弱さを見せる勇気も必要――、細田善彦 在宅医療に向き合った若手医師役
INTERVIEW

弱さを見せる勇気も必要――、細田善彦 在宅医療に向き合った若手医師役


記者:木村武雄

撮影:

掲載:19年04月26日

読了時間:約6分

 細田善彦が、映画『ピア~まちをつなぐもの~』(4月26日・金曜日公開)で主演を務める。病気で倒れた父の医院を継ぐため大学病院を辞めざるを得なくなった若手医師が在宅診療を通じて人との繋がりの尊さに気付いていく物語。17年に全国で1年以上劇場公開された映画『ケアニン~あなたでよかった~』のスピンオフ作品で、高齢社会の課題にも目を向けた。その主人公・高橋雅人を演じる細田は、NHK大河ドラマ『真田丸』で北条氏政の子・氏直を好演し話題を集めた。今作はどのような想いで取り組んだのか。鍵を握るのはコミュニケーション力。【取材・撮影=木村陽仁】

北条氏直から若手医師へ、在宅医療に向き合う

 記者もハマっていた、高視聴率を得たNHK大河ドラマ『真田丸』。そのなかで、高嶋政伸が演じる北条氏政の子で、後北条氏第5代当主の氏直を演じたのが細田だ。天下が豊臣秀吉へと流れるなかで、家督を氏直に譲りながらも、依然と強い発言力をもっていた氏政。そのなかで氏直は父を前に苦悶する。『真田丸』の氏政は狂気じみたところもあった。その高嶋を相手に細田は内に篭る複雑な感情を見事に表現していた。

――高嶋さんとの共演はいかがでしたか。

 細田「三谷幸喜さんの脚本には真田家を中心とする偉大な父の元に生まれた子供たちの話が書かれていました。北条家の父である氏政を演じられた高嶋さんとリハーサルで初めて対面したときに、あまりの迫力に戸惑ったことを今でも覚えています。何を考えているのか、何をしでかすのかわからない父・氏政がそこにいたのです。今と違って情報が出回る社会ではないですから、他の見本なんて、ないだろうと思い、父に憧れる、つまり真似るのではと、考えながら僕も高嶋さんに一歩でも近づける様に演じさせてもらいました。その結果、北条家はエキセントリックな強い意志を持った家系のイメージが出来上がっていったのかもしれません。その想いが強過ぎて小田原城が攻められてしまったのかもしれません…。その辺は是非、DVDで(笑)」

 ついつい個人的に『真田丸』の話を聞きたくなってしまったが、細田はこれまでに、TBS系『逃げるは恥だが役に立つ』や、日本テレビ系『3年A組―今から皆さんは、人質です―』など数多くの話題作に出演。先の『真田丸』にも表れているように実力俳優として高い評価を得ている。その細田が今回演じるのは、若手医師・高橋雅人。病気で倒れた父の医院を継ぐために大学病院を離れた雅人に待ち受けていたのは大学病院と在宅医療の医療に対する考え方の違いだった。

――オファーを受けた時はどう感じたのでしょうか。

細田「超高齢社会の今、在宅医療はこれからどんどん話題に上がるワードだと思います。それを真正面から扱った題材で、在宅医療を広めるという責任のある役割を担えたことに対して本当に嬉しかったですね」

――そのなかで撮影にはどのように挑んだのでしょうか。

細田「脚本には在宅医療への愛がピュアに書かれています。この愛をぼやけさせることなく、伝えることが、実際に在宅医療をやられている、そして、それに関わっている方々へのエールになると信じ、この映画に挑ませていただきました」

――演じるにあたって特にこだわったところは何でしょうか。

細田「主人公の感情が追えない瞬間があってはいけない作品だと思っていました。それは、主人公は高橋雅人ですけど、在宅医療にとっての主人公は常に患者さんですので、患者さんの選択の仕方をしっかりと観て頂きたかったし、観て頂いた方にご自身に置き換えて考えて欲しかったので」

――雅人の姿を通して在宅医療とは何かを描いています。

細田「撮影の前に実際の在宅医療の訪問診察にお邪魔させていただいたり、本や、インターネットで勉強はしましたが、僕が演じた雅人が在宅医療の世界に飛び込んでいく話なので、他の俳優さんたちが演じていらした、既に在宅医療に関わっている様々な業種の方々の言葉に素直に反応して在宅医療について高橋雅人という役を通して僕自身も学んでいきたいと思いました」

