今年2月に結成10周年を迎えたパスピエが7月15日、Zepp Tokyoで全国ツアー『パスピエ TOUR 2019 “ more You more”』のファイナル公演をおこなった。ツアーは通算5枚目となるフルアルバム『more humor』(読み:モア・ ユーモア)を引っさげて6月12日の渋谷 WWW Xを皮切りに全国9カ所10公演をおこなうというもの。『more humor』からの楽曲を中心に「電波ジャック」や「とおりゃんせ」などダブルアンコール含め全25曲を熱演。進化の兆しを魅せたツアーファイナルの模様を以下にレポートする。【取材=村上順一】

新しいパスピエを見せたい

大胡田なつき

 結成10年目に突入したパスピエの新作を引っさげたツアーもこの日でラスト。多くのオーディエンスでフロアはびっしりだ。“新しいパスピエ”を見せるという進化をテーマにおこなってきた彼らの集大成を、きっとこのステージにぶつけてくれるはずだ。

 ポリリズムを使用したトリッキーなSEがこれから始まるライブへの高揚感を高めてくれる。そして、ステージに4人とレコーディングにも参加しているサポートメンバーの佐藤謙介(Dr)が登場。オープニングを飾ったのはニューアルバム『more humor』から「だ」。パスピエらしさがあふれた1曲で、一気にパスピエの持つ音の世界へ引きずり込んでしまう、強力なナンバーで幕は開けた。

 大胡田なつき(Vo)はこの日最初のMCで「生でパスピエの“ユーモア”を感じ取ってください」と投げかけ、意味深なタイトルでもある「BTB」へと流れ込む。バンドアンサンブルの妙を感じさせてくれた1曲だ。曲の途中で見せた大胡田の恍惚な表情が印象的だった。

成田ハネダ

 露崎義邦(Ba)がシンセと生ベースを使い分け、楽曲をカラフルに彩った「(dis)communication」は、感情の起伏を表現しているかのような楽曲構成に酔いしれ、オーディエンスは音を浴びるかのように聞き入っていた。成田ハネダ(Key)によるピアノの叙情的な旋律が美しく響き渡った「ユモレスク」、そして、フロアから多くの手が振り上げられ大きな盛り上がりを見せた「スーパーカー」、最高にアバンギャルドでスリリングな1曲「グラフィティー」は、イントロでの成田による中毒性のあるリフがインパクトを与えた。

 オーディエンスもクラップで一体感を演出した「電波ジャック」から、三澤勝洸(Gt)によるディレイを使用したスペーシーなギターフレーズとオリエンタルな雰囲気が印象的な「とおりゃんせ」と、パスピエの真骨頂ともいえる選曲で会場を沸かせた。

 続いてアルバム『more humor』のリード曲の「ONE」は、音源ではシンセベースを使用していた露崎は、生ベースでテクニカルなフレーズで曲の新たな一面を演出。三澤はアコースティックギターでエレキギターとはまた違った乾いたサウンドで彩る。

 大胡田はここまでのステージに「楽しいんだが!」と歓喜の声を上げると、「今日は私たちにとって良い日になると良いな」と願いを込めて、「resonance」で中盤戦に突入。幻想的なイントロから佐藤のタイトなドラム、その上に乗る浮遊感のあるウワモノという一見アンバランスなアレンジも、パスピエらしさを感じさせてくれた1曲だった。

 「トーキョーシティ・アンダーグラウンド」では、青を基調としたライティングが聡明な空間を作り、間奏で強烈なライトの瞬きに比例するかのように勢いを増していくサウンドに包み込まれる。

見たことのないパスピエを見せる

三澤勝洸

 しばしの静寂から放たれたのは「煙」。バンドが出すグルーヴの上を泳ぐように歌い上げる大胡田の歌声。そこに印象的に響く露崎の歪んだベースサウンドと、個性的なアンサンブルで会場を席巻。空気を一気に変えたミディアムナンバー「waltz」は、語りかけるかのように歌う大胡田の声にじっくりと耳を傾けながら、心地よい揺らぎを感じさせるサウンドに身を委ね、夢の中にいざなうような空間を作り上げた。

