共通の最大公約数でお互いを主張しながら演奏
――踊らせるというのは、グルーヴというものがすごく大切になってくると思うのですが、上妻さんが考えるグルーヴとは?
例えば民謡でしたら、生活から出てきた作業歌なので、その土地の言葉のリズムが言語によって違うんです。その言語と生活から生まれて来たものが音楽になっていくんです。その土地の生活のエネルギーが、国や各ジャンルのグルーヴの違いなのかなと思います。グルーヴはその土地の様々なものがぶつかり合って出来上がっていきます。その土地の民謡を知ることで、違うジャンルに行った時でも、違う土地のグルーヴを入れることによって、そのシーンが馴染むところがあったり、逆にこのリズムは「どうだ!」と主張して提示したり、そのベーシックがあるかないかというのは大きいと思います。
――上妻さんは茨城出身で、津軽三味線は青森がルーツなのですが、そこでも違いが出てくるということですよね。
同じ民謡でもグルーヴは違いますね。その違うもので提示したり、時には反発し合ったり。そういったものを常に考えながら、感じながら演奏しているわけです。即興で演奏するときも、相手のリズムに乗っかるわけですけど、ちょっと違う感じのものを差し込んだりします。その“うねり”が面白いんです。
――そうなると相手の実力も見えますよね?
そうですね。それは隠せませんし、ミュージシャン同士が一番わかるポイントです。勝ち負けとかではないんですけど、しっかりコミュニケーションが取れたかどうかが重要になってくるわけです。提示したけどスルーされてしまうこととかもあって、それは寂しかったりしますよね(笑)。会話なんかと一緒で盛り上がって終わったら良い話が出来た、音で良いコミュニケーションがとれたなとなりますから。
――こういった取材での会話もセッションと同じだということが言えますよね。なんだか話すのが怖くなってきました(笑)。
ははは(笑)。本当に会話も同じですよね。人間は合う、合わないということを出会って10秒ぐらいで判断、選択しているという話を聞いたことがあります。音楽でも同じで何小節かやったら「こういうグルーヴか」と判断していますから。その中で違和感がある人もいれば、「この人、やり易い」という人もいるわけで。
――プロの方々はそれを瞬時に判断して臨機応変に演奏されているわけですね。
自分を主張してやっていけば良い話で、今回のアルバムでも相手に寄りすぎるとつまらないし、僕に寄りすぎてもつまらなくなってしまうんです。共通の最大公約数で遊べるポイントがあって、その時々でお互いを主張しながら演奏していきます。こういうのがあるとやっていて楽しいんです。それが相乗効果で良くなっていくわけで、これは音楽だけではなくどのジャンルでも言えることだと思います。
――私は取材でもそうなのですが、何事でも出だしで失敗すると、その後が難しく感じることがありまして、出だしをすごく重要視していますが上妻さんはいかがでしょうか。
もちろん出だしは重要なんですけど、その後にどうやって持ち直すか、復活するかというのも面白いと思います。途中で相手を引きつける何かを出せて、そこから盛り上がって最後が良ければそれでいいわけですから。演奏していて「ちょっとやばいな」と思うときもあるんですけど、そこを粘ることで途中からすごくいい演奏になっていくこともありますから。
――諦めてはいけないと。
そうです。今作でもライブのような感じで一発で録った曲もあるのですが、前半クールに進んでいたとしたら、途中でふっかけるわけです。相手に「おっ、違うアプローチだな」と思わせることでより集中してきたり、ワクワクしてきたりしますから。そのコンマ何秒かに、行けるか行けないかというのが重要なんです。1球だけでは怖いかもしれないので、球種の違うものを2球、3球と用意しておくのが良いかなと思います。
――準備も重要で。
出だしで失敗ということに関しては僕の場合、「三味線か…」と思われてしまったら、もう聴いてもらえないわけです。それをどう聴いてもらうかという、そのきっかけのために色んなジャンルにトライしたり、今回はEDMという三味線とはかけ離れたジャンルの音楽とやることで、僕の音が届いたらいいなと。今作にはEDMではない楽曲も入っているのですが、EDMをきっかけに聴いてもらえたらという思いもあります。三味線というのはすごく不器用な楽器で、日本人の中でも縁遠くて、アンサンブルをするというのも難しいんです。




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