14歳シンガー・わたなべちひろが5日、東京・渋谷eggmanで、自身初のワンマンライブ『Chihiro Watanabe Concert 2019 ~旅立ちの春~』を開催した。オリジナル曲「Sing a song」など全14曲を熱唱。温もりのある音楽に、会場は幸福感で満たされていた。【取材=木村陽仁】

わたなべちひろ

 東京・有楽町のニッポン放送 イマジンスタジオでおこなわれた“お披露目ライブ”から約半年。季節は冬から春へと移り変わり、街には真新しいスーツや学生服に袖を通した人が散見された。陽も伸び長閑な空気だが、開演時刻はあっという間に訪れた。

 雑踏の音は、彼女たちの登場で歓声に変わる。やや緊張した面持ちだが充実感がうかがえる表情だ。ピアノの前に腰を添え、鍵盤に手を置く。バイオリン、パーカッションが音を紡ぐ。「Life is Beautiful」。心を躍らせるようにリズミカルなナンバーで幕は開けた。<顔を上げて 涙をふいて><世界の笑顔を作っているかも>。歌声を通して伝う言葉。自然と胸が熱くなる。

 拍手に包まれ、屈託のない笑みを見せるわたなべちひろ。14歳のあどけなさが残る。そして、2曲目「愛すべき世界」へと繋げる。<愛すべき 未来を信じている>。彼女の心情を投影するかのような歌詞。それを光でも表現するように、ピンクや赤のライトがステージを染める。

 2曲を終え、再び笑顔を見せるわたなべちひろ。「初のワンマンライブ。足が震えちゃうぐらい緊張しています。最後までどうぞ宜しくお願いします!」。震える声を押し殺すかのように大きな声で元気よく挨拶する。

わたなべちひろ

 そして、「次の曲は英語曲です」と紹介して「You will always be the one」。タイトルコールとともに暗くなるステージ。暫くしてピアノとバイオリンがしっとりと音色を奏でる。焚かれるスモークは、森林にかかる霧のよう。繊細な音のなかで際立つ彼女の歌声。終盤に向けて音色が細かく放たれる。その音像からは、森林を抜けた先に広がる美しい湖畔の情景が浮かぶようだった。

 ここまでオリジナル曲を並べた。以降はカバー曲が送られる。まずはCarole kingの「You've got a Friend」。そして、松任谷由実の「ダンデライオン」、更に、Jackson5の「I'll be There」。名曲中の名曲を彼女色に染め、届けていく。Celtic Womanの「You raise me up」でみせた彼女の伸びやかな歌声は大海原に悠々と飛ぶ渡り鳥のように、力強さと自由があった。

 改めて挨拶。「本当に聴いて下さり、ありがとうございます」。心から溢れ出る感謝の思いが伝わってくる。そして「大切な人や好きな人を思い浮かべて聴いて下さい」とオリジナル曲のバラード「君」。何度も出てくる<君が好き>という言葉。しかし、一つひとつ異なる強弱で歌う。強めたり、囁いたり、優しく添えたり。その強弱で、人との距離感を表現しているかのようだった。

わたなべちひろ

 感情が揺さぶられる。

 拍手が送られるなかで「ありがとうございます」と明るく挨拶する。そして、空間を変えるように、力強くカウントする。「Friends」。一気に明るくなるものの、その始まりは静か。Aメロはゆったりと進む。しかし、サビに向けて華やかになっていく。まばゆいライトによって場内の人影がくっきりと表れる。わたなべも大きく息を吸い、力強い声を吐き出す。童心に戻してくれるかのようなピュアなナンバーだ。

 「有難うございます!」。明るさは変わらない。

 「ラスト2曲となりました! 盛り上げていきますので楽しんで下さい!」

 そうして届けられる「365Days」。<雨の日も 風の日も 歩けるんだ>。軽やかに歩を進めるかのような明るいナンバー。その“ステップ”を引き継ぎ、ラストは「Sing a song」。跳ねるサウンド。メンバー紹介するわたなべは、音楽を心から楽しんでいるような表情をしていた。本編を終え、一人で立ち上がるわたなべ。頭を下げ「有難うございまいした」。

 彼女が去った後、場内には清々しさが残っていた。

わたなべちひろ

 まもなくしてアンコールが響く。それに応え再び登場。「たくさんの方が見に来てくれて本当に嬉しいです」。そして、アコースティックギターとバイオリンの編成で、自身は立ったままマイクスタンドに手を当て歌う。坂本九の「上を向いて歩こう」。そして、ピアノ弾き語りで、憧れのJohn Lennon「imagine」。

 最後は一人でAnnieの「Tomorrow」。アポロシアターで歌った曲。静かな始まりだが次第に力が入っていく。力が漲る歌声を響かせ歌を締めくくる。マイクから手を放して何度も「ありがとう」。上手や下手、中央に移動して観客に感謝の言葉を伝え、また、耳を客席に向けて歓声や拍手を感じる。その姿はこの空間から離れることを惜しむかのようでもあった。

 終演を迎え、明るくなった場内ではっきりと見える観客の表情。幸福感に満たされているもの、涙を流すもの。いずれにしても、彼女の温もりのある音楽は人々の心を潤していた。

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