音楽で強くなれる――、桜田通×高橋朋広監督 始まりの音『ラ』
INTERVIEW

音楽で強くなれる――、桜田通×高橋朋広監督 始まりの音『ラ』


記者:桂 伸也

撮影:

掲載:19年03月30日

読了時間:約17分

演技から楽曲まで――、慎平という人物の“らしさ”へのこだわり

桜田通

桜田通

――慎平という一人の男性についてですが、高橋監督はその役に桜田さんがピッタリだ、というのは最初から感じられましたか?

高橋朋広 そうですね。変な意味でなくて、実は本当に写真を見て決めたんです。もちろん芝居も全部見ているし、通くんのことは当然知っていたんですが、改めてこの慎平の役を探していた頃に通くんの写真を見たとき、自分の中でピッタリハマったんです。まさしく“慎平だな”と思ったので、オファーさせていただきました。

――逆に桜田さんとしては、それを聞いて「よっしゃあ!」という感じですかね?(笑)

桜田通 いや~あの写真を撮っておいてよかったな、って(笑)。宣材写真なんですけど、普通に正面を向いて、よくわかんないような表情をしている写真(笑)。ただそういう感じというか、僕を切り取ったら多分、本当によくわからない人なんですよ、表情とかも。“何を考えているのかよくわからない”、って。でもそれが慎平に合ったんだと思うと、僕は“こう生まれて僕はよかったな”と思って(笑)

高橋朋広 “こう生まれてよかった”って…スッゲー話が大きくなったな(笑)

――ちなみに映画では、ライブハウスでプレーされるシーンが見られますが、ああいったシーンは桜田さんとしては慣れたもので?

桜田通 いや~あの曲を弾くのは難しかったので練習しましたけどね。また、ライブは普段からやっているし、プレーに関してはそんなに意識しなかったので、慎平としての感情と気持ちだけを背負って、あとはいつもやっているようなものを心がけました。

――考えることが増えると、演奏しづらいな、というのは?

桜田通 いや、大丈夫でした。まさしく慎平としてライブをやった感じです。

――監督から見ていてもそういう感じはありましたか?

高橋朋広 そうですね。通くんは、それに関してずっと一貫していました。一つ一つの所作や動きに対して、慎平としてどう動くか、ということを常に考えてやってくれたと思います。楽曲では詞も書いてくれているんですけど、それも桜田通という人格ではなく慎平として、彼のいろんなヒストリーがある中で作られたもの。あのシーンはたまたま、映画で切り取られた瞬間でしかないんです。楽曲に対してもあの当時の慎平が書いたもの、という目線で詞を書いてくれたから、本当に素敵な詞になっていると思います。

――ちなみに音楽に関しては、担当のクボナオキさんには“こういう風な感じにしてほしい”というリクエストなどはされた上で、制作は進めていった感じですか?

高橋朋広 そうですね。最初は劇中の重要なシーンの曲を作ってもらいました。また劇伴に関しても贅沢な作り方をさせていただいていて、映画の編集がある程度仕上がってきたところで、クボさんのスタジオで、二人で画を見つつ打ち合わせをして、劇伴のラフが上がってから、クボさんの作った曲をはめて再び編集をするという、編集と音楽でキャッチボールをする感じで作らせていただきました。

――全般的に音楽がわかりやすいというか、明確なイメージを感じました。ちなみに桜田さんが劇中で歌われた曲も、クボさんが作られた曲ですよね。

高橋朋広 そうですね。基本的にバッハの曲以外(笑)は、全部クボさんに作っていただきました。

――桜田さんはいかがでしたか、クボさんの曲を演奏してみて?

