今年2月より東名阪ツアー『PSPE TOUR 2022 ニュウ!』を開催していたパスピエ。メンバーの体調不良により延期されていた東京公演が2ヵ月ぶりにツアーファイナルとして開催され、2022年第一弾の新曲「もののけだもの」の発表と共に公演を締めくくった。

 アルバム『ニュイ』を引っ提げて開催されたツアー「PSPE TOUR 2022 ニュウ!」。成田ハネダの体調不良のため延期となっていたファイナル・東京公演が4月13日に、2ヶ月越しについに行われた。待ち望んでいたファンが開演前から期待感を昂らせるなか、成田、大胡田なつき、三澤勝洸、露崎義邦にサポートドラマーの佐藤謙介を加えたメンバーが登場し、いきなり分厚いグルーヴを奏で始める。ライブの火蓋を切って落とすのは『ニュイ』のラストナンバー「PLAYER」だ。シンセのフレーズとタイトなリズムが折り重なり、ぐんぐんとテンションを高めていく。「ようこそ。楽しんで!」という大胡田の挨拶から、満場のハンズクラップとともに「グッド・バイ」へ。センチメンタルなメロディラインを歌い上げる大胡田も、そこにコーラスを重ねる成田も気持ちよさそうだ。

大胡田なつき(撮影=Nakaiso Yoshio)

 その後も推進力のあるビートとのびやかな大胡田のヴォーカルのコントラストが鮮やかな「うちあげ花火」、三澤のギター、露崎のベースがグイグイとリズムを牽引していく「雨燕」、そして手拍子が鳴り響くなか成田のキーボードリフから突入し、大胡田のアクションも冴え渡った「グラフィティー」と、初期曲からもちろん『ニュイ』の収録曲までを網羅しながらライブは進んでいく。久しぶりのライブのはずだが(だからこそ?)、バンドの演奏はぎゅっと引き締まっている。とくにアルバムのレコーディングも支えた佐藤のパワフルなドラムが効いている。緻密に構築されたアンサンブルと、そこで生まれるエモーションがバチバチに拮抗して、言いようのない濃厚な空気が生まれていく。「グラフィティー」の曲中では成田がいきなりソロを止めて「みなさん、本当にお待たせしました!」と言うと、拍手で応えるオーディエンスも巻き込んでさらに空気は熱くなっていく。

成田ハネダ(撮影=Nakaiso Yoshio)

 「BTB」まで6曲を終えて、この日最初のMCパート。成田が「今日もお客さん、めっちゃいい感じです!」とフロアを讃えると大きな拍手が巻き起こる。「最近、春とか秋があんまりない」という成田に、大胡田が「本当そうなの」と応える。「日本って、四季があるぜ、いとおかしみたいな感じじゃない? 春とか秋がよくわからなくなってきちゃうのってちょっと寂しいですよね」。そんな会話からなぜか春の新番組の話になり…。「2ヶ月空くと、こうなるよね」(成田)という自由な会話が繰り広げられるなか、大胡田が「この日の朝食が髪の毛についてしまったので致し方なく髪を5cmほど切ってきた」という暗い話で応えると、「影たちぬ」からライブを再開させる。あれだけユルい話をしていても、いざ曲が始まれば一気にオーディエンスを引き込んでいくのはさすがだ。

三澤勝洸(撮影=Nakaiso Yoshio)

 「まだら」「Matinee」から、三澤の印象的なギターフレーズから『ニュイ』の「言わなきゃ」へ。そのギターが牽引するメロディアスでスケールの大きなサウンドのなかを自由に泳ぐような大胡田の歌声が瑞々しいムードを連れてくる。そこから一気にギアをチェンジして「開花宣言」へ。ピッタリと息の合った演奏で魅せると、再び空気を一変させて複雑なリズムパターンが刺激的な「はらりひらり」へ。何重にも展開していくプログレッシヴな楽曲を、フロアは息を呑むようにして味わっている。その次に来るのはメランコリックなメロウチューン「BLUE」。楽曲ごとにがらりと雰囲気を変えオーディエンスを煙に撒きながら、パスピエにしか生み出せないムードをさらに濃いものにしていく。

