歌手・森口博子の根幹に迫る、バラドルの先に見続けた「歌うこと」
INTERVIEW

歌手・森口博子の根幹に迫る、バラドルの先に見続けた「歌うこと」


記者:木村武雄

撮影:森口博子

掲載:19年08月09日

読了時間:約17分

 森口博子が、自身のデビュー記念日でもある8月7日に、ガンダムソングのカバーアルバム『GUNDAM SONG COVERS』をリリースした。昨年、NHKで放送された「発表!全ガンダム大投票」でのガンダムソングベスト10の全楽曲が森口博子によるカバー&セルフカバーで収録されている。元祖バラドルとして一世を風靡した森口だが、もともと歌手を夢見て芸能界入りした。『機動戦士Zガンダム』後期オープニングテーマ「水の星へ愛をこめて」で歌手デビューを果たすもヒットに恵まれず、事務所からリストラ宣告。バラドルは芸能界を生き残るための転身だった。「この先には歌の仕事がある」と思い続け活動してきた彼女に転機が訪れたのは『機動戦士ガンダムF91』テーマソング「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」。この曲でNHK紅白歌合戦に初出場を果たし、歌手としての道が開けた。「歌うことで命を頂いている」と語る森口。この数十年間、歌うこと、そしてガンダムソングとどう向き合ってきたのか。歌手を決心させた恩師の言葉、そして意識が変わったプロデューサーの存在――。歌手・森口博子の根幹に迫る。【取材=木村陽仁/撮影=冨田味我】

【INDEX】
〇意識が変わったプロデューサーの一言「伝わらない」
〇歌手・森口博子の原点、恩師の言葉は今も胸に
〇井上大輔氏の歌声に涙、ゲスト演奏者が織りなす世界観
〇生涯現役! 歌うたびに「命を頂いている」
(約8300字)

意識が変わったプロデューサーの一言「伝わらない」

――森口さんの艶やかな歌声は変わらないですね。維持するために何かされているのでしょうか?

 ミュージカルを経験させて頂いてから、音域や表現力が広がりました。日常生活の焦点は歌うことに当っていて、職業病なのか朝起きたら「喉大丈夫かな?」と毎日思います。デビューをした頃は若さゆえか、朝起きたときの心配はありませんでしたが、歌い続けていくと忙しさが重なって酷使するじゃないですか? 声帯も疲れてくるし、良い日も悪い日もあるということを経験してくると、どれだけ体、声のコンディションが大事かということを痛感します。

――森口さんはもともと歌手になることを夢見て芸能界入りされましたが、デビューして以降、どう向き合ってきたのでしょうか?

 4歳の頃から歌手になりたかったから、色んなオーディション受けまくりで落ちまくりで。やっと最後に手を差し伸べてくれてデビューできたのがガンダム(『機動戦士Zガンダム』後期オープニングテーマ「水の星へ愛をこめて」)でしたので、凄く恵まれたスタートだったと思います。だけど、その後に事務所から「あの子は才能がないから福岡に帰したほうがいい」とリストラ宣告を受けて。ただ私としては何が何でも歌いたかったので、「帰さないでください! どんなジャンルの仕事でもしますから!」と泣きながらお願いして、それで頂いたのがバラエティのお仕事でした。

 当時は「この先には歌の仕事がある。歌のために頑張る」と思って全力で向き合ってきました。そうこうしていると『機動戦士ガンダムF91』のテーマソング(ETERNAL WIND〜ほほえみは光る風の中〜)に出会って、再びテーマソングを歌わせて頂く事に。その楽曲が始めてベスト10に入って、NHK紅白歌合戦や全国ツアーに繋がって。その時に「ここからが歌手としてのスタートだ」と思えました。「バラエティの森口博子」だと思っていた方々が、紅白歌合戦での私の歌を聴いて「鳥肌が立ちました」とか「すぐCDを買いに行きました」とか「涙がこぼれました」という声を寄せて下さって。そういうファンの方からの嬉しい反響は「歌う力」にもなりましたし、これで歌手としてみなさんに認めてもらえた、という思いがありました。

――それまでは歌手になって歌いたいという気持ちが強かったと思いますが、紅白歌合戦を境に歌うことへの意識が変わったのでしょうか?

 紅白歌合戦に出た頃は、バラエティなどでとにかく忙しかった時期でした。でもそんな中でも歌える喜びの方が大きくて。ところが、あるプロデューサーの方の言葉に衝撃を受けて。歌っているときにその方から「歌が伝わらない」と言われました。これって致命的ですよね。音楽が好きだから、どうしてもメロディを歌っちゃうというか。そこで、歌詞の内容や「伝える」ということに対して、全国ツアーをやりながらもう一度向き合ってみよう。それが90年代後半くらい。

 そのなかでアコースティックライブの話があって。ピアノやギター1本でやるとごまかしが効かないじゃないですか? だから歌うときはより一層、「ここはこういう気持ちだ」「ここはこの言葉を大切にしたいな」と思うようになって、それで「伝える力」がだんだんとついて。スタッフの人から「やっと歌が伝わるようになってきたね」と言われたときは、少し成長したのかなと実感しました。ですので、「ちゃんと伝える」ということですよね。それまでは歌える喜びの方が勝っていたというか。

――となると、それまで歌っていた曲の歌詞の印象が変わってきますよね?

 そうですね。そもそも「水の星へ愛をこめて」(機動戦士Ζガンダム・後期OPテーマ)は17歳の時で、「ETERNAL WIND」は23歳の時。単純に年齢で受け止め方が変わったというのはあります。ただ、「ETERNAL WIND」がリリースされた1991年は、湾岸戦争が起きた年でした。それまで私のなかで戦争というのは教科書の中の世界だと思っていました。戦争を知らない世代ですし。それが毎日、テレビで報道されて「こんな戦いが現在進行形であるんだ」と衝撃を受けて。そういう「平和」や「穏やかに暮らすことは当たり前ではないんだ」、「いまも戦争が起こっているんだ」ということを目の当たりにした時期に頂いたのがこの曲でした。「水の星へ愛をこめて」の時よりも平和という言葉に凄く深く向き合った時期です。

――時代背景も影響されているんですね。私の話ですが、当時『F91』は見ていなくて、何も情報がないなかでCDを買って聴いたときに凄く衝撃を受け、感動しました。

 嬉しい! 作品を知ったうえで聴いて感動するというのはあると思うんですけど、情報なくてそう感じてくれるのは嬉しいですね。

――歌声の美しさと、更に気持ちが乗った歌というパワーがあったのだなと思いました。

 きっと楽曲の持つ力が大きかったからだと思います。「ETERNAL WIND」はもともとカップリングだったんですが、レコーディングの時、一回歌っただけで「これ凄いな!」と思いました。その場にいたみなさんも「これ、カップリングという感じではないね…」と。富野監督も帰って色々考られたと思うんですけど、発売の間近になって「入れ変えよう」ということになって。「君を見つめて -The time I’m seeing you-」(『F91』のイメージソング)と入れ替えることになりました。この曲も力強くて良い楽曲なので、どちらも両A面で良いくらい!

森口博子

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