バイオリニストの石川綾子が7月20日、東京・サントリーホール ブルーローズで『石川綾子ジャンルレスクラシックシリーズ2019 おとなアニメクラシック』をおこなった。ミュージシャンにギタリスト・音楽監督として鳥山雄司、ピアニストに森丘ヒロキを招いて、アニメ曲を演奏するというもの。北斗の拳の「愛をとりもどせ」や、おそ松さんの「はなまるぴっぴはよいこだけ」など幅広いアニメソングをスペシャルアレンジで届けた。コンサートの模様を以下にレポートする。【取材=村上順一】

心を込めて全力で届けたい

石川綾子(撮影=片山拓)

 会場となったブルーローズは石川にとって日本で初めてクラシックコンサートをおこなった由縁の場所。木を各所に使用して、豊かな響きをもつホールで、天井に設置された数多くのシャンデリアも、ホールの雰囲気作りに一役買っている。ブルーローズは、革新的な花ということもあり、「新たな挑戦」という意味がこのホール名に込められているという。それもあって、今回のステージも石川の様々な挑戦があるのではないかと、期待が高まる。

 開演時刻になりゆっくりと明かりが落ちていく。白いドレスを身にまとった石川(Vn)、鳥山(Gt)、森丘(Pf)がステージに登場し、定位置にスタンバイ。しばしの静寂から森丘のピアノによるエドヴァルト・グリーグのピアノ協奏曲の旋律から「ゲゲゲの鬼太郎」に流れるという斬新なアレンジで幕は開けた。石川は独特なビブラートで、この曲の持つ妖艶さを再現。

 コンサートでは恒例となった「どこから来ましたか」という問いに、鹿児島からこのコンサートに参加したファンの姿も。たくさんの観客に向けて「心を込めて全力で届けたい」と意気込みを話し、石川は初挑戦となるメドレーで70年代のアニメ曲を披露することに。「銀河鉄道999 」から始まったメドレーは、“デビルズアヤコ”の愛称に掛けて演奏された「デビルマンのうた」や、イントロでの軽快なピチカート奏法が印象的だった「魔女っ子メグちゃん」など曲調も異なる4曲をなめらかに繋ぎ演奏。石川はこのメドレーを無事に完走出来たことに「2曲目でやりきった感があります」と、達成感を報告。

 名探偵コナンから秋を感じさせてくれる1曲「渡月橋 ~君 想ふ~」は、森丘の優しいピアノ音色に凛としたアコースティックギター、そこに儚さと切なさが入り混じった石川のバイオリンが、楽曲の持つ情景を鮮明に映し出していく。立て続けに杏里の「CAT'S EYE」へ。緊張感のあるイントロから、サビの躍動感は『キャッツアイ』のヒロインの3姉妹が走り抜けていくのが見えるようだった。

 石川のYouTubeチャンネルで500万超再生の人気曲でアニメ『東京喰種』から「UNRAVEL」を届けた。石川はこの曲から、孤独感による悲しみの叫びが聞こえると話し、それを体現するかのような迫真の演奏は、会場中が息を呑んだ。石川の表情も切なげで、その感情をバイオリンに落とし込んでいくよう。

 ヴィットーリオ・モンティの「チャルダッシュ」のフレーズをさり気なく盛り込んだ「タッチ」、1部のラストは『北斗の拳』の主題歌である「愛をとりもどせ」。イントロでの早いパッセージのシーケンスは、ケンシロウの拳による連打を想起させ、メロディパートは、石川の多彩な表現方法で、まさに歌っているかのような、ダイナミクス豊かな演奏で魅了した。

かけがえのない瞬間

石川綾子(撮影=片山拓)

 第2部は光沢のある深い青のドレスにチェンジした、石川と鳥山の2人がステージに登場。届けられたのは「ゆずれない願い」。鳥山の奏でるアルペジオの上を石川が優雅に泳ぐかのように、透明感のある音色でメロディを紡ぐ。「パッヘルベルのカノン」の旋律も取り入れ、見事なクラシックとの融合を見せてくれた。

 石川は今回の公演について「(今までの中で)ダントツで大変でした」と、3人で成り立つようにと練られた、鳥山のアレンジのすばらしさと難しさを明かす。アレンジを担当した鳥山も「昨日の夕方くらいまで弾ける気がしなかった」と、今回のコンサートの難易度の高さがこの言葉から伺えた。

