「歌怪獣」というワードが9日、SNSのトレンドにあがった。「歌怪獣」はマキタスポーツが島津亜矢の歌唱力を形容したもの。この日、NHKの音楽番組『うたコン』に出演した島津は「帰らんちゃよか」を歌い、反響を集めた。SNSにそのワードが上がったのはその歌唱力に驚いたユーザーがつぶやいたものだった。音楽番組で歌唱すれば、公式サイトがダウン。島津の歌唱力は演歌界の枠を越え、注目を集めている。

ふつふつと沸いていた注目度

 島津は、演歌界では言わずと知れた群を抜く歌唱力を持つ歌手だ。14歳で作詞家の星野哲郎に弟子入りし、1986年に「袴をはいた渡り鳥」でデビュー。翌年には坂本冬美、石上久美子と共に「はつらつ3人娘」を結成。91年リリースの「愛染かつらをもう一度」では30万枚を超えるヒットを記録した。2001年には「感謝状~母へのメッセージ~」で第52回NHK紅白歌合戦に初出場している。

 その島津は2015年の『第66回NHK紅白歌合戦』に、親子の愛を歌った「帰らんちゃよか」で14年ぶり2回目の出場、以降、同番組に毎年出場している。島津の歌唱力が演歌界を越えて再び脚光を浴びるきっかけになったのが、翌年の紅白で歌唱した美空ひばりの「川の流れのように」。17年の紅白では、米映画『ローズ』(1979年11月公開)の主題歌で、ベット・ミドラーが歌った「The Rose」をカヴァー。18年には中島みゆきの「時代」を歌い、称賛を浴びた。この「時代」は今月6日放送の日本テレビ系『THE MUSIC DAY』などでも披露。歌うたびに公式サイトがダウンするなど大きな反響を呼んでいる。

 紅白では16年以降、カヴァー曲に臨んでいる島津。もともと演歌歌手の歌唱力はずば抜けており、ポップソングを披露すれば絶賛されることも多く、再注目されている。島津自身も演歌の枠を越えた試みもおこなっており、2010年10月にはポップカヴァーアルバム『SINGER』を発表。好評を得てシリーズ化もされ、18年までに4作品がリリースされた。更に「The Rose」に見られるように、外国曲やクラシックにも挑戦。17年には東京オペラシティで“演歌を歌わない”SINGERコンサート“を開催。クラシックの名門といわれる同所で、着物を着た演歌歌手が演歌を歌わないコンサートともあって話題になった。

一躍広まった「歌怪獣」

 15年の紅白出場以降、世間一般にも認知され始めた島津の歌唱力だが、一躍有名にさせたのはある男の言葉だった。

 「歌怪獣」

 俳優でミュージシャン、お笑いタレントのマキタスポーツが15年の紅白での「帰らんちゃよか」に感銘を受け、「歌怪獣」と名付けた。2017年6月放送のTBS『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』でもマキタは「歌怪獣」として絶賛。その年には、TBSの音楽バラエティ番組『UTAGE!』にも初出演した島津は惜しみなくその歌唱力は披露した。

 演歌界の枠を越え、一般にも広く知られるようになった島津。それが物語るように、2018年10月に発売したカヴァーアルバム『SINGER5』は、同年12月『第60回 輝く!日本レコード大賞』(TBS系)で企画賞に選ばれた。そのステージでは宇多田ヒカルの「First Love」を歌い、ネット上で話題に。今年に入っても日本テレビ系『今夜くらべてみました』や同局系『行列のできる法律相談』など音楽番組だけでなく、バラエティ番組への出演が増えている。

 そうしたなかで、今月6日放送の日本テレビ系『THE MUSIC DAY』で、中島みゆき「時代」を歌唱。その歌唱力に「鳥肌が立った」などの声がネット上に溢れ、さらに9日放送のNHK『うたコン』でマキタのギター伴奏のなかで「帰らんちゃよか」を披露。「歌怪獣」のワードがツイッターのトレンドに入り、さらに「歌唱力がすごい」と話題になった。13日にもTBS系で放送される『音楽の日』に出演する。

セールスにも影響、若い世代へ配信も

 こうした反響はCDセールスにも表れている。先の『UTAGE!』に出演した辺りから「着物を着た演歌歌手が歌うポップスカヴァーアルバム」として『SINGR』シリーズが注目され、その後にリリースした『SINGR5』を後押し。発売当初から好セールスを記録し、これまでに発売されたシリーズ1~4も含め追加注文が増えたという。

 また、紅白での「時代」の歌唱は若い世代から注目を集めることになり、CDが主要の演歌界にあって、今月3日から『SINGER』シリーズの全78曲をApple Music、Spotifyといった、主要ストリーミングサイトでの配信も始まった。ちなみに、CDのセールスも好調で、年明けから『SINGER』シリーズの注文は途切れず、現在まで5タイトル合計で「8万枚」の出荷となっているという。

 レコード会社も「『歌怪獣』と称される彼女の歌を是非コンサートでも聞いて欲しいと思っています。着物を着て歌う『演歌歌手』というプライドやモチベーションが根っこにあるので、こういったポップスのカヴァーをきっかけに知った若い世代が、彼女の長編歌謡やコブシを利かせた演歌の世界にも興味を持ってもらえたら」と期待を寄せている。

 歌怪獣、今年は日本列島を席巻する――。【木村陽仁】

この記事の写真

記事タグ 


コメントを書く(ユーザー登録不要)