は自由の方が面白はずですが、僕はある程度行動が制限されている方、葛藤がある上で何かを生きていく方が面白いと思うんです。竜は、お姫様だろうが何だろうが、そうした差別はない。そのなかで静の生きづらさを感じていて。だけど、2人とも何者でもない。特に竜は「何者かにならないといけない」という思いが強くて、そこにセリフはないですが、そうした思いは抱いていたはずなんです。

――今の時代も「自分とは何か」を分からない人が多いと思います。私自身もそうですが。

 僕もそうです。自分が何者なのか、それは簡単に見つかるものでもないと思います。ただ、あの時代で分かりやすいのは戦(いくさ)があったこと。僕らの時代はそうした状況にはありませんし、その事が分かりづらい環境にあると思うんです。今の時代は、自分を知ること、考えることは本当に難しいことだと思います。

――当時の文献を読むと庶民は意外と自由だったと記されているものもありますが、士農工商という身分制度があったので制限はされていたようです。対して今は職業選択も含めて自由がある。この作品では、自由と不自由の良いこと悪いことが映し出されているようにも感じます。

 そう言われて気づきました。確かにそれはありますね。この作品の舞台にもなっている幕末には、多くの英雄がいます。幕府側にも反幕府側にも。例えば新選組もそうでしたが、忍びも同じように歴史上のなかにいた。しかし、彼らは日の目を浴びない存在。光があるからこそ影がある、ではないですが、もしかしたら、彼らがいたからその人たちは成り立っていたかもしれないし、でもそのあたりの事実は分からない。今の時代にもそういう人たちがいるかもしれないし。

――面白いですね。それは忍びだけじゃなくて、庶民にも言えることで、そうした人たちも含めて時代が形成されていた。一人一人が時代を作っていた、ということも言えそうですね。

 そうですね。むしろこれからの時代は、一人が時代を作っていかないといけないと思います。でも……、そんな難しいことを考えて観てもらうよりも、アクションエンターテイメントとして楽しんでほしいです(笑)。もちろん、掘り下げていくとそうなりますし、そう考えてくださっているのは嬉しいですけど、アクションを観てほしい!(笑)

寛一郎

寛一郎

嘘っぽいものはバレてしまう

――失礼しました!(笑)ただ何度観ても楽しめる作品と言えそうですね。ところで、先ほど光と影という話がありましたが、寛一郎さんは表舞台に立ってはいますが、前に出るタイプ、下がっているタイプ?

 下がっている方ですね。僕はあまり前に出たくないタイプなので、下がってはいます。けど、前に出ないといけないのかなと思う時もあります。それは「目立ちたい」とか「売れたい」ということではなくて、彼らのように何かを変えるために。今の時代、良くない方向に動いていると思うんですよ。それは映画にしても日本の社会にしても。なかにはそれに向き合おうと戦っている人もいるかもしれないんですけど、それが形になっていないのはつらいですね。このままだと映画館がなくなってしまうと思うんです。音楽のレコードと一緒で、「昔あったよね」と。やっぱり映画が好きでこのお仕事をしているので、そうなったら寂しいですし、映画に貢献できたらと思います。

――そのためにはヒット作を作らないといけないし、役者なら芝居で魅了させないといけませんね。

 そうです。それとどう映画を作っていくかですよね。なかには「映画を観る人の水準が低い」と言っている人がいますけど、僕は全て「作り手のせい」だと思っているんです。

――ある俳優さんが言っていましたが、観客の目を肥えていると。少しの変化も見逃さない。騙せないとも。

 それに近いと思います。やっぱり嘘っぽいものってバレれると思うんですよ。作り手が世間に迎合しようとして作っている作品はいずれバレると思います。

――この作品ではアクションということになりますね。役者として見た場合、この作品は自身にとってプラスになりましたか?

 なりました! 「またアクションをやりたい」そう思える作品でした。時代劇もやりたいです。

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