 森丘も再び合流し、続いてはアニメ『マクロスF』から「ライオン」を披露。この曲のオリジナルはMay'nと中島愛によるデュエットということもあり、その違いをバイオリンでも音域やニュアンスを変え表現していたのが印象的。サビでは2人でのユニゾン感を力強く奏で、「創聖のアクエリオン」では美しいハイトーンに心奪われるよう。エンディングに向かうに連れ、昂揚感を煽るようなテンションは圧巻。

 石川は「音楽は贅沢でかけがえのないものだと、演奏しながら思いました。そのかけがえのない音で、その瞬間を温かく見守っていただける皆さんと味わうことができるなんてすごく幸せな気持ちでいっぱいです。これからも新しい挑戦も見守っていただけたら嬉しいです」と、意気込みとともに演奏しながら感じた気持ちを述べた。

 「A Whole New World」では、鳥山はガットギターにチェンジし、ナイロン弦特有の丸みを帯びたぬくもりのあるサウンドで景色を変える。その音色に合わせ伸びやかなバイオリンを響かせる石川。そして、鳥山は普段は掛けないメガネを装着し本気モードで挑んだ「はなまるぴっぴはよいこだけ」。タイトルをコールしただけで、歓声が上がるほどの石川のレパートリーの中でも人気がある一曲を熱演した。

弾けました!

『石川綾子ジャンルレスクラシックシリーズ』

 コンサートも後半へ。バイオリンの繊細な部分だけではなく猛々しさをも感じさせてくれた「宇宙戦艦ヤマト」は、楽曲の雰囲気に合わせ、石川の表情もキリッと勇猛さを感じさせてくれた。楽曲によって大きく意識を変えて臨んでいる、それが伝わってくる演奏。緊張感もあったのだろう、石川は演奏終了後「弾けました!」と安堵の表情を見せた。

 本編ラストは「Only my railgun」を披露。鳥山はガットギターでフラメンコを彷彿とさせるアグレッシブなストラムを見せ、森丘も熱いピアノワークでシナジーを作り出し、石川も息を呑むようなプレイで、楽曲のスリリングさを余すことなく伝えてくれた。鳥山のスパニッシュなギターソロもアクセントになり、この3人ならではのアレンジで楽しませた。

 ステージをあとにした3人に向けられた拍手は鳴り止まない。その拍手はアンコールを求める手拍子へと変化し、再び3人をステージへと呼び戻した。アンコールに応え、もう一曲「君の知らない物語」を届けた。石川は下手(しもて)、上手(かみて)と移動しながら演奏。訪れた観客への感謝と愛を込め奏でるそのバイオリンの音色は、この場所にいる人達の感情を揺さぶりかけるようだった。

 懐かしい曲から2010年代を代表する曲まで幅広いアニメソングをこの日ならではのスペシャルアレンジで届けてくれたコンサートは大団円を迎えた。インストではあるが、きっと観客は心の中で歌詞を口付さんでいたのではないだろうか。石川の表現力とワクワクさせてくれる鳥山のアレンジは贅沢なひと時を与えてくれた。

 10月1日と2日には『石川綾子ベストセレクションツアー』と題したコンサートが大阪と名古屋で再びこのメンバーで開催される。どんな曲をどのようなアレンジで聞かせてくれるのか。この3人のケミストリーに注目したい。
 

プログラム

第1部

01.ゲゲゲの鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)
02.銀河鉄道999~デビルマンのうた~魔女っ子メグちゃん~キューティーハニー
03.渡月橋 ~君 想ふ~(名探偵コナン)
04.CAT'S EYE(キャッツアイ)
05.UNRAVEL(東京喰種)
06.タッチ(タッチ)
07.愛をとりもどせ(北斗の拳)

第2部

01.ゆずれない願い(魔法騎士レイアース)
02.ライオン(マクロスF)
03.創聖のアクエリオン(宇宙戦艦ヤマト)
04.A Whole New World(アラジン)
05.はなまるぴっぴはよいこだけ(おそ松さん)
06.宇宙戦艦ヤマト(宇宙戦艦ヤマト)
07.Only my railgun(とある科学の超電磁砲)

ENCORE

EN1.君の知らない物語(化物語)

石川綾子(撮影=片山拓)

石川綾子(撮影=片山拓)

石川綾子(撮影=片山拓)

石川綾子(撮影=片山拓)

石川綾子(撮影=片山拓)

『石川綾子ジャンルレスクラシックシリーズ』(撮影=片山拓)

『石川綾子ジャンルレスクラシックシリーズ』(撮影=片山拓)

『石川綾子ジャンルレスクラシックシリーズ』(撮影=片山拓)

『石川綾子ジャンルレスクラシックシリーズ』(撮影=片山拓)

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