コミュニケーションの積み重ね

細田善彦

 地域医療を巡り意見がぶつかるケアマネージャー・夏海は松本若菜が演じた。また、『ケアニン』では主人公を演じた戸塚純貴や水野真紀、升毅や尾身としのりなどのベテラン俳優が脇を固めている。監督は綾部真弥氏。

――雅人は地域の人々に触発されて患者自身を診るようになっていきます。

細田「病院治療においては、病気を治すことがゴールですが、在宅医療ではそうではありません。大学病院から移ったばかりの雅人は“病気”を診ていましたが、在宅医療のチームと出会い、“病人”を診るようになります。お医者さんとしての役割がまるで違うのです。さらに、お医者さんだからという肩書きで形づくられた人格を松本若菜さん演じる夏海さんに『医者は偉いんですか?』なんて、言われながら、お医者さんフィルターを剥がされていきました(笑)」

――見事に夏海(松本若菜)にフィルターを剥がされてましたね。

細田「他に例をあげるなら、学校の先生とか、社長とか、組織の中で地位が高い方って、どこかその立場としての自分を人格形成しがちだと思うんです。でも、それって一歩、外に出るとその肩書きが人間関係を築く上で邪魔してしまうことがあると思います」

――会社とは関係ない場所でも社長として振る舞う方もいれば、会社は関係ないけど社長だから媚びを売る方もいるかもしれないですよね。

細田「結局は、お互いの歩み寄り方だとは思います。社長さんだけでなく、社会的に地位の高いポジションの方にとって、人に弱さを見せる事や、助けを求めることって慣れてないと思うんです。いやむしろ、社会的な地位が高いわけでもないですが、僕自身だって、人に弱いところを見せたくないです(笑)。ただ、在宅医療や、介護において、弱味を見せれる相手だったり、弱さを見せる勇気が必要なのかもしれません。それは、単純に人に頼ること。最期の選択だけではなく、日頃のコミュニケーションの積み重ねが後悔のない選択をするための絶対条件だと思いました」

――最期の選択とはどのようなことでしょうか。

細田「この映画は『最期の選択』というものを凄く重要に描いていて、つまり、どこで死にたいかということ。僕はこれまでは自分がどこで死にたいのかを考えたことがなかったんです。病院で死にたいのか、それとも自宅で死にたいのか、老人ホームで死にたいのか。それを誰かに伝えないといけないんですよね。その伝えるということにおいて、コミュニケーションが重要になるんです。実際、本音を伝えることができない方ってたくさんいらっしゃるようです。本当はお家で最期を迎えたいけど、家族に迷惑がかかるからと、病院やホームで最後を迎えることを選択する方。一方で、家族は迷惑どころか、家に戻ってきて欲しかった。そんなケースはとても多いそうです」

――そのためにも、普段からコミュニケーションを取るべきなんですね。

細田「自分の意思を伝えることって最期だけじゃなくて、沢山局面があると思います。例えば、学生時代に海外留学に行きたいとか、こういう会社に勤めたいとか親や友人に話すことはとても大事だと思います。人生を変えるような大きな局面で自分の意思を伝えることを、若い頃から培うべきだと思います。もちろん、反対されることもあるでしょう。でも、そこで、話し合って両者が納得すれば良いと思いますし、相手の話を聞くことも、コミュニケーションですから。そして、このように普段からコミュニケーションが取れていれば、最期の選択をしないといけない局面で両者の遠慮というものが、なくなりお互いにとっての最良の答えが出せる様になると僕は思います」

――ところで、普段は音楽を聴きますか? 音楽サイトでもあるので最後にお願いします。

細田「基本は聴き流しているBGM感覚かもしれないですけど、テンションを上げたいときに聴きたい曲ってありますね。曲も、コロコロ変わるんですけど今日の取材の前に聞いていたのは…Coldplay『Viva La Vida』でしたね。壮大な人生に対するエネルギーが湧いてくる歌じゃないですか? あ、ちょっと、古いですか?(笑)」

(おわり)

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