露崎義邦(撮影=Nakaiso Yoshio)

 「私、曲終わりに結構『ありがとう』って言うんだけど、あの『ありがとう』だけじゃ足りなくて。私はみんなと一緒にライブをしてるとき、どの瞬間も『ありがとう』って思っていて。それが私たちの力になっていると思うし、それが伝わっていたらいいなって。今ふと『BLUE』を歌いながら思いました。みんないつもありがとう」。そんな言葉でオーディエンスに思いを伝える大胡田。「BLUE」は『ニュイ』のテーマのひとつである「青」を象徴する曲で、そこには未来への微かな希望が込められている。「今年はみなさんに夜明けが来て、いい1年になればいいな」とアルバムに込めた願いを口にすると、フロアからは大きな拍手。「また曲も作ってるしね」と大胡田が成田に言葉をかけると、「今その話するんだったら、もう言っちゃえば? 出すんでしょ?」と何やら発表がありそうなことを言い始める。「発表の仕方が新しすぎますね」と露崎も思わずツッコむ想定外の展開に「詳しいことは後ほど。みんなアンコールしてくれると信じてるから」とはぐらかす大胡田。前のMCもそうだが、めちゃくちゃざっくばらんでカジュアルな雰囲気が、いかにもこのバンドらしい。

 そんなMCを経て、三澤のロックなギターが冴え渡る「見世物」から後半戦に突入すると、アルバムのオープニングナンバー「深海前夜」で夜明けの風景を描き出す。さらに佐藤の叩く力強いビートが手拍子を誘いながら「アンダスタンディング」と『ニュイ』の楽曲を畳み掛けると、「トロイメライ」「裏の裏」とパスピエ・クラシックを連打。フロアのお客さんも待ってましたとばかりに拳を突き上げ、手を叩き、終盤に向けてライブはますますヒートアップしていく。「あと2曲、一緒に踊っていって!」という大胡田の一言から、成田のシンセサイザーが映える「SYNTHESIZE」へ。洗練された大人のダンスミュージックという趣のポップチューンで、フロアは気持ちよく揺れる。そして本編最後の「ミュージック」へ。ファンキーなグルーヴがオーディエンスを巻き込み、「またね!」(大胡田)とメンバーはステージを降りていった。

パスピエ(撮影=Nakaiso Yoshio)

 さて、前述のMCでも「予告」されていたアンコール。このライブ終了後、4月14日0時から配信がスタートしたパスピエ2022年第一弾の新曲「もののけだもの」のリリースをアナウンスすると大きな拍手が起きた。そして「つくり囃子」のお祭りビートで再び盛り上げると、露崎のベースソロからラストは「MATATABISTEP」。大胡田のハイトーン、成田のシンセサイザー、4つ打ちのダンスビート。成田が楽器の前を離れステージをウロウロし始めると大胡田が思わず笑い出してしまうという一幕も挟みながら、オーディエンスの手拍子とともにライブは大団円。「PSPE TOUR 2022 ニュウ!」は幕を閉じたのだった。(TEXT:小川智宏)

<新曲「もののけだもの」 メンバーコメント>

●Vo.大胡田なつき コメント

そこにあるような、ないような。居るような、居ないような……もののけというなかなか曖昧なものをモチーフにしています。ジャケットの絵で『ケ』というカタカナを目立たせたのは『怪』や『気』など、それぞれ想像してみて欲しかったから。ぜひ、迷い込んでください。

●Key.成田ハネダ コメント

今年は1曲1曲をイメージの段階で、よりコンセプトを持って臨もうと思っていて、
且つ、その枠が強固であればあるほど壊した時にとても面白いものが出来そうな気がしています。
そうやって出来た音でたくさん遊べたら本望です。もののけだもの、どんな表情に見えますかね?
ぜひ、よろしくお願いします。

●パスピエ 【新曲「もののけだもの」配信URL】
https://big-up.style/ruFDS66IHv

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