そらる、なぜ支持を集めるのか 「歌う」「作る」ことの本質 シーンと共に歩んだ10年
INTERVIEW

そらる、なぜ支持を集めるのか 「歌う」「作る」ことの本質 シーンと共に歩んだ10年


記者:木村武雄

撮影:

掲載:18年11月28日

読了時間:約16分

シーン発展の背景に技術の進歩

――今年、活動10周年になります。この期間のシーンを振り返ってどう思いますか?

 始めた当時のシーンは今よりも全然規模は小さくて、自分が初めて上げた動画は100再生もいかないくらいでした。そもそもネットに動画を上げるということ自体がポピュラーではなかった時代、良くも悪くもまだグレーな時代でしたね。自由に歌を歌ってその動画を投稿する、という感じでした。

 それは何か目的があって始めた、という訳ではなくて、CDを出したいとかプロモーションをしたいとかではなくて、ただやりたくてやるだけで、楽しんで歌ってそれを楽しんでくれる人がいて、ただそれだけで動機としては純粋。だからこその楽しさと、ワクワクして観るものがそこにあったのだなと思います。

――いわゆる「歌ってみた」「踊ってみた」ですよね。注目を集め、なかにはインディーズレーベルからCDをリリースする方もいました。今では日本の音楽シーンの一角を担っています。その点はどう思いますか?

 シーンが盛り上がるにつれて「じゃあライブをやってみようか」「ではCDを出してみようか」という人が増えてきて、更にそこからメジャーレーベルからCDを出すという人が徐々に増えてきて。自分も同じように、いつかのタイミングで声をかけて頂いて、5年くらい前にアルバムを出させて頂いたんですけど。こうした音楽を聴く人が徐々に増えて、それで、そうしたことができるようになったという感じでしたね。

――2000年以降、オタク文化であったアイドルシーンが一般に受け入れられた、というのに近いものがありますよね?

 自分の認識としては、ヴィジュアル系バンドブームの方が近いような気がします。90年代や00年代ぐらいかな、V系バンドがメジャーデビューをして。それまではけっこう地下で盛り上がっていたというか。一部の層が盛り上がって、その規模が大きくなってメジャーシーンに行くというか。

――その頃ぐらいですよね、メジャーとインディーの垣根がなくなり始めたのは。今はそれが顕著に表れていますが、その点についてはどう思いますか?

 技術の進歩とかによってそうなっていったという部分もありますよね。昔はレコーディングもスタジオでないとなかなか難しい部分があったと思いますし。DTMが出てきて今ではどんどん自由に作れるようになっていって、プラグインや機材も安価で手に入りやすくなったことも大きいですよね。何なら全部自分でやった方が、自分が思うクオリティも保証されているんじゃないかと。どんどん自分で技術をつける人が出てきた結果、同人文化のクオリティが上がっていったんだと思います。

 ただ、メジャーとインディーズどちらがいい、ということではなく、どちらもどちらの良さがあると思います。自分は今、宅録でやっていますが、それが良いのか悪いのかというと、良さも悪さもある。時間に制限もないし、自分が好きなタイミングで好きなように歌うこともできるので、めちゃくちゃテイクを重ねることもできる。自分の場合は、数百のテイクを普通に録るので、だからこそ突き詰めることもできるんですけど、疲れて判断力がなくなってくることもあります。同人文化の良い所は、自分が好きな曲を自分が好きなように歌える「歌ってみた」の文化に近いと思うんです。

 プロのアレンジャーさんとかが関わってくればクオリティが高いものにはできるけど、それが音楽の直接の良さかというと、質の高さがそのまま音楽の魅力にはならないなというか。歌も上手い下手が良い歌かというとそうではなくて。荒削りの方が本人らしさが出ていて良いと思うかは、聴き手に委ねられる部分じゃないですか? それって曲に対してもそうで、アレンジの知識がついてくることによって、ありふれたものになってしまうという気がして。クオリティの高さが直接その音楽の良さというのはまた別じゃないかなと思うところもあります。インディーズならではの良さも絶対あるなと思いますね。

――本来であれば理想形に達した時がゴールなのかもしれませんが、商業ベースで考えた場合、締め切りというものがありますよね。追及できる時間が限られていて、特にこういうクリエティブなものはどこに目標を設けるか、というのが難しいと思います。

 やっぱり過去に出したものの中には「もっと良く出来たな」というのもあります。締切りはかなり重要な問題ですよね。こだわりだすとキリがないというのは間違いなくありますね。

――自分が好きでやっているものと、ある程度ニーズを意識しないといけないもの、それらに関してはどうですか?

 自分が活動していくなかで、投稿した動画に対して、「そういう歌は合わない」とか「こういう歌い方は気に入らない」という意見はたくさんあるじゃないですか? それが気になって過敏になった時期もやっぱりあって。そうなってくると尖った部分がどんどん薄れてしまう。そうなった結果、中途半端なものしか残らないというようなことはありましたね。

 自分でも良いと思えないし、聴いてくれている人も今まで好きで応援してた人も「何か違う」というような、そういう時期もあって。なので、基本的に人の意見って聞いちゃ駄目だと思っています。色んな人の意見を聞いていたら結局、何の角(かど)もない音楽になると思うし。自分が信じるものが一番良いものだと思うんですよね。

 急に注目されて聴かれるようになって、それによって自分が良いと思っていたものが良いものではないんじゃないか? と思うこともあった。けれど、それは良くないなって。だから、人の意見は聞くのをやめようと思うようになりました。自分が良いと思ったらそれで良いと思っています。

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