盲目の14歳のシンガー、わたなべちひろが23日、東京・有楽町のニッポン放送 イマジンスタジオで初のソロライブを開催。「皆さんの前で歌うきっかけをくれた」というジョン・レノンの楽曲「Imagine」などを届けた。彼女の圧巻の歌声に涙を浮かべるものもいた。【取材・撮影=木村陽仁】

 生まれたときから、視覚に障がいがあった、わたなべは2歳の時に、たまたま聴いた楽曲をトイピアノで正確に弾いたことがきっかけで、ピアノ演奏をおこなうようになった。自己流ながらも才能を開花させ、2013年にはヘレン・ケラー記念音楽コンクール「ピアノ低学年の部」で優勝。

 昨年10月には、スティーヴィー・ワンダーやダイアナ・ロスも輩出したスターの登竜門と言われるニュヨーク・アポロシアター アマチュアナイトに出演。今年3月にはNHK総合のドキュメンタリー『イマジン そこに「境界」はない』が放送されるなど注目を集めているシンガーのひとりだ。

パワーを持った歌唱力に感動

 初のソロライブとなったこの日の会場は、ジョン・レノンの「イマジン」をモチーフにしたスタジオ。彼女が注目を集めるようになった同曲ゆかりの地だ。

 「日ごろお世話になっている人に聴いてい欲しい」(関係者・談)として、限られた観客を招いた。楽器編成はパーカッションとアコースティックギター、バイオリン、そしてわたなべは電子ピアノを弾き語るシンプルなものだった。

 しかし、その後、彼女の歌声に圧倒されることになる。

 歌の第一声を、ひっそりと息をひそめ見守る観客。そのなかで、わたなべはマイクを口に当て、大きく空気を吸い込みとゆっくりと歌い始めた。静かな出だしだが深みのある歌声だった。数小節進んだところで、パーカッションやギターの音色が加わると、楽曲は一気にグルーヴィーなものになった。跳ねるリズムに彼女の歌声も力を増す。まさにソウルフルだ。

 1曲目を終え、挨拶。

 「初めてのイマジンスタジオでのライブ。緊張していますが、心を込めて歌いますので、どうか宜しくお願いします」

 少し言葉が走っていたことからも緊張がうかがえた。

 2曲目は「So Far Away」。パワフルな歌声の合間に入るシンバルやウィンドチャイムの音。そうした音は、コードと同じように道しるべのような役割も果たしているように、この日は感じた。

 3曲目「You raise me up」からはバイオリンが加わる。まずは物悲し気な、しかし温かみのある音色をバイオリンが奏でる。そして、わたなべが命の鼓動のようにピアノの単音を一定の間隔で鳴らす。命が宿る頃合い、わたなべは再び大きく息を吸うとゆっくりと歌い出す。

 彼女は歌っている時、心の中にどのような絵を描いているのだろう。そんないらぬ詮索をしたくなるほど、彼女の歌声は伸びやかで力あり、奥行きがあった。壮大な歌声はこのスタジオが大自然のなかにあるような感覚にもなる。彼女の歌にはそうしたイマジネーションがあった。心と心が歌によって繋がるようだった。

ピアノの弾き語るわたなべちひろ

ピアノの弾き語るわたなべちひろ

 この日は、オリジナル楽曲も披露した。「You Will always be the one」と「君」。いずれも彼女の持ち前の歌唱力によって奥深い世界を見せていた。この日披露したなかで唯一の日本語詞の「君」は母国語ともあってまた異なる印象があった。

 歌詞に出てくる<君が 好き>。<君が>は張り上げるように歌い、<好き>では力を抜き囁くように歌う。

 <君>には様々な思いがある。<君>に込めた愛しく思う人。その言葉を力強く歌うことで、そのたった2文字から、その人との関係性、その人格、その人の背景、その人への想いが見えてくる。その後の優しく歌う<好き>と相まって、この曲の主人公の感情が鮮明に映し出された。

 それはいつしか、聴く者の大切に思う人に重なっていく。友人や恋人、家族など…。そうしたパワーを持った歌唱力によって想像は膨らんでいく。観客のなかには、その歌に宿るものに心を震わせ、目に涙を浮かべるものもいた。

ジョン・レノンと“繋がる”

 最後に披露したのは、思い入れのあるジョン・レノンの「Imagine」。歌う前、彼女はこう語った。

 「私にとって、とってもとっても大切な曲で、今まで数えきれないほど歌ってきました。皆さんの前で歌うきっかけをくれた曲で、皆さんに繋げてくれた曲です。このスタジオで歌えることに感謝しています」

 そうして披露した思い入れのある曲。歌声もそうだが、そこに乗る気持ちに覆われる。まさに圧巻の歌声、彼女に寄り添うように鳴らす楽器のアンサンブル、パワーを持った音楽に心が共鳴し、身震いし、そして鳥肌が立っていた。

花束を両腕にホッとした表情を見せる

 歌い終えた彼女をたくさんの拍手が迎える。観客からの花束を胸に、「緊張しましたが、終えてホッとしました。後半になって乗ってきたかな。楽しくできました」。一度、音楽から離れれば、14歳の等身大、あどけなさがある。

 そして、スタッフに手を添えられ、ステージ後ろを振り返ると、スピリットボードに刻まれたジョンの直筆「imagine」のロゴを手で触れて、確かめていた。

 なお、この日のライブの模様は、12月9日のニッポン放送『有楽町コネクテッドラボ』内で編成される特別番組内で放送される。また、2019年4月に初のワンマンライブが開催されることが発表された。

ロゴに手を確かめるわたなべ

ライブ情報

初のワンマンライブ

「Chihiro Watanabe Concert 2019 ~旅立ちの春~」
【日時】2019年4月5日(金) OPEN 17:30/START 18:00
【会場】Shibuya eggman (東京都渋谷区神南1-6-8 B1)
【料金】前売り 2,500円(税込)  ※ドリンク代別
※チケット詳細
https://l-tike.com/chihirowatanabe

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