桜田通 僕は、普段ライブをやっているときは、自分で作った曲をやっていることが多いので、人の曲に歌詞を書くというのがすごく新鮮でした。最初は“自分で作れるから、自分で作ったほうがいいんじゃないかな”と思ったんですけど、クボさんに作っていただいた曲を聴いた瞬間に“もうお願いします”みたいになっちゃって(笑)。メッチャいい曲じゃない、これ! って思いました。いや~人に頼るべきだな、と(笑)。

 でも本当に監督の思想もちゃんと入っていると思いましたし、クボさんは多分キャッチーな曲を作ることも、狙ってできる人だと思うんですけど、そのできてきた曲がちゃんと“慎平たちが作りそうな曲”と感じられたのが、すごいなと思いました。やっぱりプロの人だなって。

――その“慎平たちが作りそうな曲”ということをイメージするのが難しいですよね。“果たしてそれは、具体的には何なんだろう?” って。

桜田通 そうですよね、それはやっぱり人それぞれの価値観によるところもあるので、映画を見ていただいた人たちにアンケートをとりたいです、“この曲って、慎平たちが作ったっぽい曲ですか?”って。それをたずねたときに、僕は、過半数が「そう思う」と言ってもらえるんじゃないか、と思えるくらい、整合性がとれていると思っています。

 具体的にいえば、真っ直ぐで、しかもコードもメジャーで、ポップだし、元気な曲だし。すごくなんか慎平の情熱というか、夢に向かっていきたいんだ、というところが、曲やギターのリフなんかにも現れていると思っています。スカッと、聴いていて気持ちいいぜ、みたいな、あんなライブハウス映えする曲みたいなものって、すごく慎平たちが作った曲、ということに説得力があったので。そういう曲を用意していただいたことって、すごく慎平にとっては嬉しいことだと思います。

――確かに見ている画からも、音楽からも何か気持ちがじっとしていられなくなるような高揚感がありましたね。少し目線を変えておうかがいしたいのですが、『ラ』のストーリーでは、生まれ変わるという意味合いも感じられました。もしご自身にこういう機会があるとしたらどのように思われますか?

桜田通 自分の人生において、ですよね。何だろう…。

高橋朋広 ムズいね…後悔の懺悔、みたいな(笑)。あれ、やり損ねた、みたいなさ。

桜田通 僕は人生って、すべて結果論だと思っているんです。だからすごく今最悪の状況だとしても、一年後に最高だったら“その一年前の最悪の状況がなかったら今、自分が噛み締めている幸せは無いのかもしれない”と思ったり。そう考えると、それを失うのが怖くて、やり直せないです。

 昔読んだ小説に『スターティング・オーバー』(三秋縋 著/メディアワークス文庫)というのがあったんですけど、すごく幸せな人生で、10年前にタイムスリップしちゃって、すごく自分の人生が大好きだったから、何かその通りに生きたい、同じ人とつきあって、同じ人と結婚して、同じ職場で働きたいと願っているのに、同じようになぞりながら生きていても、何か一つ変わっちゃうだけで、何もうまくいかなくなっちゃう、というストーリーなんです。そういうものを読んだから、そういうことを考えるのかなとも思うんですけど。

 だから先程も言いましたが、僕がこの顔で生まれてこなかったら、僕は今日この取材を受けていない可能性のほうが高い、という意味ではそれはすごく嫌なことなんです(笑)。もちろん、やり直したいと思った瞬間もこれまでいろいろあったけど、ちょっとそれで今がなくなっちゃうのかなと思うと、やり直すのは怖い。特に生まれ変わりたくもないかもしれないです。

高橋朋広 それはすごくわかる。基本嫌なことも、前振りだもん。常に嫌なときなんて、ラーメン食べるために長い行列に並んでるくらいにすぎないというか(笑)。その並んだ時間があるから美味い!って思える。何だって嫌なことがあるからこそ、いいことが輝いて見える。あのときやった嫌なことが、全部結び付いてるんだなぁって思うこと、結構あります。

桜田通 嫌なことすら、愛さなければいけないですけどね。どっちがよかったかなんて、わかんないです。2回生きて、選べと言われたらわかるかもしれないですけど。

高橋朋広監督

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高橋朋広監督
桜田通
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高橋朋広監督、桜田通

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