 ライブは「つくり囃子」で後半戦へと流れ込む。大胡田の「東京~!」の声はすべてを吹き飛ばすかのようなエナジーを感じさせた。サビに突入するとオーディエンスの無数の腕が掲げられ、リズムに合わせ左右に美しいアーチを描く、美しい光景が広がっていた。

 体を揺らすダンスチューン「△」から、キャッチーなメロディに躍動感あふれるサウンドが魅力的なナンバー「R138 」。サビの歌詞<138>に合わせ、手を使ったジェスチャーで、この曲ならではの一体感を会場全体で演出。大胡田は「もうちょっと踊ろうか」と投げかけ始まった「オレンジ」はミラーボールが光を反射させ昂揚する空間へ。成田の駆け上がっていくシンセのフレーズは、会場の盛り上がりとのシナジーを感じさせた熱いソロ。

露崎義邦

 ここで大胡田は「(みんなのことを)特別な関係だと思っているから、帰ってからも今日のことを思い出して」と、ツアーがこれで終了してしまうことへの気持ちを語った。そして、一生懸命制作したアルバムを聴いて、ここに来てくれたオーディエンスへ感謝を告げ、名残惜しさ空気を感じさせる中、言いたいことをすべてこの曲に詰め込んだという「始まりはいつも」。大胡田はエンディングで「いつまでも繋がっていてくれ〜!!」と叫ぶその姿からは、オーディエンスとの絆を感じさせた。

 アンコールに応え再びステージにメンバーが登場。成田は「新しいパスピエをみせたい」とこのライブのテーマを話し、さらに「見たことのないパスピエを見せる」と2020年2月16日に昭和女子大学人見記念講堂で『十周年特別記念公演 “EYE"』を開催することを発表。三澤は「10年間バンドをやっていて良かった、まだまだこれから」と、この10年の自信のようなものが言葉から伝わってきた。

 アンコールには大胡田のハイトーンボイスがテンションを上げてくれる「トキノワ」、そして、大胡田は「本当に最後、ありがとうございました…」と、少し切ない声。ステージ上がまばゆい光に包まれる中、鮮烈な音と歌を届けた「恐るべき真実」と、壮大でドラマチックなナンバーでフィナーレへと向かっていく。

パスピエ

 客出しのBGMも流れ、これで幕を降ろしたかと思ったライブ。オーディエンスは再び手拍子をおこないメンバーをステージに呼び戻した。ダブルアンコールに応え、大胡田は「最後って言ったのに」と嬉しそうに話し、もう1曲「ギブとテイク」を投下し、大団円を迎えた。

 約2時間で25曲を詰め込んだライブだったが、あっという間に時が過ぎ去ってしまったという感覚。それは『more humor』が持つ、宇宙を感じさせてくれる楽曲たちがそうさせてくれたのかもしれない、と終わったあとに思った。輪廻転生の真っ最中、新たな進化を見せてくれるだろうパスピエの未来が楽しみになった。

セットリスト

『パスピエ TOUR 2019 “ more You more”』
7月15日@Zepp Tokyo

01.だ
02.術中ハック
03.音の鳴る方へ
04.BTB
05.(dis)communication
06.ユモレスク
07.スーパーカー
08.グラフィティー
09.電波ジャック
10.とおりゃんせ
11.ONE
12.resonance
13.トーキョーシティ・アンダーグラウンド
14.煙
15.くだらないことばかり
16.waltz
17.つくり囃子
18.△
19.R138
20.ハイパーリアリスト
21.オレンジ
22.始まりはいつも

ENCORE

EN1.トキノワ
EN2.恐るべき真実

WENCORE

WEN.ギブとテイク

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