sumikaがバンド初のミュージックビデオ集『Music Video Tree Vol.1&Vol.2』をリリースした。デビュー初期の作品から最新アルバム収録曲まで全17曲入りのDVD&Blu-rayの2枚組だ。sumikaのMVといえば、楽曲のサウンドや歌詞の世界を視覚でも楽しめるポップで手の込んだ演出が印象的だ。見ているだけでハッピーな気分になれるものだけでなく、物語性が高くリリカルな歌詞のイメージを増幅させるような映画的な演出も魅力のひとつ。今回は、MV集にも収録されている「Familia」「ふっかつのじゅもん」「sara」を例に挙げ、彼らのMVの魅力に改めて迫ろうと思う。【五十嵐文章】

「Familia」

 今年3月リリースのフルアルバム『Chime』のリードトラック。ひと際目を引くのは、そのミュージカル仕立ての演出だ。スウィングしたビッグバンド風のサウンドに合わせて、フォーマルな衣装に身を包んだメンバーがガーデンウエディングのようなシチュエーションの中演奏する姿を軸に、結婚式前のカップルの物語がコミカルに描かれる。花嫁が新郎に怒って脱走してしまい、メンバー4人が虫眼鏡を片手に登場する探偵映画のようなシーンも印象的だ。

 全体的な雰囲気としては今や結婚式ソングの定番としても知られる代表曲「Lovers」のMVにも近い印象だが、「Lovers」の姉妹作やアンサーソングともとれる楽曲のメッセージに沿った演出となっており、クライマックスになると「Lovers」以上に様々な“愛”“家族”のかたちが描かれるようになる。

 男女のささやかな愛を描いた「Lovers」よりももっと深い愛と誓いを描いた「Familia」の歌詞世界を見事に裏打ちする、ハッピーオーラが溢れるMVだ。

「ふっかつのじゅもん」

 今やライブでも定番のキラーチューンとなっている、sumikaの代表曲のひとつ。RPGをモチーフとした歌詞が印象的な楽曲のポップな雰囲気にぴったりの、ポップでインパクト満点の演出が特徴的だ。

 演奏するメンバーが曲のテンポに合わせて出現したり消えたりする不思議な演出が中毒性満点。他にもスローモーションや何回もカットを重ねた映像など、メンバーの演奏シーンをメインとしたシンプルな映像の中にこれでもかと盛り込まれたギミックにぐっと惹き込まれる。活き活きとしたパフォーマンスを見せるメンバーの、魅力的な表情の切り取り方も秀逸だ。

 楽曲の歌詞には、人生をモンスターだらけのRPGの世界観にたとえ、困難を共に乗り越えていく仲間(パーティ)として<光を差す方向には 賢者や/魔法使いや戦士やシーフ>というフレーズが登場する。大サビ前の片岡健太(Vo./Gt.)の挑戦的な眼差しと躍動感溢れるメンバー4人の姿を見ていると、歌詞に登場するパーティと彼らの姿が重なって見えてくるようだ。ロックとポップスの最前線で戦うsumikaの挑戦的な姿が遊び心と共に垣間見える、勇ましくもパンチの効いた軽やかなMVだ。

「sara」

 2016年リリースのアルバム『アンサーパレード』収録の疾走感漂うロックナンバー「sara」。失われゆく恋への悔恨が込められた切ない楽曲の世界観が凝縮されたMVは、楽曲ともどもリスナーの心を捉えて離さない。恋人を失った青年の想い出と現実が交錯する幻想的な世界観が、映画のようにリリカルな映像で紡がれる。

 手のひらやペットボトルの水、プールなど、様々な場所に恋人の姿がインサートされることによって、青年の心の葛藤や後悔が手に取るように感じられるのが印象的だ。MVの中で象徴的に用いられる謎めいた指先のサインは、ふたりにしかわからない秘密を暗黙のうちに表しているように見える。

 更に注目したいのが、“水”にまつわるモチーフの多用と画面全体を染める青系の色調だ。それは、<さらば青い心の少年よ/黒に染まる事すら愛おしい>という歌詞のワンフレーズと相まって、誰しもの心の奥にある郷愁や切なさを誘う。

 このMVを手掛けた監督は、「Familia」でもsumikaとタッグを組んだ映像作家の夏目現。狂おしさと相反する爽快感が美しく共存したsumikaの楽曲の世界を、見事に映像の世界に再現している。映像の最後にカメオ的に登場するメンバーの姿にも注目だ。

見落とす感情を拾い上げる曲

 愛するものと共にあるささやかな幸せや、人生の中で避けて通れない小さいけれど苦しい後悔など、普段の生活の中では見落としてしまいそうなささやかな感情が、sumikaの楽曲では優しい眼差しで細やかに描かれている。片岡が紡ぐ、言葉遊びや独特の比喩表現などの遊び心をふんだんに盛り込みながらも聴く者の心に寄り添う歌詞世界を、視覚的にも立体感をもって堪能できるのがsumikaのMVの魅力だ。

 MV集のタイトル『Music Video Tree Vol.1&Vol.2』は、“Family Tree(家系図)”から連想されたものだという。sumikaの想いが込められた映像作品が始祖から現在まで脈々と受け継がれていってほしいというメンバーの想いが込められたタイトル通り、楽曲に込められたメッセージをより深く知るためにも見逃せない作品となっているに違いない。

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